第4話 天使除けのおまじない
ソフィアさんの霊体は、壁の手前でクルリとターンし、そしてまたふらふら歩いては、壁にぶつかる前に引き返して、と、くり返していた。
何やらブツブツとつぶやいているみたいだけれど、声は聞こえない。
指先をしきりに動かしているのは……
お星様……?
五芒星の形を空中に描いているの……かな?
「ソリ姉、天使除けのおまじないをしてる」
「天使除け?」
「天使に守ってもらうおまじないって知ってる?」
「学校で流行ったり飽きられたりしてるやつなら。結構いろんなパターンがあるけど」
「それの裏返し。天使が来たら天国に行かないといけなくなるから。
ギロームに体を乗っ取られてから、いざって時のために、本で調べて練習してたの」
ソフィアさんはおまじないだけに集中していて、あたし達も亡霊達も目に入っていない。
亡霊達が恨みに心を捕らわれているように、ソフィアさんはおまじないに全ての意識を持っていかれてて……
このまま放っておけば、何百年でもおまじないだけを続けそう。
ふらふらと歩き回る姉を、マリアちゃんが追いかけ、マリアちゃんが持つあたしはランタンの光から外れないように右往左往しながらついていく。
光が近づくと亡霊達は、池に落ちた木の葉が波に煽られたみたいな動きで、ハッキリと意思を示して避けたのではなく、無意識っぽく流されていく。
ソフィアさんも同様で、ランタンを持ったままでは近づけない。
マリアちゃんはあたしにランタンを押しつけてソフィアさんに駆け寄ったけど、マリアちゃんの手はソフィアさんの手をすり抜けてしまった。
うーん。
ユリアさんの籠手なら霊を掴めていたわけだから……
「マリアちゃん、そのネックレスは本物の銀?」
「うん」
マリアちゃんはコクリとうなずく。
子供のくせにナマイキな……と……口には出さず、ごまかすために微笑んでみせる。
「オッケー! そのチェーンを手に巻けば、霊の体に触れられる!」
かもしれない!
まあ、試す分には損はないでしょ。
マリアちゃんは素直にあたしの指示に従う。
あたしはマリアちゃんに近づく他の亡霊をランタンで牽制しつつ、ソフィアさんを行き止まりに追い込んだ。
「マリアちゃん! タイミングを合わせて、いっせーのせでいくわよ! いっせーの……」
突然、背後から伸びた誰かの腕が、あたしからランタンを取り上げた。
振り返ると、ギロームだった。




