第4話 壁越しに
『……ヒソヒソ……』
『……ボソボソ……』
壁の向こうで声がする。
あたしに話しかけるのではなくて、むしろ聞こえないようにしているみたい。
セリアさんが向こうに着いたの?
それならどうしてあたしに知らせないの……?
……とても嫌な感じがした。
いったい何を話しているのか……
壁に耳を張りつけてもちっともわからないけれど……
ふと思いついて壁から数歩下がってみると、言葉が聞き取れるようになった。
洞窟のような地下通路ならではよね。
壁の向こうの声が、天井に跳ね返って下りてきているのだ。
『それにソリ姉、ハーちゃんにギロームをボコられたら、ソリ姉だって困るじゃない』
『しかしね、ユリア。私にはどうしてもハリエット君が怪しく思えるのだよ。彼女は私達に隠し事をしている』
ちょっと待って。
何姉だって?
ユリアさん達が何日も前から捜し続けているはずのソリ姉なる人物が、いったいいつの間に現れたっての?
それともまさか、ソリア人形相手に一人二役の独り言?
『さっきの魔法陣の部屋で、何故ここに居るのかユリアが訊いた時も、ハリエット君はごまかしていたしね』
いや、あれはごまかしたつもりはなかったんだけど。
『通路を歩いている間も挙動不審だったし』
あ、あれは亡霊を警戒してたのよ!
亡霊の話をどう切り出していいのか迷ってたって点では、隠してたっぽく見えちゃう部分もあったカモだけど……
でもでもユリアさん! 怪しさで言ったら今のアナタの足もとにも及びませんよ!?
……寒気がする。
あたしはどんな反応をすればいいの?
“気味の悪い真似をするな!”みたいに怒鳴る?
ユリアさんの一人芝居が、あたしに聞かせるためにやってるものなら、迷わずそうする。
だけどそうだと思えない。
この声があたしに聞こえていることに、ユリアさんが気づいていないように思えてならない。
『待ってソリ姉。セーちゃん来たみたい。セーちゃん、やっほー』
妙な静寂が下りた。
『……セーちゃんじゃないの? ……あなた誰ッ!?』
そして……
『ぎゃああああああ!!』
争う音。
意味のない叫び。
そして再びの静寂。
「ユ、ユリアさん……?」
呼びかけても返事はない。
「セリアさーん!」
叫んでみはしたけれど、そもそも居ないのはわかっている。
ユリアさんのところに現れたのは、セリアさんではなく、本当は……
「ベルナリオさんっ! ギロームっ!」
これも違うでしょう。
人間相手であそこまでの悲鳴は上がらない。
……亡霊の存在を、早く知らせておけば良かった。




