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第7話 炎の槍

 エストックの刀身がポキリと折れて、ユリアさんが悲鳴を上げた。

 落下した人形は、折れた剣を腹に刺したまま両足でしっかりと着地をし、あたし達をグルリと見回す。


 マントが独りでに、縦に細長く()けていく。

 無数のリボンのようになった布は、雨の中なのに燃え上がり……

 炎は宙を舞い、(やり)のような形になって、あたし目がけて降りそそいできた!


「危ない!」


 ソフィアさんがあたしを突き飛ばし、二人まとめて泥の水溜りに倒れ込んだ。

 炎の槍は地面に吸い込まれ、コゲ跡だけを残して消える。


 ユリアさんとセリアさんが人形に飛びつく。

 人形はピョンと跳ねてユリアさんの手をかわし、腹のエストックを抜いてセリアさんに投げつける。


 ユリアさんが再び人形に飛びかかるけど、その手もまたヒラリとかわし、人形は宙に……

 あたし達の手の届かない高さにまで浮き上がった。


 もとはデッサン人形なので、その顔はのっぺらぼう。

 なのに目の位置が赤く光る。


「マズイ……逃げろ!」


 ソフィアさんが叫ぶのと同時に、地面から炎の槍が、舞い戻るように飛び出した。


「きゃああああ!」


 飛び出た炎の槍は、空中で()を描いて降ってくる。

 走り回って攻撃をかわすと、炎の槍は地面に落ちてその下に戻ったけれど……

 それは水面を跳ねる魚のように地上と地下を出入りしながら、あたし達を追ってきた。


「こっちだ!」


 ソフィアさんがあたし達を黒衣城の戸口へ導く。

 そこが安全だとも思えないけれど、他に炎の槍を避けられる場所はない。




 戸口をくぐったところであたしは「なるほど」とつぶやいた。

 荷物になるからと、雨で濡れるから。

 ソフィアさんはこの場所にマスケット銃を隠していたのだ。


 銃を構え、引き金に指をかける。

 だけど……

 炎の槍がソフィアさんの腕にヒットし、ソフィアさんは銃を取り落としてしまった。


「うわっ!」


 服の(そで)が燃え上がる。

 ユリアさんがソフィアさんを押し倒し、天井の穴の下にできた水溜りで火を消す。


 あたしは火薬に引火しないようにマスケット銃を掴んで二人から離れる。


 セリアさんがソフィアさんの傷に素早くハンカチを巻いた。

 重傷ではなさそうだけど、その手で引き金は引けそうになかった。



 振り向けば、戸口のところの空中に、魔封じ人形が浮いていた。


「ひっ……!」


 ゾッとした。


 あんなに小さな人形なのに……

 その気になれば踏み潰せそうな大きさなのに……

 こちらの方が踏み潰されそうな威圧感を放って……


 黒衣城の地下に居た時よりも何倍も激しい恐怖を感じた。


 人形には太陽の光を避ける素振(そぶ)りもなくて、もしかしたら黒衣城の外にも自由に出て行けるのかもしれない。


 死霊魔道(リッチ)も結局は死者。

 強い魔力があるってだけで、亡霊(ゴースト)と大して差のない不安定な存在。


 その魂を、封印の壺の代わりの廃墟の城から、小さいとはいえ良くできた人形に移し替えたことで……

 もしかしたらあたし達の手で、死霊魔道(リッチ)という存在を、安定したものにさせてしまったのかもしれない。



 人形の周囲に生えた炎の槍は……槍と表現したけれど……(へび)のようにうねって鎌首(かまくび)をもたげて、あたし達を狙っている。


「どうして!? エリックには生け贄はもう必要ないんじゃあないの!?」

「そうだな。今の奴が求めているのは、ただの食料だ。それとハリエット君、奴はエリックじゃない! 死霊魔道(リッチ)だ!!

 ハリエット君!! 走れ!!」

「……!!」


 言われるままにあたしは城の奥に向かって走った。

 三人を見捨てて逃げたのか、あたしがオトリになったのか、自分でもわからないままとにかく走った。


 背後から、これまでに聞いたことのないようなすさまじい悲鳴が響いた。

 どうやら見捨てた形らしい。


 悲鳴は一瞬で終わり、同時にあたしは足がもつれて顔から転んだ。

 散々歩き回って少しはピンヒールにも慣れたけど、走るにはヒールは(とが)りすぎだし床は荒れすぎているのに、逃げ切るなんて、できるわけない。


 背中を濡らすのは汗か雨か。

 顔を上げると、魔封じ人形があたしの目の前に回り込んで浮いていた。


 だけど背後からも気配を感じる。

 背中が焦げるくらいの熱気。


 振り返ると死霊魔道(リッチ)の操る炎は、細い槍の群れが一つの束になって、一匹の巨大な竜の首に姿を変えて……

 大口を開けてあたしに襲いかかってきた!


 あたしは目を閉じた。


 大きな音がした。

 瓦礫が崩れる時の音だ。




 しばらく待つ。

 痛みはないし、死んでもいない。


 まぶたを開けると、あたしの目の前には、黒い巨大な手があった。


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