第2話 プレゼント
この窓から見る、二度目の夕焼け。
風に乗って届いてくるお祭りの音に寂しく耳を澄ましていると、ベルナリオさんがやってきた。
何だかやたらと深刻そうな表情をしていた。
「実は、君のお父さんらしき人が、町の外れで見つかったんだ……」
「え…? え?? 何です、その言い方……まさかパパが……」
「ああ……どうやらこの町を通り過ぎて次の町へ行ってしまったみたいで……」
「って、紛らわしいです! その言い方だとまるでパパが事故にでも遭ったみたいです!」
「えっ、そ、そうかな……」
「そうですよゥ」
「そっか……ゴメン……」
「いえ……」
沈黙。
ああ、また、会話が成り立たないっ!
昨日みたいにあたしだけしゃべるのよりかはマシかもしれないけど、お互い何もしゃべれないってのもマズイでしょっ!
「そうだっ。ハリエットちゃん、これ……」
不意にベルナリオさんが、実は何気にさっきから気になっていた、小脇に抱えた紙袋をあたしに差し出した。
「祭のバザーで見つけたんだ。君に似合うと思って……」
頭を掻いてうつむいて、目をそらしながら袋を差し出す。
「もらっていいんですか?」
あたしが袋に手を突っ込むと、大量のフリルやレースで飾られた、時代がかった薔薇模様のワンピースが出てきた。
「すごい! まるでお姫さまみたい!」
「気に入ってもらえた……かな……?」
「ベルナリオさん、こういうのがお好きなんですね!」
「えっ? ……いや……その……」
「こんなの本の挿し絵でしか見たことないです! 村長の娘がこれみよがしに着ているドレスなんかより、よっぽどお嬢さまな感じ! この町の人って普段からこんな豪華な格好をしているんですか?」
「えっと……お祭りだから……今日は……」
「さっそく着てみます! ベルナリオさん、ちょっと外に出ていてください!」
「あ、ごめん、うん……」
ベルナリオさんはそそくさと廊下に出ていき、ドアを閉める。
せっかく良くしてくれているのに追い出しちゃって、仕方ないっていっても胸がキュッとなる。
ドレスにシワがよらないように注意しながら胸に抱きしめる。
このドレスなら、ハイヒールと合わせても不自然じゃない。
ああ、ステキ、ステキ!
人生で初めてハイヒールを好きになれそう!
おっと、いけない、早く着替えなくっちゃっ。
パジャマを脱ぎ捨てて、もう一度ドレスを抱きしめる。
男の人からのプレゼントなんて、家族以外では初めて!
しかもこんな高そうなのを!
……そんな意味じゃあないんだって、わかっていたってドキドキしちゃう!
「お待たせー……」
あたしはそっとドアを開け、まずは顔だけ廊下に出した。
本当はこんなに待たせるつもりじゃなかったし、着替えは即行で終わらせたし、別におかしくはないはずだし、似合っていると、たぶん、思う。
けど……
それでもやっぱり、見せるとなると勇気が要った。
「じゃじゃ~んっ!」
おどけた声が、異様に上ずる。
「……良かった。サイズがあってるか心配だったんだ」
「え? あの……はいっ。ぴったりですっ」
本当は胸の辺りが少しキツイけど、それを堂々とアピールできるほど豪気じゃないし。
「そっか」
「…………」
感想、それだけ?
もうちょっとこう……
キレイだとか何だとか……
いえ、言ってもらったところでお世辞なのはわかりますよ?
でも、この程度のお世辞くらいなら、惜しまず言ってくれるのが一般的な対応なんじゃないの?
「ハリエットちゃん……」
「はい?」
「……お祭り、行かないか?」
「…………はい」
目を合わせもせずに誘われて、あたしはためらいながらうなずく。
そうよ、これだっていいじゃない。
シャイな男性ってカワイイわ。
男が女の服装について熱く語るってのも軽薄っぽいし!
いいわ、わかるわ、口に出さなくたってあたしのことキレイだって思ってるわよね! うん!