ああ、異世界よさらば!!
偶に捻くれたものが書きたくなるけれど、結局設定を練り込まずに書くためか、何が言いたいのか判りにくいですね
その日、キュロスは退屈していた。家の窓から覗く青々とした空を見上げながら鬱屈した表情で空を仰ぐ。憎たらしいほどの快晴が大地に緑の恵みを与えているが、そんなことは彼にとってはどうでも良かった。少しばかり寒気のする空気を避けるためにベッドの中へと身体を埋めた。
世間ではモンスターの大群がどうだとか、魔族がどうだ、帝国がうんたらかんたら、と騒がしいようだが、彼と彼の周りの人物たちにとっては些細な問題であった。
ウィーンウィーンウィーン。
機械が動く音がする。キュロスは何のことも無しにそちらを見た。そこにはずんぐりむっくりな胴体に丸っこい手足がついた分子機械人形がせっせと畑に生えた雑草を取り除いていた。名前はタロス。キュロスが持つ分子機械人形のうちの一体である。
「あー、うん。それ終わったら薪割りもお願い」
キュロスの言葉に頷くようにタロスは首肯した。彼には簡易的な人格プログラムを組み込んであるために簡単な命令なら言葉に出すだけで実行してくれる。事態に対応して臨機応変に対処してくれることから分子機械人形達はキュロスにとってとても便利な存在であった。
勿論、このような分子機械人形は王国や帝国にも存在していない。というか、彼以外にはその一片ですら作り出すことは無理だろう。それどころか、分子機械人形が動いている原理すら理解できない可能性が高い。それが半ば、引きこもり状態と化しているキュロスにとってのささやかな矜持であった。
彼は、キュロスは実験のさなか事故によって時空の壁を越えた異世界からの来訪者であった。
キュロスはせっせとタロスが働いている様をぼんやりとしながらただ見つめていた。思い出されるのはあの時の事故。彼がこの糞ったれな世界に来てしまった原因である。
キュロスは元の世界ではいっぱしの技術者として会社に勤めていた。彼の仕事は会社や顧客の提案を受けてそれに合わせた武器を設計するものであった。彼は軍事会社の武器設計を専門とするエンジニアであったのだ。
技術の進歩は進むところまで進み、今や人類は宇宙空間へと繰り出すことを可能としていた。幾つもの国家や団体が各々船団を編成して宇宙へと新天地を求めて旅立つ大航宙時代が幕を開けていた。それを可能としたのは距離の概念を不確かにする、通称“引き出し理論”と呼ばれる理論が提唱されたことに端を喫した。
引き出し理論とは簡単にいうとアインシュタインの相対性理論を一時的に誤魔化すために唱えられた理論である。アインシュタインの相対性理論をざっくりと説明するならば光の速度よりも速いものは存在しないことを意味づけている。そのため、アインシュタインの相対性理論が適応される限り、光速を超えることはできず、遥か遠くの人類の新天地へとたどり着くことを困難にしていた。何億光年という距離を馬鹿正直に飛んでいくなんて無理だというわけである。
しかし、人類の野望は果てしなく一時的にとはいえアインシュタインの相対性理論を無力化することに成功する。それが引き出し理論であった。引き出し理論とはいくつかのブレイクスルーの果てに生み出されたものであり、要はこの世界とは別の法則を用いて一時的に相対性理論の適用外にその身を置くことを求める理論であった。
引き出し理論の提唱する超小型マイクロブラックホールのシュバルツシルト半径を超えて異空間を引きずり出すという一見無茶な試みは神のいたずらかなのか成功してまったのだ。
そうして始まった大航宙時代。それは法律も何もない無法時代の訪れの再臨でもあった。いくつもの国家が衝突しあい、分裂し、ありとあらゆる惑星を改造していったのだ。
彼はそうした時代に生まれ、ごく普通に生活し、ごく普通に就職した。元々メカニック志望であった彼はたまたま内定が取れた軍事会社に就職。会社の指示に従って淡々と兵器を作る日々を送っていた。
