第6話 人気のない路地
花火も終わり、家路につく人々の波に飲まれて、あたしはベルナリオさんとはぐれてしまった。
「ベルナリオさん……?」
黒衣城から街へと下る丘の道で、小さな声は雑踏に飲まれる。
「ベルナリオさ~ん!」
声を張り上げても道を行く数人が不審げな視線を向けるだけ。
きょろきょろオドオドしていたら、談笑中のカップルが、あたしの背中にぶつかった。
……病院に戻るしかないか。
街の方へ向き直った時、不意に背筋に冷たいものが走った。
「!?」
誰かに見られている。
そんな気がする。
気のせい……よね……?
あたしは坂道を下る足を早めた。
病院のある路地に入ると、急にパタリと人気がなくなる。
何だか猛烈に眠くなってきた。
病院まではすぐそこなのに。
眠い……
どこからか甘い香りがただよってくる。
眠い……
不思議なくらい眠い……
甘い香りの向こうから、呪文めいた声が聞こえる。
心臓がビクンと跳ねた。
ボソボソとした男性の声。
何なのよ、この不吉な響きは……?
眠い……眠い……眠い……
頭がグラグラする。
後ろに誰かが立っている。
逃げないと。
でも、足に力が入らない。
こんな状況なのに眠い……
石畳に倒れたあたしを見下ろして、長い銀髪がサラサラと流れる。
あとは覚えていない。




