第7話 外の光
ハイヒールのせいでどうしてもあたしの足は遅くなるけど、待ってと言える状況ではない。
ユリアさんが角を曲がって、あたしからは明かりが見えなくなって……
暗闇の中を手探りで、件の角にたどり着く。
通路の途中に戸口があって、そこから光が漏れていた。
眩しい。
亡霊でもランタンでもない、久しぶりの外の光だ。
その光を浴びて、戸口の前でユリアさんが立ち尽くしていた。
掴んでいた亡霊は、逃がしたのか、居なくなっていた。
あたしは、青ざめたユリアさんに慎重に歩みより、ユリアさんの肩越しに戸口の中を覗き込んだ。
行き止まりの小部屋の、奥の壁が崩れて空が見えている。
地下の深い場所のはずなのに?
一瞬、不思議に思ったけれど、黒衣城が建っているのは丘の上だから、きっと丘の中腹に穴が開いているんでしょうね。
夕暮れの光の射し込む小部屋の真ん中で、見知らぬ小さな女の子が泣きじゃくっていた。
この子が四姉妹の末っ子のマーちゃん……
姉達の名前から推察するに、マリアちゃん。
姉達の仮装にならってか、魔法使いみたいなトンガリ帽子をかぶってて……
じっくりと観察している余裕はないけど、かなり可愛いコなのは間違いない。
マリアちゃんの隣では、セリアさんが震えながら、足もとの何かに群がるネズミ達を必死で追い払っている。
ユリアさんがハッと我に帰って小部屋に踏み込み、荒々しくネズミを蹴散らした。
ネズミの下から出てきたのは、ボロボロに食い荒らされたソリア人形だった。
……あの人形、なんかちょっといいにおいがしてたから、お菓子を食べた手で触ったせいで食べ物と間違えられちゃったのかもね。
「ソリ姉! しっかりして、ソリ姉!」
セリアさんはまるで瀕死の人間を相手にしているかのように必死で呼びかけ、ユリアさんとマリアちゃんは人形ではなく本物の姉が死んだみたいに嗚咽している。
人形よりもネズミよりも、この三人の姿の方が、あたしの目には不気味に映った。
「その人形って、いったい……」
「ソリアお姉ちゃんよ!」
おそるおそる尋ねるあたしに、マリアちゃんが飛びかかってきた。
あたしはしりもちをつき、マリアちゃんはそのままの勢いで部屋を飛び出していく。
「マーちゃん!」
ユリアさんが、セリアさんの物らしきランタンを手に、マリアちゃんを追いかける。
あたしは唖然としたまんま、姉妹の中で一人だけここに残ったセリアさんに向き直り、そしてますます唖然となった。
触れるのも気持ち悪いほどの姿に成り果てた人形を、セリアさんは大事そうに胸に抱いている。
そんなセリアさんの姿もまた、まるでこの世ならざるモノであるかのようだった。