それなりに彼は優秀だったのが問題だったのだろう。ある時、次元障壁の新型の基礎研究として小型の次元泡発生装置の設計を行っていた。どうせなら、とキュロスには珍しく欲を出したのが問題だったのだろう。小型の手榴弾としても扱えるように少しばかり設定を弄ったところで問題が起きた。設計案をもとに分子機械工場で作り上げた超小型次元泡発生装置は想定以上の大きさの異界を呼び出し、ついでとばかりに彼を飲み込んだ。
気が付けば、森の中。いくつかの仕事道具とともに彼は人類の英知あふれるSFの世界から想いさえあれば何でもできる糞ったれな剣と魔法の異世界ファンタジーへとトリップしていたのであった。
そこまで思い出したところでキュロスは思考をいったん止めた。そろそろ、あの時間だ。
すると、
「おはよーございますっ!! キュロスさんっ!! 今日もいい天気です!!」
どんどんと扉を叩く音と共に甲高い声が響き渡る。
「あ、はいはい。起きてますよ。今出るからちょっと待て」
そういってキュロスはのっそりとベッドから這い出し、扉を開ける。そうして、視線を少しばかり下に向けてやるとそこには薄い桃色のかかった金髪の少女がいた。
「おはよーございますっ!! キュロスさん!! タロスちゃんにだけ働かせるのはよくないと思いますっ!!」
キンキンと響く甲高い音は幼女特有のものである。
「おはよう……。シャロンちゃんは今日も早いね」
「はいっ!!」
彼女はシャロン。苗字はない。綺麗な金髪を持つ美幼女ともいうべき子である。彼女はキュロスが腰を落ち着けるために移住した村にすむ子どもである。
「今日もお話してくださいっ!!」
彼女は抗して朝になるたびにここへきてキュロスにお話をせがむ。キュロスはこの異世界ともいうべき場所へと着いた時、初めはどこかの開拓惑星だと思っていた。そのため、物珍しさや帰還方法のための手段を模索するべくあちこちの地域を巡っていた。結局、ここは開拓惑星でもなんでもなく自分の全く知らない、いわば異世界ともいうべき場所であることが分かったのだが。
「どんな話にしようか……。もうそろそろネタ切れなんだよな」
キュロスはううむと唸る。連日連日来るシャロンのお願いを聞いていると流石に話すネタが尽きてくる。偶に適当な作り話を混ぜることもあるが、アドリブがそれほど得意ではない彼にとってその手段はなるべく取りたくはなかった。
「キュロスさんの昔の話をして!!」
此方を見上げる様に頼み込んでくるシャロン。キラキラとした上目づかいにウっとなりそうになる。昔の話はあまりしたくはないのだ。この村に住むときにこの世界に来てからの来歴みたいなものを適当に喋ったが、それすらもこの閉鎖された集団に住むシャロンにとっては珍しかったようだ。こうして偶にキュロスの昔話をせがんでくることがある。
「う~ん。そんなに話すことはないんだけどな」
「キュロスさんが冒険者をしていた時の話をして。キュロスさんってC級冒険者だったんだよね?」
シャロンのリクエストを聞いて渋面を作りそうになるキュロス。
「ううむ。あんまり話すネタが無いけどなぁ……」
そう言いながらも彼女が興味を持ちそうなエピソードを記憶の底から引っ張り出して聞かせるので彼は大概真面目な性分であった。
冒険者とはなんかどこかのゲームで見たような設定のアレである。冒険者とはこの世界に巣食う魔物と呼ばれる生活資源もへったくれもない繁殖速度で増え捲る生命体をぶちのめして金を得る荒くれ者どもの集まりである。キュロスの世界における民間軍事派遣の会社と似たような集団であった。
初めは金銭を得る手段として考えたというよりもそこでもらえるギルドカードという摩訶不思議な身分証明書を得るために門をたたいたのが初めであった。
「というわけで、オークの群れは爆発四散。かくて村の平和は守られたのでした」
「おお~」
ちょこんと椅子に座ったシャロンはぱちぱちと手を叩いた。だが、この話は特に大したことはしていない。侵攻ルートに地雷を設置しまくって村人たちの前でむにゃむにゃ言っていただけである。村人たちは爆発するオークたちがキュロスの魔法であると勝手に勘違いしただけである。しかし、こんなことはシャロンに勿論教えることはない。キュロスは子どもの夢を壊すことなどはしない。
