第6話 王子とあたしと死霊魔道の野郎
城門の前。
魔封じ人形を構えたセリアさんが、死霊魔道の逃げ道をふさぎ……
ユリアさんのエストックが、バーベキューの串みたいに死霊魔道と魔封じ人形をまとめてつらぬく。
あたしの目の前にあったのは、まさにその瞬間だった。
「嫌よ」
心ならず声が出ていた。
死霊魔道のスカーフが外れて泥水の中に落ちる。
けど、その顔はただの闇の塊でしかない。
ユリアさんはまるでトロフィーでも掲げるように剣先を天に突き上げて、死霊魔道の体はマント一枚分の重さだけしかないみたいに軽々と持ち上げられてしまった。
勇者の鎧をまとった少女による、神々しい光景。
だけど。
「駄目よ」
セリアさんがユリアさんから離れ、入れ替わりにソフィアさんが前に出て、雨に濡れた本のページをめくりながら呪文を唱える。
「まだ終わらせないで!」
マントの下の闇が人形に吸い込まれていき、中身をなくしたマントがずり落ちた。
セリアさんは一旦ステージのほうへ駆けていき、物影に隠していた、人形を閉じ込めるための銀の鳥かごを持って戻ってきた。
ソフィアさんは死霊魔道を、まるで遠い国の珍しい動物のように観察して研究して、本に書いて発表するつもりなのだ。
「大丈夫かい? ハリエット君。怖かったんだね。もう安心だ」
ソフィアさんがあたしの方に来る。
何を言っているのよ?
問おうとして、声が出なくて気がついた。
あたしは泣いていた。
「死霊魔道が弱っていたのは君がやったんだろう? 良く頑張ったね。どうやったのか、あとで教えてもらえるとありがたいな。もちろん落ち着いてからでいいんだが……」
あたしはソフィアさんを押し退けて魔封じ人形に駆け寄った。
人形は激しく痙攣しながら腹の剣を抜こうとして暴れているけど、人形自体の重みのせいで、暴れれば暴れるほど剣は深く刺さっていく。
ユリアさんは余裕の顔で、セリアさんは固唾を呑んで、人形がおとなしくなるのを待っている。
「エリック……!」
あたしが呼んでも返事はない。
「……死霊魔道!」
人形からうめき声が漏れた。




