第4話 空飛ぶ鎧
思わず目を閉じる。
ガシャーン!!
金属音があたしの両脇で響いた。
…………?
今まで出くわしてきた亡霊達は何の音もさせなかったのに。
目を開けるとそこには何もなく、視線を下ろすと鎧の襟首が見えた。
中は空洞だ。
鎧の胴はあたしの体にギリギリで接しない高さに浮いていて、手足は四方に投げ出され、関節を不自然な方向に曲げて……
四つん這いと表現できなくもない体勢を取っている。
亡霊ではない。
こいつは半透明ではない。
その騎士が、飛んだ。
ジャンプではなく空中浮遊って感じで。
腰を曲げてダラリとうなだれた、あまり格好の良くない姿勢で揺れながら飛びながら。
両手両足をメチャクチャに振り回し、亡霊達を薙ぎ倒す。
「あ……あたしを助けてくれてるの……よね?」
そう思いたいけど、そうは思えない。
だって相手は首のない化け物だし。
あたしはとりあえず体を起こし、でも飛び回る騎士にぶつかりそうになって慌てて伏せた。
亡霊のうちの一体が、自分の頭を手に取って、騎士に向かって投げつける。
狙いは大きく上へと外れ……
けれど何も見えない空中で、霊の頭部は何かに食いつき、噛みちぎった。
……亡霊がこれを、わかっててやったとは思えない。
ともあれ亡霊は、ロープを噛み切った。
空飛ぶ首なしの騎士は、何のことはない、ロープで吊るされていただけだったのだ。
床に落ちた鎧が、がらんどうの音を響かせて、あたしはやっとそれに気づいた。
そしてその鎧を、これまたロープで吊られたランタンが、人魂と見間違えても当然な姿でユラユラしながら照らしていた。
「何なの……? 何なわけなのよッ!?」
考える間もなく亡霊達は、もはや敵ではなくなった鎧を踏み越えてあたしに近寄ってくる。
そこに……
「でやーーー!!」
再び天から救いが降ってきた。
今度は明らかに人間だ。
ロープを伝い、滑り降りてきて、あたしと亡霊達の間に割って入って着地する。
ひるがえる長い銀の髪。
だけどそれがギロームの髪でないのはすぐわかる。
モノクルの奥には強く輝く瞳。
銀のチェーンのブレスレットやアンクレットを両手両足に何本も巻いて、鋭いパンチとしなやかなキックで亡霊達を薙ぎ倒す。
「ハリエット君! こっちへ!」
「あなたは、ソフィアさん!?」
「いかにも!」
ソフィアさんはあたしを抱き寄せ、手繰り寄せたロープで二人の体をまとめて縛って……
体勢のせいでソフィアさんの胸にあたしの顔がうずまった。
うん。確かにこの人は女性だ。
しかもギロームだった時は青っちろかったのに、短時間で健康的な色に日焼けしている。
ギロームが憑り依いていた時は、魔法で外見をいじっていたのかな?
ベルナリオさんがこの人に惚れたのも、この人がベルナリオさんを全く相手にしてないことにも納得がいくわ。
「良し! 引き上げ!」
荒々しい合図と、澄んだ声。
あたし達のつま先が宙に浮き、結構なスピードで上昇していく。
……っ?
早すぎる。
上に居るはずなのはユリアさんにセリアさんにマリアちゃんに……
女の子三人で引っ張っているとは思えない速度。
何層も重なる決して広くはない天井の穴を、ぶつかるー!って叫ぶ暇もない猛スピードで次々くぐり抜けていき、あっという間にあたし達は外の世界に飛び出していた。