目を輝かせていたシャロンであったが、キュロスの話が終わると、聞いて聞いてとばかりに、
「そうだ、キュロスさん!! 昨日、おじいちゃんに聞いてね。私、魔法が使えるようになったの!! 「火魔法適性」の恩寵が「火魔法」になったって!!」
満面の笑みで魔法が使えるとはしゃぐシャロン。
「へぇ~。すごいね。「火魔法」は便利だよ。いろいろと」
キュロスの言葉に満足したのかえへへ、と笑うシャロン。対するキュロスはどことなく投げやりであった。
恩寵、ギフトやスキルなどと呼称されるそれらはこの世界の法則の一つであった。魔法と呼ばれるものが存在するだけではなく、この世界にはレベルやスキルといったこれまた、ヤポネ民族発祥のゲームに出てくるような設定が存在していた。それらスキルは初めから持っていたり、なんだかんだであとからは生えてきたりするもので、この世界ではとてつもなく重要視される項目の一つであった。ギルドカードなどはそのスキルやレベルを表示することのできるとにかく便利ですごい何かであった。「鑑定」スキルの様な珍しいスキルを持っていれば同じことが出来るという説明を受けた時、人の才能や名前個人情報などを一切の保護なく丸裸にもできると聞いて、これまで自分の作った情報収集用のドローンは何だったのかと馬鹿馬鹿しい気持ちに慣れたのは記憶にも新しい。
更にそれら恩寵には心を読んだり、未来を見たり、高性能レーダー張りに周囲の情報を集めることが出来る物も存在すると聞いたキュロスはますますやる気が無くなった。彼の設計した兵器情報は多岐にわたりそれらに準ずる製品も数多くある。仕事のために集めた資料たちにもそれに近いもののデータが数多く集積されていたが、恩寵はその全てと同じような働きを可能としていた。
ふと見たギルドカードのスキル欄に前の世界で凄まじい苦労をして得てきた超能力や技術たちが【サイコメトリーLv.30】、【設計技能Lv.60】、【製作技能Lv.48】と書かれていた時は圧し折ろうかとも思った。実際やろうとしても彼の力では曲げることすらできなかったが。
だからこそ、彼ははしゃいでいるシャロンを見ると複雑な気分になっていくことを感じていた。才能が見える。レベルが上がれば偉くなれる。一見、それが素晴らしいものに見えてしまうこの世界の適当さに呆れかえっているのだ。
キュロスは不意に手をシャロンにかざす。そのまま、優しいといえる手つきでやんわりと頭を撫でてやる。
「ん?」
不思議そうに顔を傾げるシャロンへと微笑みかける。にぱ、と笑みを浮かべる彼女を素直に可愛いと思った。それと同時に、彼女が不幸に見舞われませんようにと祈った。いつものように。
「何ですか? 褒めてくれるならお菓子が欲しいのです!!」
うわー、とくすぐったそうにするシャロン。どこかに何かなかったかなとキュロスは立ち上がって棚の中を探る。すると、いつか作った万能栄養剤入りのビスケットが見つかった。すんと匂いを嗅いでみるとほのかにいい匂いがする。多分、恐らく甘いだろう。この適当な世界の適当な品種改良がされていかどうかも怪しい野菜を食べるよりかは遥かに栄養があるだろう。そう考えたキュロスはそのビスケットをシャロンへあげることにした。
「これでいいかな」
「ありがとう!!」
にっこりと笑う幼女は可愛い。キュロスのいけない何かが反応しそうになった。
「むむ、ごほん。そろそろ、タロスの様子を見てこなくては」
そう言って立ち上がる。
窓からちらりとのぞく風景は先ほどとは違い、かこんかこんと斧を持ったタロスが薪を割っていた。その風景を見ていたキュロスは不意にある一点を見ると表情を硬くする。
「何を見ているのですかっ!?」
窓から顔を覗かせようとシャロンが身体をキュロスと窓の間に滑り込ませる。
「タロスッ!! 私もあんな可愛いゴーレムちゃんが欲しいですっ!!」
シャロンはどうもキュロスの持っているゴーレムたちに興味があるのか度々それを欲しがる傾向があった。別にキュロスのものではなくずんぐりむっくりとした形がぽてぽて動くさまをみて可愛いと感じているだけのようで別にゴーレムであれば何でもいいようだが。
