第3話 ただのアンデッド・モンスター
「うげっ。もうちょっとで刺すトコだった!」
ユリアさんが身を起こしつつ顔を歪める。
「……そうね」
あたしは低い声で唸った。
「すごいな、ハリエット君! どうして気づいたんだ?」
ソフィアさんが銃口の先を死霊魔道に定める。
「……ズボンにあたしの靴跡がついているのが見えたのよ」
股間を蹴飛ばした跡が。
「ベ、ベルナリオさん、生きてるんですか? 魔法で死体を操ってるとかじゃなくて?」
セリアさんが声を震わせる。
「……生きてるわよ。スカーフが鼻息でぴらぴらしてるもの」
それを死霊魔道は、自分ごとあたしに……あたし達の作戦でユリアさんの役回りになったけど、本当は……あたしに刺させる、あたしに殺させるつもりだったのだ。
いえ……あたしではなくローズ姫に……
手紙の中であれだけ慕っていた人に……
ソフィアさんが慎重に死霊魔道との距離を詰める。
「ふむ。やはり死霊魔道は、ラリルの子孫の生け贄なしでは完全な復活はできないようだな。だから自力では実体化できないんだ」
「知ったこっちゃないわよそんなのッ!!」
あたしが急に怒鳴ったので、ソフィアさん達がギョッとなった。
「……そりゃあね、あたしだってね、ベルナリオさんなんか死んじゃえーみたいに思ったこともあったわよ。
でもね、だからって、アンタの自殺の巻き添えで殺していいわけないじゃない。しかもそれをあたしにやらせようなんてッ!!
手紙読んで同情なんかしてバカみたいだったッ!!
アンタはエリック王子なんかじゃないッ!! ただの死霊魔道だッ!!
エリックの心なんて残っていない、ただの不知死の化け物だッ!!」
死霊魔道にはあたしの声が聞こえているのかいないのか、雲越しの太陽を睨んでいる。
あたしは死霊魔道の……ベルナリオさんの足の甲を思い切り踏みつけた。
死霊魔道は痛がる素振りすら見せなかった。
ただ、黒い何かがズルリと抜け出るのが見えた。
あたしが足を退けるとベルナリオさんの体は仰向けに倒れ、その空間に……
スカーフとマント、そしてそれに包まれた黒い影の塊のような、墨でできた霧みたいな何かが残った。
「やっと姿を出したわね……」
見つめ合うあたし達をさえぎって、あたしを庇うつもりのソフィアさんが割って入る。
ユリアさんセリアさんがそれぞれの得物を構えて死霊魔道を取り囲む。
けれど霧状のソレは、まるで吊っていた糸が切れたかのようにストンと真下に落ちて、ステージの床に染み込んで消えた。
ソフィアさんが床に向けて銃を撃つけど、床に穴が開いただけで死霊魔道への効果はない。
実態があるように見えたスカーフとマントも消えたので、魔法の力で持っていったみたいだ。
ソフィアさんが素早くステージから飛び降りて下を覗く。
「居ない! 地下に逃げられた!」
ソフィアさんとユリアさんは黒衣城の中へと走り、セリアさんはステージに残ってベルナリオさんを手当てする。
あたしはソフィアさん達についていこうとしたけれど……
薄暗い城内をしばらく進んだ先の、階段へ向かう途中の通路が、瓦礫の山に塞がれていて……
二人は簡単に乗り越えてさっさと行って、あたしだけ置いてけぼりにされてしまった。
別の道を探そうとして、振り返ったら、死霊魔道が居た。




