第1話 銀髪のギローム
チリ一つなく掃除された床に、真新しいペンキの香る魔方陣。
円を描いて並べられたロウソクが、いかにも不気味に揺らめいて……
その中央には、奇妙な形の白い置物が、ちょこんと飾られている。
「これでいいんですよね?」
やけにこわばったベルナリオさんの声に応えて、部屋の隅で壁にもたれていた人影が前に出た。
「!?」
あたしは息を呑んだ。
人影の長い銀髪が揺れた。
お祭りの帰り道であたしをさらって黒衣城に閉じ込めた犯人と同じ色の髪……
黒ずくめの服装に、冷たい雰囲気の映える美女。
どうしてこんなところに、あたしとベルナリオさん以外の人間が居るの?
野次馬の言葉を思い出す。
空を飛ぶ……魔女……
いえ、待って。
銀髪なんて騒ぐほど珍しいってものでもないし、悪い人のところなんかにベルナリオさんがあたしを連れてくるわけがない。
この人は、あたしを襲った奴とは別人だわ。
それにしてもキレイなおねーさまだわね。
うん。大人の女性ってカンジ。
ベルナリオさんのカノジョというには年上過ぎるし、大丈夫よねっ。
「ハリエットちゃん、紹介するよ。こちらはギロームさん。本物の魔法使いなんだ」
その口調は重苦しくて、とてもジョークには聞こえなかった。
……衝撃が二つ。
一つは、ギロームが男の人の名前だっていうこと。
こンだけキレイな顔して男!?
女のあたしの立つ瀬がないわ!!
あ、でも、ダブダブの黒シャツのせいでわかりにくいけど、確かに胸はないっぽい。
だけどそれ以上に衝撃なのは……
「本物の魔法使いですって!?」
一昨日読んだ『魔法研究』の内容が頭によみがえる。
“魔法使いになるためには、心を闇に食らわせる”
って、いくら何でもそんなバカなことをホントにする人なんて居るはずない……わよ……ね……?




