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呪われ魔女は現代を生きる  作者: 奏白いずも
思い出メモリアル
22/33

二、連条真白のアルバイト

店員が知り合いだと驚きますよね!

という話です。

 社内併設のカフェでお気に入りのメニューを頼んだら店員が弟子だった件。

 こういうことって良くあるの?


「何をしているの!?」


 どう見てもアルバイトなのだけれど……ここは本社。真白がいるような場所じゃない。


「七夏さんの驚く顔が見られたなら大成功ですね」


 いや、可愛く言っても無駄だから。なぜイタズラが成功したみたいに得意気!?


「バイトです」


「ここで!?」


 初めて聞いた。


「はい。高校生になったからには落ち着いたら働きたいと思っていたので」


「それは、年頃の男の子として当然の心理だと思うけれど……」


 なにもここでなくても働き場所はいくらでもあるのでは。


「ここはいつでも人手不足だって、七夏さん言ってたじゃないですか」


「それは、そう、だけど……」


 確かに言った。

 国際魔法連盟の人手不足はいつの時代も申告だ。そもそも絶対数からして魔女の数が少ないのだから、どの支部も働き手求む状態である。それは社内に併設される商業施設にも言えることだった。なにせ守秘義務があるので雇える人物に限りがある。


 確かに言った。

 併設されているカフェの人手が足りなくて店長が泣いていたとも。

 ……あれがいけなかったの!? だからって真白が提供してくれるなんて思わないでしょう!


「しっつれー! 君、名前は? ナナちゃんの何かな? あたし? あたしはナナちゃんの親友よ!」


 香子は興味深々に説明を求めている。

 運の悪いことに、賑わう時間は過ぎているので後ろに続く客がいてくれない。


「七夏さんの親友! それは失礼しました。トッピング、サービスしておきますね」


「あら、良い子じゃないの!」


「連条真白です。どうぞ今後ともよろしくお願いします」


 礼儀を叩き込んだ真白はすっかり別人のようになっていた。さすが私の教育のたまもの――じゃなくて!


「へえー、君が噂の……」


「噂?」


 こらそこに食いつかない!

 香子も意味深に呟かないで!


「真白――っ!」


 しまった墓穴を掘った。


「真白?」


 非難を込めて叫んだはずが、香子からのいかにも意味ありといった視線に口を閉ざす。


「――真白、くん


 訂正、ちょっとわざとらしかったかも。

 親しい人間は作りたくない。これが私の信条。だからたいていの人は名字で呼ぶし敬称もつける。香子の時ももめにもめ、最終的には「香子って呼んでくれないとありのまま報告しちゃうぞ☆」と健康診断の結果を盾にとられ私が折れた。

 そんな私が名前で、それも呼び捨てにしていることで香子はありもしない何かを曲解しているように思う。


 違うの、真白からどうしてもと押し切られただけで、私が率先して呼び始めたわけじゃなくて!

 だからといって必死に弁明するのも認めているような気がしてならないし、何を言っても今は無駄にしかならない気がする。


「おのれ真白! 貴様リリーシアの職場にまで現れるとは身の程を知れ!」


 お前がね!

 そう、他にうるさいのもいるし……

 すっかり私のストラップに落ち着いたクロが喚く。今度から睡眠魔法もかけておくべきか。


「それはクロさんでしょう」


 心情を代弁してくれたのは真白だった。


「ここにいる間は私とリリーシア二人の世界だったというのに!」


「クロ、うるさい」


 とはいえ結局は私も我慢ならず声に出していた。


「そんなっ! リリーシア酷い! でもそんなところも素敵ですぅ~」


 これだからいちいち反応したくない。


 あの日、私に沈められた奴は――

 人格が変わったのか、それとも最初から持ち合わせていた狂気なのか、鬱陶しさを増していた。

 もし私が引き金だとしたら、こんなことになるのなら頭を狙うんじゃなかった。


「何それ……ナナちゃん趣味悪くなかったでしょうに」


 香子が哀れっぽい眼差しを送ってくる。誤解だから!


「北海道で色々あって、不本意で持ち歩く羽目になっているだけ。本当は今すぐにでも捨てたいの」


 危険人物なだけに自分以外の誰かに任せるのも気が引ける。かといって目の届かないところに置いておくのも心配という結果だ。


「とにかく、ややこしくなるからクロは戻って、黙って。真白、くんは……クリーム、ありがとう」


「はいっ!」


「ふーん……」


「香子、何? 早く席へ行きましょう」


 平静を装い着席を促す。


「あ、今なら窓際もあいてますよ」


 真白に接客される日が来るなんて不思議な感覚だった。二十年ぶりに友人と再会して、お気に入りのメニューを食べて、幸せなことばかりだというのにまだ落ち着かない。


「ホント、良い子じゃないの。あ、もちろんサービス関係なしによ」


 香子が真白を褒めるのは二度目。なんだかんだ言っても、彼が褒められるのは自分のことのように嬉しかった。それくらいには情が移っているのかもしれない。


 それにしたって……見られている。前に座る香子、レジにいる真白、あと黒いの。


「真白くーん。あたし医務室にいるからさ、ナナちゃんのこと聞きたくなったらいつでもおいでー!」


「ちょっと、香子!」


 こんなことを言い出すものだから落ち着いて食べられるわけがない。


「へえ、興味あります!」


 真白は真白で面白がって反応するし!


「二人で盛り上がらないで……」


 お気に入りのカフェで羽を伸ばすはずが、どっと疲れていた。

 

 香子と別れ、時計を一別すればまだ少しばかり余裕がある。そういえば……

 さっきは香子の前で言いにくかったけれど、まだ真白に伝えていなかったっけ――


 私はつい先ほど退店したばかりのカフェに再度顔を出す。


「あれ? いらっしゃいませ。どうしたんです? そんなに美味しかったですか? 二杯目が食べたくなったとか」


「……そうよ。君が作ったの、いつもより美味しかっからって、伝えそびれて……ごちそうさま」


 二、三度瞬き、我に返った真白が笑みを見せる。そんなに私が褒めるのはおかしいこと?


「貴重な七夏さんも見られましたし、ここで働いて良かったです」


「何を見たのかしら?」


 そこは詳しく聴かずにはいられない。


「七夏さんて、友達の前だとあんな感じなんですね」


「……どんな?」


「普通で驚いたんですよ。いつもはしっかりしてるなって、大人だなって感じてばかりなんですけど、案外普通なんですね」


 私を普通と連呼するのは、真白くらいよ……


「君の言うことがいまいち理解できないのだけれど」


「慌てる七夏さん、可愛かったですよ」


「……忘れて」


 同じような空気になるのがいたたまれず、それから私は誰の前でも『真白君』と呼ぶよう改めている。真白は不服そうだったけれど、こればかりは譲れなかった。


 真白と出会って、代わり映えのなかった時間に変化が訪れている、そんな気がした。彼といれば退屈とは無縁。この時は、それも楽しそう――とか思ってしまったけれど……訂正。平穏求む!


 そう、これはまだ始まりにすぎなかった。

閲覧ありがとうございます!

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