三章 コンテスト・二
「お待たせしましたぁ!」
サンジェルマンが私を引きずって行った先は入場口の袖だった。
そこにはすでに綺麗に着飾った四人の女性達が控えていた。言うまでもない、花嫁候補者達だ。
候補者達からは、とても冷ややかな視線をいただいた。
それもそうだろう、一人だけ遅刻してきたのだから。しかも一番格下の人間が重役出勤すれば、印象は最悪間違いなし。ま、元々私の印象何て最悪だと思うけど。
係の人が私の姿を確認すると、会場にいる人に合図を送った。
ニーナが何か言おうと口を開きかけたが、それは言葉にはならなかった。
会場の方から「それでは候補者のご紹介でーす!」と、割れんばかりの歓声やら雄叫びやらが聞こえてきたからだ。とにかくものすごい大勢の人の声が聞こえてきた。
「うるさっ……!」
あまりの声の大きさに驚き、私は思わず耳に両手でふさいだ。
「それでは候補者の皆様のご入場でーす!」
外からその言葉が聞こえるやいなや、さらにヒートアップした歓声が聞こえてきた。
その言葉を合図に、係の人が私達を引率して闘技場の中へと進み出した。
私は一番最後にいたけれど、進み出しそうにないとサンジェルマンが察知したのか、私の背中を押した。
「わっ!?」
「いってらっしゃ〜い、セリさん!」
ちょっとよろめきかけたけど、すぐさま体勢を整え押し出したサンジェルマンを振り返り文句をつけようとしたができなかった。
よろめいた時に闘技場へ出てしまったので、私の姿を見た観客が興奮してすごい歓声を浴びるはめになったからだ。
こうなれば後を振り向いてなどいられない。前に進まなければ候補者どころか観客全員からブーイングの嵐を浴びることになる。
(あの男っ……!)
私は怒りで震える拳を握りしめ、観念して前を歩いているニーナの後を足早に追った。
闘技場の中央に、ちょっとしたステージが組まれていた。高さはそれほどなく、階段五段分程度の高さだ。
ステージは長方形で、床は高級そうな石畳。
設置してある椅子もテーブルももちろん高級品。
屋根とかはなく、観客全員がこのステージを観れる様に作られている。
司会者の男性が候補者全員、ステージに揃ったのを確認すると、拡声器を使って告げた。
「皆様、大変お待たせしました! 只今より、我がヘルブラオ国第一皇子・リーンハルト殿下の花嫁選びコンテストを開催いたしまーす!」
おおーっ、と、会場中が待ってましたとばかりの歓声をあげる。
「まずは我がヘルブラオ国、皇帝陛下より開会のお言葉です! 皆様、ご静聴下さい!」
司会者がそう言うと観覧席が徐々に静まりだし、完全に静まると王族専用らしい豪華な作りの観覧席にいた皇帝陛下が席を離れ階下に行き、そこに設置してある拡声器に向かって話し出した。
「我が国民、並びに他国から来た客人達よ。本日は我が息子、リーンハルトのために集まってくれたこと、礼を言おう。今回の候補者の中から、未来の娘となる女性がいることを親として、皇帝として心から願おう。皆もどうか暖かく見守って欲しい。では候補者達よ、健闘を祈る」
観覧席からは歓声と拍手の嵐が巻き起こった。
皇帝陛下が席に戻ると司会者が「続いては今回のもう一人の主役、リーンハルト皇子殿下からのお言葉です!」と告げた。
皇帝陛下と入れ替わるように、今度は皇子が階下に行き、拡声器の前に立つと観客達もしんと静まる。
「ここにいる皆、今日は私のために集ってくれたこと、心から礼を言う。そして候補者達よ、私が其方達にとって価値ある伴侶であると思うならば、正妻の座、勝ち取ってみよ。では、健闘を祈る」
淡々とそう挨拶をすると、さっさと皇子は席に戻った。
