第9話 エリック
雲が途切れ、日の光が天井や壁の穴から射し込んで、床の穴を抜け、地下へとそそぐ。
エリックの悲鳴だけが大きくなった。
陽光は死霊魔道には人形の外側の木の肌に、器の外側に当たるだけ。
だけどエリックには器の中に、剥き出しの魂に直接刺さっているのだ。
エリックと死霊魔道の力のバランスが崩れ、石の手の指の隙間から炎が漏れて、掌全体も押されてくる。
「エリック! エリック!」
がんばってなんて言えない。
だってエリックが助けたいのは、あたしじゃなくてローズ姫なんだから。
「がんばってくださいましでございますわ!」
……がんばってお姫様っぽいお上品なしゃべり方をしようとしたのだけれど、使い慣れない言葉なので変な感じになってしまった。
「おしっかりおなさいませ!」
……これもおかしいわよね。
「負けないでほしいのでございましてよ!」
……ふざけてやってるわけじゃないからねマジで。
日差しが強くなる。
熱く激しい真夏の日差し。
とうとう耐え切れなくなって、石の掌の一つが、炎の竜に食い破られた。
燃え盛る炎の向こうから、魔封じ人形の目があたしを捕える。
周りの他の掌も、次々と炎に飲み込まれていき、エリックが苦悶の声を上げる。
死霊魔道も消耗していて……
それを補うための“食事”を、さっきよりもはるかに強く欲しているのを気配で感じる。
石の掌に開いた穴を悠々と潜り、魔封じ人形があたしに迫る。
あたしは……
奴をじゅうぶんに引きつけてから、マスケット銃の引き金を引いた。
銀の弾丸は魔封じ人形の腹の真ん中に命中し、人形がのけぞって、浮いていた高度が下がる。
あたしはそこに駆け寄って、銀のヒールで上段回し蹴りして人形をはたき落とす。
そして、床に落ちた人形が再び浮き上がろうとする前に、踵で思い切り踏みつけた!
いくら尖っててもヒールはヒール。
木製のボディに刺さるわけじゃないのだから、銀の杭やラリルのエストックの代わりにはならない。
そうじゃなくて、さっき当てた銀の弾丸を、人形のボディの奥に押し込むのだ。
ぎゅうぎゅうと踏み続けて、弾丸が木にめり込んでいく。
けれど……
力の入れ方が悪かったみたいで、突然、バキッという音がして、木が割れて弾丸が転げ落ちた。
「しまった!」
魔封じ人形はあたしの足から抜け出して、腹の穴から黒い霧を噴き出しながら宙に浮き戻る。
マスケット銃に弾を込め直すような暇はない。
あたしは後退りしようとして、水溜りで滑ってしりもちをついた。
石で作られた掌は、崩れて床に散らばっていく。
もう駄目だ、と、目を閉じる直前に……
視界の左右両側から、赤黒い人影が飛び出してきた!
「!?」
煤まみれの服に、肌を伝う血が不気味な縞模様を描き、人か魔物か一瞬見分けに迷うような姿だけれど……
「ユリアさん! セリアさん!」
二人ともひどい怪我だけど、死なずに済んだのは魔除けの鎧の効果だろうか。
右から来た次女が魔封じ人形をガシッと掴んで、左から来た三女が構えていた鳥かごの中に放り込む。
二人と似たような格好の長女ソフィアさんがあたしの背後から進み出て、銀の鎖で鳥かごをグルグル巻きにして、呪文を唱え、仕上げに十字架をくくりつけた。
戦いは終わった。




