第2話 二つの光
(誰っ?)
叫びそうな喉と、跳ね上がりそうな心臓をどうにか抑えて、あたしは木々の間に目を凝らした。
小さな光が二つ、獣の目のように横に並んでいた。
(オオカミ!?)
いえ……それにしては目と目の間に幅がありすぎて……頭が大きすぎる。
じゃあ……
(巨大オオカミ!?)
そんなバカな。
違う。
あれは目じゃない。
二つの光はそれぞれに、一つは上に、一つは下に、ゆらりふわりと高さを変えた。
ちょっと待ってよ!
まさか人魂!?
それらがあたしに近づいてくる。
あたしが居るって人魂に気づかれているのなら、悲鳴をこらえる意味はないけど、今度は声が喉に張りついたみたいになって出てこない。
ガサガサと下草を踏み分ける音が不気味に響き……
……ん?……
人魂はそんな音なんて立てないわよね?
現れたのは、ランタンが二つと、人が二人。
見た感じは不良でも山賊でもない。
一人は十代後半ぐらいの、背が高くってガッチリしたスポーツマン風の男の人。
もう一人は、一人目よりかは年下だけれど、あたしよりかは上っぽい、ショートヘアでボーイッシュな女の子。
「キミ! 怪我をしてるのかいっ?」
「……何でこんな時間にこんな場所でパジャマ?」
男の人は心配そうに、女の子は怪訝げに眉を寄せている。
「う~ん、何て言うか、その……夢遊病で……」
本当は違うんだけれど説明するのが面倒なのでそう言って、少しでもマトモに見えるようにと、長い赤毛を指でとかして整える。
あたし、ツリ目でちょっと人相悪いし、ヤバい人だと思われてるかな?
「とにかく病院へ!」
男の人がいきなりあたしに腕を差し伸べて……
「え? あっ! ひゃっ!?」
あたしをお姫様抱っこで抱き上げた。
びっくりして思わずバタバタさせた足が、ショートヘア少女の鼻に当たりそうになる。
「パジャマ姿にハイヒール?」
サッとかわしたショート少女が、ますます訝しげにあたしを睨む。
「ェヘヘ……」
あたしは曖昧に微笑んだ。
だってここで事情を話したところで素直に信じるわけないし。
それでもジーッと顔を寄せてくるショート少女を、ちょうどさえぎるかのように……
ゴゴゴゴゴゴ……
城壁の向こうで大きな音がした。
何だろう?
古い重い扉のような、物々しくも厳かな音……
「お姉ちゃんが何か見つけたのかな?」
つぶやいて、ショート少女は勢い良く城門に手をかけて、そのままスルスルと器用によじ登り始めた。
「ユリアちゃん! 落ちたら危な……」
「ベルナリオさんはさっさとその子をお医者へ運ぶ! お姉ちゃんのジャマしたら蹴っ飛ばすから! ボスにチクるのもナシだからね!」
「……しないよ。ソフィア先生のジャマなんて」
口の中でモゴモゴと。
そんな小さな声でユリアちゃん……ユリアさんに届くわけないのに。
その最中も、彼の腕はあたしを軽々と抱えたまんま。
たくましいのに、おとなしい人。
ううん、繊細な人。
嫌いじゃない。