六、魔女の進路相談
あっという間に真白は二年へ、そして三年へと成長します。
冬が明ければ春が訪れる。
真白は進級して高校二年になった。私はもちろん、変わりなんてあるわけがない。……ああ、弟子が同僚になったというのは大きな変化ね。最近どこを見ても真白がいる気がするわ。
いつの間にか隣の席を陣取っていた真白は学校の合間に連盟の仕事について勉強しているところだ。アルバイトのように短時間ではあるけれど、いずれは入社をと上層部からの期待も熱い。最終的には本人の意思尊重によるけれど、こんな逸材普通なら逃がさないと思う。
「七夏さんは将来の夢ってありますか?」
「唐突にどうしたの?」
本当に唐突だ。さっきまではクラス替えの話をしていたわよね。それがどうして将来の夢になるのか。
「学校で進路調査がありまして、一応考えているところなんですよね」
ようやく少しは納得出来たかも。
「それがどうして私の将来の夢に繋がるの? 君の話でしょう」
「参考までに聞かせてください」
「私の夢なんて聞いてもつまらないから」
「あるんですか!?」
「あ……」
迂闊! 最初からないと言ってしまえばよかったのに。
「本当に、たいしたことないから」
「そう言われると気になるじゃないですか! 世間を騒がせている凄腕魔女の夢ですよ! どんな壮大な夢か気になります」
「本当につまらないことなの」
「どうしても教えてくれませんか?」
「諦めて。それで、君の将来の話でしょう」
さっさと仕切り直そう。私なんかの夢のことは忘れて早く!
「僕ですか? 僕はここで働く予定ですけど」
時間さえあれば仕事を覚えようと頑張っているものね。真白にとって魔法世界で働くということは即決出来るほど魅力的なことなのかしら? これだけ天才的な腕前を持っていればそうなるのかもしれないけど、私が言いたいのはそれだけじゃなくて。
「大学へは進学するつもり? 君の人生は始まったばかりなのよ。まだ他にもやりたいことが見つかるかもしれない」
「……特に思いつかないですね」
「いえ、もっと時間をかけて考えてほしいのだけど」
「でしたら参考までに。七夏んさんは大学進学する男ってどう思いますか?」
「いいんじゃないかしら。高卒でも連盟職員になることは可能だけれど、知識はあって困るものじゃない。大学を卒業して、それからゆっくり就職したって遅くないもの。インターンという手段もあるし、大学に通いながらでも仕事は覚えられる。君の実力ならそのまま採用されるはずよ」
「そういうものですか?」
「魔女にだって知識は必要とされるわ。無知では出来る仕事も限られる」
「つまり、七夏さんと同じレベルで働くためにはたくさんの知識が必要ということですか?」
「真白君も知っていると思うけれど、始めは誰もが総務に配属されるわ。研修期間が終わってもここに残りたいのなら、確かにその通りね。何でも可と呼ばれているもの、本当に何でもこなす部署よ。手広く扱い過ぎて、いつでも人で不足だわ」
「人手不足ということは、希望が通りやすかったり?」
「君はよほど総務に興味があるの? そうね、もし本当に働くことになったら、希望してくれたら嬉しいと思う。真白君は頼りになるから」
「僕、大学へ行きます」
「あの、私の話を真剣に受け止めてくれたのは嬉しいけれど、無理して進学する必要はないの。親御さんともよく相談して」
「無理してません。相談もします! だから、ちょっと回り道しちゃいますけど、待っていてください!」
「何を? 私が待つ必要ある?」
ちょっと感じの悪い言い方だったかも……。けれど本当に、私が何かを待つ必要があるのか疑問だった。置いていくのは真白の方。すぐに追い越してしまうくせに。背も、歳も、実力さえも――
「すぐに追いつきますから!」
真白は嫌な顔一つもせずに言い募る。
そして追い越してしまうのでしょう。
真白が素直な分、悲観的な自分が嫌になる。私の素直さなんて、きっと遠い昔に置き忘れてきた。
「そうだ! 第一志望の大学に合格したら、七夏さんの夢教えてください」
「はっ!? 嫌よ!」
「励みになるじゃないですか!」
「褒美が欲しいのなら別の物にして。秘蔵のコレクションでもあげるから!」
「七夏さんがそこまでムキになるから頑張れるんですってばー」
「くっ!」
頑なに譲らない真白には手を焼く。
その後、彼が第一志望の大学に合格したことは語るまでもないだろう。彼はそういう男だと私は知っていた。
「さあ、約束です」
得意げに語る真白、まるで悪魔だわ!
いつもは私が教えるという立場だけれど、今日に限っては逆転している気がする。偉そうにしているのが真白の方なんて。
約束だったものね……というより無理やり誓約書を書かされたし、魔法契約もさせられたし、そもそも師匠が約束を破っていいわけがないとかなんとか!
何でもないことのように嘘を吐いてしまえば簡単。でも私は今日まで必死に努力してきた真白を知っているから――
「こ、寿退社」
「それってあの、結婚して会社を辞めるという、あれですか?」
「……それ!」
もう自棄よ。ほんの短い単語を呟いただけで涙目になりそう。
沈黙がいたたまれない。笑い飛ばしてくれていいのに! その方が気が楽よ!
「わかってるから。私には難しい――というか無理なことくらい、わかってる」
まずは不老不死の呪いを解かないことには結婚なんて夢のまた夢、どころか口にするのもはばかられる。だから言いたくなかったのに。
それは昔からの、まだリリーシアだった頃から見ていた夢。結婚して、幸せな家庭を築いて――そんな普通の人生がいい。愛した人と、歳を重ねても笑いあってみたい。
どうせ今の私には叶うわけないけれど!
「ありふれた夢よ。好きな人と結婚をして、幸せな家庭を築いて――安らかに死にたい」
「その夢、僕が叶えてあげますよ」
「えっと?」
この子は何を言っているの?
「僕が叶えてみせます」
私が疑問符を浮かべているから? 言い聞かせるように何度も告げてくれる。
「だから諦めないでください」
「真白君……」
同情してくれたの? なんて、そんな風に問いかけるのは無粋かしら。せっかく君が私のためを想ってくれたのにね。
君は優しい魔女。私の呪いを解く助けになってくれるなんて、君の師匠になれて幸せだわ。その言葉だけで救われた気がする。
「ありがとう。期待しているわ」
私にはたくさんの生徒がいるけれど、未だこの呪いを解くには至らない。けれど真白ならばと期待してしまうのはどうしてだろう。圧倒的な才能のせい? それとも……彼が、どこか他の生徒たちとは違うから?
とにかく私は感動していた。この時の私はまだ、本当の意味で真白の言葉を理解出来ていなかった。解釈の違いに気付いたのは、真白が大学に入ってのことだった。
閲覧ありがとうございます。
次話より真白、大学生編となります。
これでようやく、自称十八歳の七夏リリと並べるところまできました!