「むむむ、それじゃあ、僕は久々に仕事するからシャロンちゃんは帰ったほうが良いよ、危ないし」
すると、
「むむむ。あ、そうだ。今日もこの後、おじいちゃんに魔法を教えてもらう約束なのです。だから、私もう帰るの!!」
元気よくぴょこんと立ち上がったシャロンはお別れの挨拶もそこそこに家から飛び出していった。
キュロスはその光景をニコニコとした顔で見送った。
シャロンが村のほうへと走り去っていったのを見送った後、キュロスはため息をつく。
「面倒くさい……。これだから、時代遅れは……」
彼が罵ったのは勿論シャロンでもなんでもなく、彼がシャロンを早めに返したその理由に対してである。彼は面倒くさそうに衣装棚に仕舞い込んでいたローブを取り出して羽織った。棚の奥には隠し棚があり、そこに収められている白い棒を取り出し、腰にぶら下げる様に装着する。
「ああ、うざったらしい。こういうのは本職じゃないし……」
ぶつくさと文句を垂れ流しにしながら、手早くそれらを装着していくその動きに乱れはない。明らかに慣れている動きであった。
すべての装備を身に着け終えたキュロスは家の外へと出る。一瞬こちらを見る様に首を動かしたタロスに対して手をひらひらと振って制した。
「お留守番。登録してない人が来たら捕まえといて」
一言指示を飛ばすと了解したようにタロスは頷き、作業を再開させた。
キュロスはローブのポケットから薄い半透明の板を取り出す。
その板に手を乗せるとそれは光り出し、文字の羅列が表示されていく。
「グリム01から05まで主位置に集合。隠蔽モードから随伴モードに切り替え」
素早く支持をとばしたキュロスはそのまま家の周りに広がる森へと足を踏み入れた。
森の中を歩いていくキュロスは心底面倒くさそうな表情をしながら声を発することなく歩を進めていた。しばらくの間、そうしていると木立ちの間からキュロスと並走するように犬のような外見の動物が現れていた。次第に数は増え、全部で五体。狼とも犬ともいえないような中途半端な見た目の動物がキュロスの横を並走している様は異様にも映る。
「報告」
短い言葉と共にキュロスの持っていた板状の端末にずらりと文字や図が並んだ。キュロスはおざなりな視線でそれに目を通していく。
「はい、わかりました。数は30か。ほんと、治安悪いよね」
ぶつくさと呟きながら進んでいくキュロスだが唐突に足を止めた。
「敵性感知。距離50。脅威度変動無し」
再び声が聞こえた。声の発信源は犬のような生命体から。この動物たちは実はタロスと似た系列の分子機械人形である。彼らはこの森を何台かで巡回し、異常があればキュロスに伝えるのだ。
「ご苦労。この脅威度なら適当でも何とかなるか。魔法使える奴がいなかったら楽に終わるんだけどな……」
そう言いながら、キュロスは腰に下げた白い棒を振る。すると、白い棒は瞬く間に変化し丸い筒のようなものに変化した。更にローブの内側に手を突っ込み、丸い球状の何かを取り出す。取り出したそれを放り投げると空中で変化し、羽のようなものを回転させながら宙に浮いた。
「それじゃ、山賊狩りですかね」
山賊たちは大混乱の中にあった。新たな獲物を求めて森に足を踏み入れるといきなり、狼の群れに襲われたのだ。しかもまるで見たこともない見た目をしていて、驚くほどに強い彼らに山賊たちはパニックに陥っていた。更には時々、空を切るような音がしてばたりばたりと一人ずつ倒れていく。狼達に襲われていないはずの山賊まで倒れていく事態に彼らの混乱はますます増していった。
大混乱に陥っている山賊たちを冷たく見据えながら、キュロスは少し離れたところに立っていた。山賊たちへと向けられた白い筒からは時折、音と共に鋭い針が飛び出し彼らの息の根を止めていった。キュロスが持っているのは前の世界での彼の仕事道具である分子機械工場の端末である。インターフェースと常時接続しある種サーバー状態となっている本体は大きく、とても普段使いできるものではない。この白い棒は本体から生み出された端末であり、分子機械の製造や設計を行いやすくするアイテムである。業界では万能道具として重宝がられていたものである。
