第10話 そしてあたしは
一安心して天を仰ぐと、跡形もなくなった天井の向こうに、大きな虹がかかっていた。
城の外では鳥の声が、鳥かごの中からは魔封じ人形がジタバタ暴れる音がする。
「きれいね、エリック……虹、見えてる……?」
あたしは床に膝をついて瓦礫をそっと撫でた。
ついさっきまでは古くても立派な壁だったのに、掌の形になって、壊れて、今はもう瓦礫以外の何物でもない石の山。
エリックの魂が黒衣城から離れようとしているのがあたしにも感じられた。
最期に手を握ってあげたかったけど、掌の形はどこにも残っていなくて、どうすればいいかわからなかった。
「エリック様、お虹がお見えになっていらっしゃいまして?」
あたしのお姫様口調に、ソフィアさんは噴き出して、セリアさんは自分の口を押さえて堪え、ユリアさんは遠慮なく大笑いした。
「こら! 馬鹿にしないでよ! この王子様は魔物として倒されたんじゃなくって、命と引き換えにお姫様を守ったんだからね!」
「・・・アリガトウ・・・ハリエット・・・」
声は床の方から聞こえた。
「何よ……わかってたんじゃないのよ……」
あたしは立ち上がった。
足からハイヒールが消えていた。
「こっちも逝ってしまったな」
ソフィアさんが鳥かごに木の枝を突っ込んで中身をつついているけれど、魔封じ人形はピクリとも動かなくなっていた。
「まあ、仕方ないか。分離して殺し合っても結局は同じ存在だからな。どこかから呼び出された悪魔が罪無き王子に憑り依いたみたいな話ではなく、死霊魔道は確かにエリック王子だったのさ」
ソフィアさんはがっかりしたように木の枝を投げ捨てた。
ステージの方からベルナリオさんが目を覚ましたみたいなうめき声がする。
城門の方では別の誰かがあたしを呼んでいる。
マリアちゃんが、あたしのパパとママ、それに弟をここまで案内してきたのだ。
髪に溜まった雨水を絞って、門の外に向かって、あたしは裸足で駆け出した。
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