表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/58

第5話 脱出

 月が見える。星が見える。あたしの真上には気球がある。

 地下から空が見えなかったのは、気球に(ふさ)がれていたから。

 あたしとソフィアさんは今、その気球に吊り下げられて、暗闇の大空をただよっていた。


「見えるかい? ハリエット君」


 ソフィアさんが眼下の黒衣城を指し示す。

 深緑のイバラに(おお)われているはずの城壁が、茶色くなっていた。


「イバラが()れてる!?」

「それもだが、それよりも塔の方だ。一番高いところだよ」

「あ……!」


 人が、居た。

 暗いし遠いので顔も体型もわからないけど、亡霊(ゴースト)のように透けてはいない。


 彼はこちらをじっと見つめていた。


死霊魔道(リッチ)のやつ、実体化している。

 誰を生け贄に使ったのか知らないが、どうしてもハリエット君でなければならないというわけではなかったんだな。

 しかし、それならば何故こんな面倒なことを……」

「ソフィアさん、死霊魔道(リッチ)は……復活したいなんて思っていませんでした! ローズ姫に殺してほしいって言ってて……!」

「何だって? それじゃあ……おっと!」


 人影が動いたように見えたけど、風が吹いて服がはためいただけだった。

 そしてその風に(あお)られて、気球は一気に黒衣城が建つ丘から離れ、町の方へと流れていった。


「キャー!! 揺れる! やばい! 早く下ろしてェ!!」

「無理だよ、ハリエット君。この風では……おおっと!」


 気球が街を飛び越えていく。

 あぁガス灯よ、文明の利器(りき)よ。

 魔法の時代はもう終わり。


 家々よ、星空と対を成す光の海よ。

 何というキラメキ。

 これはきっと天使達が見る景色。

 亡霊(ゴースト)どもも地下に(こも)ってる場合じゃないわ。


 とか何とかの現実逃避で、揺れる怖さと夜風の寒さをごまかしていると……

 風の轟音(ごうおん)()じって、プチプチと嫌な音が耳に飛び込んできた。


「ソフィアさん! ロープが! ちぎれそうになってるんですけど!?」

「もう少しだからガンバれ!!」

「ガンバれって何をどうガンバれば……どわわわわ!?」


 気球の高度がガクンと下がった。


「こここ、これって着陸じゃなくて墜落(ついらく)に向かってますよねっ!?」

「燃料が残りわずかだったからね」

「このままだと建物にぶつかりますよねっ!? てゆっか言ってるそばから大っきい建物が目の前に(せま)ってるんですけどっ!?」

「あれは博物館だ。あの上はスレスレで抜けられそうだが、その次の教会の鐘つき堂は()けられそうにないな」

「えええっ!?」

「ハリエット君。悪いがちょっと野暮用(やぼよう)だ。先に私の家に行っていてくれ」


 ソフィアさんは、どうやったのか手品みたいに自分だけロープから抜け出して……

 あっと思う間もなく博物館の屋根にスタッと飛び下りた!

 軽くなった分、気球は上昇し、鐘つき堂の屋根を飛び越える。


「私の部屋の机の上に……!!」


 ソフィアさんの叫びは、風の音に掻き消された。




 気球は町を通り越して農場へたどり着き、あたしは宙吊りのまま羊小屋に突っ込んで、気球は牧草地に不時着(ふじちゃく)した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