彼はこの世界に来ても戦う才能はないと思っていたために冒険者も実質一年足らずでやめていた。何より、地雷をわざわざひいこら埋めて倒したオークたちを素手で倒す冒険者がいることを知った時に彼の中で何かが壊れたのもあったが。
「魔法使いは居なさそう。なら、もうすぐ終わるな」
そう呟いたキュロスはそのままその場にじっと佇み、山賊たちが全滅するのを待った。
それからほどなくして、村を襲うかもしれなかった山賊たちは村を見ることもなく全滅の憂き目にあった。
「山賊でよかったよかった。あいつら、何故か知らないがめちゃくちゃ弱いし助かった」
キュロスは手に持っていた端末に指示を入力した。すると、万能道具の一部が溶け、山賊たちの身体を土に返していった。
「レイブン01」
空から影が落ちてくる。それは次第に大きくなりキュロスの肩に乗った。それは白いカラスであった。当然分子機械人形である。その姿を見たキュロスは適当な羊皮紙を取り出し、さらさらとなにか書き込む。
「これを村長に」
何事か書き終えた羊皮紙をカラスにくくり付け、指示を与えるとすぐさま翼を広げてカラスはとび立った。
「面倒くさい。金払ったらはいどうぞってならないのか……」
キュロスがこうしてぶつくさ言いながらも山賊を退治するのには理由があった。そもそも、キュロスがこの村に来たのはちょうど一年前、シャロンがもう少し幼かった頃だ。異世界のいい加減な法則に合わせることにつかれたキュロスはもう面倒だから、と農民にでもなることを決意したのであった。前の世界で兵器設計をしていた理由はそういう会社に勤めたから、という単純な理由であり、別に兵器を作りたかったわけでもなかった。分子機械人形や万能道具を利用すれば、この世界ではオーバースペックといっても過言ではない。前の世界で培った技術を転用すれば土壌改革も全自動農法も選び放題なことを考えると、農民も技術者も大して変りが無いように思えた。何より、この世界の技術レベルは遅れに遅れているため、技術的なものを売る気にすらなれなかった。
そうしてたどり着いた村が現在キュロスが住んでいる村である。
なんとなく気に入った土地を見つけいざ移り住もうと考えたところ、現地の住民の冷たい視線に打ち抜かれた。面倒だとは思いつつ元冒険者という経歴を利用して村に襲撃に来そうな外敵を排除する条件で住まわせてもらっている状態である。シャロンは新しく来た村の住民であるキュロスに興味津々のようだが、村の大人たちからはそれとなく窘められているはずだ。
面倒だ、とは思うがそれが現実。彼にとっては些末な出来事ではあるが、それでギャーギャー言われるのも嫌なため頼まれた条件通りにしているのだ。それでもキュロス一人に任される負担は大きい。村の盾になって死んでも構わないというような扱いなのは確かであった。
幸い、これまでに来た山賊などの盗賊連中は冒険者に比べると驚くほどレベルも低く、弱いのでキュロスにも簡単に倒すことが出来たのだった。レベルこそが自らの強さ、地位を決めるこの世界では、山賊や盗賊は、いわば害虫の様に扱われている。彼らにもそうせざるを得ない理由がありながら。
そして、遥かに進んだ技術を持つキュロスでさえ、いやいやと言いながらも人と関わらざるを得ない。それが世界の理不尽なのである。
「ああ、疲れた。明日は一日オフにしよう」
この村に来てから何度言ったか分らない台詞。キュロスは家へと戻り、埃まみれの身体をシャワーで洗い、そのまま布団へと潜り込む。そして、お腹が好けば適当に料理を分子機械人形に作らせ、ちまちまとつつく。前の世界では考えられないほどのんびりとした空気が漂っている。せかせかと効率的に動くことを余儀なくされた前の世界と比べると、この穏やかな空気はこの世界で好きだと言える数少ないものの一つであった。
「もう、眠いな。寝よう」
そうして彼は自堕落に布団の中へと潜り込んだ。その脳裏にふと明日も起こしに来るであろう少女顔が浮かぶ。
「でもやっぱり明日位は真面目に仕事してみようかな……」
呟く声は布団が柔らかく受け止め、消えていった。
息抜きのつもりで書きました。
続きは考えてないです。