だが、観客達はそんな言葉でも盛り上がり、歓声と拍手が先程より強く巻き起こったのだった。
挨拶が終わると、司会者の男が場を仕切り直した。
「続いては、皆様お待ちかねの候補者方のご紹介! 最初の方は、フラージュ国でも輝くばかりの美しさと才女の誉れ高い、フラージュ国王のご息女、クロード・エミリエンヌ・ド・フラージュ王女殿下です!」
紹介されたクロード王女は、闘技場の観覧席にいる皇子達に一礼してから、観客全員に一礼をした。
その一挙手一投足が優雅で、気品溢れる物腰はさすがだなぁと思って見ていた。これぞ王族という感じ。
「続いては、リーンハルト皇子殿下の従姉妹姫でもあられます、イリッシュ国セルデン公爵ご息女・マルヴィナ・オブ・セルデン王女殿下です!」
マルヴィナ王女も観覧席にいる皇子達に一礼すると、にっこりと太陽のように明るい笑顔で観覧席の人達に手を振って挨拶をした。
「次は我がヘルブラオ国からの候補者、バスラー伯爵様のご息女・ミリヤム・フォン・バスラー姫でーす!」
ミリヤム姫も皇子達に一礼し、観覧席の人達に毅然とした笑顔で挨拶をする。
「次も我がヘルブラオ国からの候補者で、商人ギルドの長、ボレルの令嬢・ニーナ・ボレル嬢です!」
ニーナはあがっているのか、ぎこちない動作で皇子達に一礼すると、引きつった表情で観客に挨拶をしている。
「それでは最後の候補者で、遠い東の異国からやって来たご令嬢・ハヤカワ・セリ嬢でーす! セリ嬢は、なんと皇帝陛下ご推薦の方であります!」
『皇帝陛下の』というところに観客達は反応して一瞬どよめきが入るが、すぐに他の候補者達と同じ様にわーっという歓声に戻った。
私も皆と同じ様に、皇子達に一礼してから観客達に一礼した。
候補者全員の紹介が終わると、司会者がコンテストのルールと今回の試合について説明を始めた。
試合の勝利者決定方法は、その試合ごとに違うということ。
試合内容もどういうものかは事前には知らせないということ。
大体こんなところだった。
そして、今回の試合(課題)はといえば……。
「第一の課題は基本中の基本! 我が国、ヘルブラオについてです! そして出題者はこちらの皆様からでーす!」
司会者が腕を入場口の方に向けると十人の男女が入場してきた。
しかも年齢・身分もバラバラで、いかにも貴族という出で立ちの人や、聖職者、下町のおばちゃんやおじちゃんになんと子供までいる。
それを見た候補者全員が驚きの表情を示した。出題者がこんなに大人数で、しかも年齢・身分もバラバラなら驚くだろう。もちろん私もびっくりした。
観客も同様で困惑でどよめいている。
「皆様、驚きのこと、よーくわかります! ですが候補者の応募も王侯貴族の方から庶民までと幅広くいたしました。それ故、問題も幅広く出さなければ不公平。それならば各階級の皆様から直接出題してもらおうということになり、ご協力いただきました!」
観客が、おおーとどよめく。
候補者達はニーナ以外はすぐに平静に戻った。
少なくとも表面上は。内心はどうだか知らないけど。
私は落選しようと構わないのでいたって気楽だ。
ニーナはそれを余裕と見たのか、私に嫌味をぼそっと言い始めた。
「さすが陛下のお気に入り。個人授業でこのことを教えてもらったのかしら。だからそんなに余裕なのね」
私は面倒なので無視したがそれがまた気に入らなかったらしく、さらに攻撃してくる。
「いい気になってられるのも今のうち。あんたなんかには絶対に負けない!」
最後に私をぎっと睨むとフイと顔をそらした。
(あー、はいはい。勝手に吠えててクダサイ)
私は心の中でそうい言い返した。




