第4話 お芝居
ステージに新たに現れた人影。
もちろんこれも役者なのはわかってる。
だけど、醜いドクロの仮面の下から客席を睨める瞳は闇を湛えて……
さっきまで舞台の中央に居た王様は、横にズレて膝をつき、それでやっとサマになるほど、死霊魔道役の人の背は低い。
だけどそれを補って余りある気迫が、その全身から、滲み出ている。
『ああ、王子よ! 我が息子よ!
若いお前は何もしなくともワシより長く生きられるはずのに、何ゆえ悪魔と手を結んでまで永遠の命など欲したのか!?
世に溢れる怪談話の幽霊どもは、死にたくないのに死んだからこそ幽霊になってしまうというのに!
お前は自らの意志で死霊魔道などという化け物になった!!』
膝歩きで死霊魔道ににじりよってすがりつく王様の顔面を、死霊魔道がナイフのように長い爪で引っ掻く。
王冠に仕込んだ血糊が飛び散って、王様を真っ赤に染め上げる。
『王子よ! お前はもはや生ける死人なのだな!! 人の心など一カケラも残ってはいないのだな!!』
なおもわめく王様を、死霊魔道は無言のまま打ち倒し、踏みつける。
王様はピクリとも動かなくなった。
あたしは思わず息を飲み、ベルナリオさんにささやいた。
「あの役者さん、すごい迫力……一言もしゃべってないのに怖い……」
「あれ、ユリアちゃんだよ」
「ほへ?」
ふむ。言われてみれば……
王様に続いてお妃様や大臣を無言のままに薙ぎ倒す度に、全身を覆うボロ布のようなローブの下からチラリチラリと覗く手足は、確かに女の子のものだ。
怒声を張り上げる兵士、逃げ惑う市民、立派な名乗りとともに現れた騎士。
喧騒がまるで別の次元のものであるかのように、死霊魔道は何を語ることもなしに、ただただ全てを蹂躙していく。
「ユリアちゃん、台詞を一個も覚えてないんだな」
「そうなんですかっ?」
「気合いの入った長台詞があったのに。台本を書いたやつ、泣いてるぞ。
ソフィア先生の代役にって急に決まったから、仕方ないんだけれどもさ……」
「あらら」
でも、これで正解だったと思う。
ユリアさんの、闇を纏ったような演技は、余計な言葉で邪魔しちゃいけない。
ユリアさんって、ちょっと話しただけだと元気すぎてウザイくらいの印象だったのに、あんな死人みたいな目が……ううん、死人の王の目ができるなんて。
騎士が必死で死霊魔道を足止めしている間に、農民のコンビが森へと逃げる。
それにしても……
『ああ、なんて恐ろしい! 死霊魔道は人を食らう度に闇の力を増していく!』
気になる……
『この国の人間は、わしら以外は全て死霊魔道に食われてしまった! このままでは隣の国もやられるぞ!』
何でこう、そろいもそろって棒読みなのか……
じゃなくて何でこの死霊魔道サマが、あたしみたいな一少女にわざわざ呪いなんかかけたのか。




