十二、七年目のクリスマス
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季節外れ? 「そんなの気にしない」精神で読んでいただけると有り難いです。
真白と過ごす七年目~始まります。
外に出れば冷たい空気に身が竦む。住宅街は夜と冬の張りつめた空気のせいか静まり返っていた。けれどそれぞれの家に灯る明かりがクリスマスの賑わいを感じさせる。かくいう私も、つい先ほどまでその空間に身を置いていたわけで。
連条家の門の前、私たちは何気ない会話を繰り返す。
「今日は、いえ……今年も。お招きありがとう」
「はい!」
満面の笑顔で答える真白に苦笑した。だって……初めて蓮条家を訪れたクリスマスから毎年のように訪れている。あの日飲めなかったはずのアルコールも今の真白なら飲み放題よ。なんだかんだと姑息な手段を繰り返す真白に出し抜かれ、今年もクロは姿を消し私は連条家にいる。
「毎年言っているけれど、見送りならここでいいわ」
あとは魔法で寮に帰るだけ。危険なんてないのに、真白は寮まで送ると言ってきかないのが毎年のこと。学生生活と連盟職員の活動に多忙を極めているからこそ、貴重な冬休みは家族との時間を大切にしてほしいのに、私の願いは無下にされっぱなし。
「このやりとり、懐かしいですね」
真白と出会ってから迎える七回目のクリスマスが終わろうとしている。
「君が素直に聞き届けてくれるのなら必要ないでしょう」
「そう言われると思いまして」
「なあに? ようやく折れる気になった?」
「今年は僕も寮で年を越すことに決めました」
「は?」
「七夏さんと一緒のお正月、最高ですよね。むしろどうして今まで実行しなかったのか過去の自分を呪いたいです。いっしょにおせちを食べてお餅を焼いて。あ、炬燵出しませんか!?」
「君って……そういう人だったわね。なら、次に私が何を言うかわかるでしょう?」
「考え直せ、ですよね」
「そうよ。でも君は姑息な手段で退路を奪う」
「人聞き悪いですって」
ならもっと困って見せなさいよ。どうして笑顔! しかも姑息な手段で退路を奪うについての否定はないのね。つまり最初からそのつもりでいるんじゃない。
「君は本当に――」
言い募ろうと口を開けば白い色が視界をかすめた。
「雪?」
掌を広げればはらりと舞い落ちる。それは私の熱で解けることはないけれど、こんな時ばかりは美しさを堪能できる。
「綺麗ですね」
私はそのまま口にするはずだった言葉を呑みこんだ。それよりも別の気持ちが溢れだしてしまったから。
「君はどうしてこんなにも私に構うの」
訊かなくても答えなんてわかっている。だってもう何度も何度も告げてもらった。それでも真白を信じきれない自分が嫌いだ。なんて意地が悪い、だから私は自分が嫌いなのよ。
「七夏さんが自分のことを大嫌いだとしても、僕はそんなところも含めて貴女のことが大好きですから。もちろん僕の家族も七夏さんのことが好きですよ」
「君のご家族は本当に素敵ね。とても素敵だから……羨ましくなる」
真白の家族は温かな人たちばかり。
厳しそうに見えても家族のことを想う優しい父親。
訪ねれば朗らかな笑顔で出迎えてくれる母親。
まるで友人のように気さくに話しかけてくれる兄姉。
誰もかれもが興味深そうに真白との関係を問い質すのは真白のことを大切に想っている証。
これをどうして羨まずにいられる?
「だから、嫌だったの……」
ずっと喉につかえていた想い。
両親がいて、兄姉がいて――そんな当たり前の姿をみせられることが酷く苦しい。泣きたくなってしまうから。狡いなんて、真白に醜い感情を抱きたくないのに。
やっと本音を零すことができた。こんな話を聞かされれば、さすがに来年も一緒になんて考えも消えるでしょう?
「やっと聞けた」
「え?」
「貴女の本音です。毎年何か言いたそうだったので、聞けて嬉しいです。だから――泣かないで下さい」
真白の手が頬に触れる。
「いえ、泣いていないけれど」
本当に泣いていないのだけれど。
「そうですか? それは失礼しました」
「さあ、早く戻って」
「ですから僕も寮に帰りますってば」
「本気だったの!?」
「僕はいつでも本気です」
知っているからこそ性質が悪いのよ!
「七夏さん、僕は毎年家族の自慢をするために貴女を呼んでいたわけではありません」
真白がそんな酷い人間ではないことくらい私にだってわかるつもりだけれど……
「僕の家族を紹介したかったんです」
「はい?」
「そして僕の大切な人を家族に紹介したかった。いずれこの人が家族になると知っていてほしかったんです」
ここまで言われれば意図にも気付くけれど……さすがに想定外よ!?
「冬が終われば春がきます。そうしたら、貴女はどこか遠くへ行ってしまう」
止まったはずの心臓が音を立てる。
あれだけ敏く用意周到な真白のことだ。私の計画が見破られていてもおかしくはない。あるいは密告者が関わっているかもしれないけれど。
「否定、しないんですね」
「君に嘘はつきたくない。君の前では師として、最後まで誠実な魔女でありたいから」
「ご立派ですね。僕は貴女のように高潔な魔女にはなれなそうだ……」
「そんなことない。君はとても立派に育ってくれた。私の誇りよ」
「買い被りすぎです。だって……貴女がいなくなってしまったら、僕は貴女を呪います」
呪う? この私を、真白が?
一歩間違えれば犯罪宣言ともいえる発言だ。
「愛って、呪いにも似ていると思いませんか? 呪って、呪って――どこまでだって追いかけてやります。ほら酷い人間ですよね」
「本気で言っているの?」
「僕の想い、甘く見ないで下さい」
止めのように真白が告げる。射貫くように私の目を見て語りかけてくる。
いつの間にか私は声を上げて笑っていた。
「七夏さん?」
真白がいぶかしむのも当然ね。
「ご、ごめんなさい。決して、君の想いを笑ったわけではないの」
笑いを抑え、呼吸を整えてから告げる。それが真摯な告白をしてくれた真白への礼儀だと思うから。
「これまでだって、私に寄り添おうとしてくれた人はいた。呪いを解いてあげる。助けたい。そう言われたことも少なくないわ。でも……私を呪うだなんて熱烈な告白、初めて」
初めてで――嬉しかった。
真白はありったけの想いでぶつかってくれた。だから私も覚悟を決める。この瞬間、私の答えは決まったの。
「私たち、きちんと話し合う必要があるわね」
「お時間いただけて光栄です。場所、変えますか?」
さすがに住宅街の真ん中でする話じゃないわよね……。
「君さえよければ行きたいところがあるの」
「はい。どこへでもおともしますよ」
そうして数時間後、私たちはとある国の山奥に立っていた。
この二人には冬が似合うようなイメージがありまして、そのため大事なことが起こるのはだいたい冬仕様。降りしきる雪を背景に見つめ合っていてほしい!
現在すでに完結までは書き終えておりまして、あと一息。見直しを終え次第投稿させていただきますね。
ので、次回完結致します。あと一話、二人を見守っていただけましたら幸いです。




