第1話 一日目のリンゴ飴
一人だけでも味方が居るってわかって、だいぶ気が楽になったので、あたしはお城の倉庫でお祭りで売るはずの食べ物を漁り、遠慮しながらリンゴ飴をかじった。
露店の裏で見つけたホウキにまたがって「飛べ! 飛べ!」とか唱えていると午後になり、お祭りの準備をしたい人や、ウワサを聞きつけたヒマな人が、朝より大勢集まってきた。
ずいぶんのどかなかたがたですこと。
今朝の怪我人の話を聞いてないとも思えないし、察するに今朝の人達は、命に別状はなかったわけね。
野次馬がまたしても魔女だ何だと騒ぎ始めたので、あたしは倉庫に戻って高級フルーツをわしづかみして思い切り食い荒らしてやった。
どうやら警察もやってきたみたいで、野次馬どもがやんややんやと盛り上がる。
警官も、魔女とか信じているのだろうか。
「ハーちゃ~ん!!」
いきなり全く緊迫感のない声色で呼ばれた。
お城の戸口に体を隠して、顔だけで慎重に外を覗くと……
「やっぱりハーちゃんだ! ハーちゃ~ん!!」
ユリアさんが満面の笑顔で手を振っていた。
周りの人の脅えた顔や、脅えるまではいってなくても怪訝そうな顔と比べて、あまりに浮いてる。
「ねぇねぇハーちゃん! そっちにうちのお姉ちゃん居ない~!?」
野次馬の視線がユリアさんに集中しても、ユリアさんは少しも怯まない。
「あ、あたししか居ませ~ん!」
「ギロームって人は~!?」
「知りませ~ん!」
「んじゃ、お姉ちゃんに逢ったら連絡ちょうだ~い!」
それだけ言うとユリアさんは、人垣を掻き分けてさっさと帰ってしまった。
なんて自由な人なんだろう。
こっちはここから出られないのに、どうやって連絡しろっていうのさ?
野次馬からは戸惑いのざわめき。
「ハーチャンだと?」
「あの魔女はハーチャンと言うのか?」
……魔女ハーチャンって……
ユリアさん、あたしの名前はバラしても、姉殿の名前は言っていないし……
日が暮れて、何もなければ今頃は、舞台の上で勇者が死霊魔道と戦って、地元の人や観光客からノンキな喝采を浴びていたはず。
お祭りが中止になるくらいの事態なのだから、いっそ丘ごと立ち入り禁止にしちゃえばいいのに、誰が呼んだか勝手に来たか、エクソシストとその見物人が、お祭りの人出に比べれば数はぐっと減ったけど、お城の周りを囲んでる。
魔女よ出てこいとか悪魔よ立ち去れとか、魔女も悪魔もあたしじゃないし、そもそもあんなの効きやしないって。
だってああいうのって、ハイヒールにさんざん試したもん。
こんな小さな靴さえ祓えないのに、あんな大きなイバラに通じるわけないじゃない。
日暮れが迫る。
あたしは出店のシートを集めて寝床を作り、紐と食器で鳴子を組み立てて寝床の周りに張り巡らせた。
あたしが眠っている間に誰か……あたしを閉じ込めた犯人なり、別のヤツなりが襲ってきたらってのも怖いけれども、それだけでなく……
この荒れ果てたお城の中を、寝ながら歩けば、ほぼ確実に怪我をする。
怪我したら、誰にも手当てしてもらえない。
夜中。
鳴子は静かなままだったけど、あたしは何度も目を覚ました。
寝心地悪いし、蒸し暑いし、虫達がうるさいし。
それに……誰かが居るような気がして仕方がない。
ネズミの足音かもしれないけど……
何にしても……怖い……
眠りが浅いせいで何度も夢を見て、終いには自分が寝ているのか起きてるのかもわからなくなった。
夢の大半は、お祭りのお芝居で知った伝説のものだった。
ラリルとローズがお城を出ていく。
二人の後ろ姿をあたしは見ている。
今日は……日付けが変わっていれば昨日か……
ラリルが死霊魔道を倒した記念日……
日付は変わったのかしら……




