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呪われ魔女は現代を生きる  作者: 奏白いずも
思い出メモリアル
21/33

一、七夏リリの異動

ここから新章突入です。真白は高校一年生となります。

別名・真白と過ごす一年目~

ちなみに最初に書きました『現代の魔女事情編』は真白と過ごす七年目~の出来事にあたります。

【七夏リリの日記】


 2△△1年4月×日


 日本で確保した奴(これを便宜上『クロ』と呼ぶことにする)からは依然として呪いについての有益な情報は得られていない。

 ヨーロッパ支部には異動願いを提出。泣き出す支部長を前にしては申し訳なく思うも、どうしても日本に行きたい理由が出来てしまった。

 不幸中の幸いとでも言うべきか、日本で出会った天才。連条真白と師弟関係を結んでから初めての春。七夏リリとしての新しい私を始める。長い髪も、もうやめてしまおう。いつまでもクロとの思い出に拘っているようで不愉快だ。

追記……日本の桜は美しいと評判なので本社からも臨めるのは有り難い。


 2△△1年5月×日


 真白は短期間で圧倒的な成長をみせている。

 高校入学直前、初めの一ヶ月は滞っていた学業を徹底。私の弟子になったせいで学業がおろそかになったとクレームを入れられても困る。

 それにしたって要領が良いと感じるばかりだった。でも時々、私には理解し難いこだわりを見せている。


 日記を書く手を休め、本を閉じた。

 そう、例えば――


「ねえ――じゃなくて、あの! 僕はあんた――じゃなくて! 僕は貴女の一番弟子ですか!?」


 律儀に教えを守ろうとする姿勢には感心する。

 若さが眩しく、期待に満ちた眼差しには申し訳なさを憶えた。なぜなら私は否定しなければいけないから。


「いいえ」


 世界の終わりのような顔をする真白が少しだけ面白い。というのは内緒にしておくけれど、数えるのが大変なくらいはいる。

 私はいつだって期待していたから。優秀な魔女が増えれば、誰かがこの呪いを解いてくれるかもしれないと。


「確かに弟子はたくさんいるけれど、一番将来有望そうなのは君よ」


 一転して笑顔。同一人物かと疑わせるほどの豹変ぶりだった。


「嬉しいです! 僕、七夏さんの期待に応えられるように頑張ります!」


「君はとても頑張っていると思う。真面目に学校にも通っているし、学業を疎かにすることもない。魔法の修行も欠かさずに続けている。だから、あまり無理をしないで」


 学業に魔法、加えて私は体術も教えている。なぜなら魔法だけに頼っていては油断を招く、足元をすくわれる危険がある、というのが私の理論だから。

 これについても日頃から色々と体を動かしていた真白は根を上げるどころか成績優秀なのだから驚かされた。

 あまり無理をさせ過ぎても酷だろう。彼は私とは違う。頑張るしかなかった私とは別人なのだから、自分を重ねすぎてはいけない。潰れてしまう。


 次のトレーニングメニューはどうしよう……

 午後の休憩中、日記を書き終えた私は移動の合間に計画を練る。

 今日の特訓は真白の都合で休みになっているけれど、次は何を教えようか……


「ナナちゃーん!」


 この声――

 それに私をナナちゃんと呼ぶのは一人だけだ。


「もしかして、近江おうみさん?」


 振り返った先にはこちらに向かって手を振り続ける女性がいた。そして私の対応に口を尖らせている。


「相変わらずお堅いわねぇ。香子きょうこって呼んでよ」


「香子さん、お久しぶりです」


 近江香子おうみきょうこは遡ること二十年前、かつて日本支部で働いていた頃の同期。二十年周期なら顔見知りもいるかと不安だったけれど、この二十年で日本支部も大きく変わっていた。現場に残っている顔なじみはほどんどいなかった。


「だーかーらー、昔みたいに話してくれていいのよ?」

 

「でも……」


 だって、あれから二十年も経っているのに?


 その間、一度だって連絡を取り合ったことはない。香子は別れを惜しんでくれたけれど、私には連絡を取る勇気がなかった。いつもそう、だから連絡先を告げずに消えてしまうの。

 私の姿は変わっていないけれど、香子はすっかり大人の女性になってしまった。手の届かない存在になってしまったようで、こうして話しているだけでもどこか寂しさを感じてしまう。


「あたしら同じ戦場で戦った仲じゃないの! すっごい可愛い子が異動してきたって噂になってたし、特徴聞いてもしかしてって思ったけど、まさか本物とは驚いたわね。……挨拶くらいしにきてよっと思わなくもないけど、逆にブレなくてナナちゃんらしいわ! 久しぶり」


「ごめんなさい」


「いいのよ。ナナちゃんの気持ちも、その……わからなくはないから。だから今は再会を喜ぶことにするわ! またここで働くの? あたしが生きてるうちにはもう戻ってこないかと思ったけど、嬉しい驚きね」


 変わらない香子の態度は救いだった。彼女が変わらずにいてくれるのなら、私も彼女の希望を汲みたいと思う。


「あまり私の正体が露見しそうな発言は、控えてね?」


 注目を浴びるのは好きじゃない、というか困る。私はあくまで春の異動でヨーロッパ支部からきた一社員という設定だ。間違っても西の魔女なんて大層な肩書は背負っていない。


「え? もしかしてナナちゃん普通に働いてんの? 上層部じゃなくて?」


「総務課第一室所属。私はただの一社員」


「マジ? ナナちゃんなら軽く支部長クラスじゃなくて?」


 私は人差し指を立て唇に当て内緒のジェスチャーをとる。


「肩書なんて重いだけ。現場が一番情報の集まる場所。それに……」


 真白という存在についても話すべき?

 すると香子は何かに気づいたようにはっとする。


「え、うそ、それってまさか……誰か、一緒にいたい人がいる、とか?」


 香子は鋭かった。

 一つ頷く。


「あの頑なだったナナちゃんが! 確認するけど、男なのね!?」


 もう一度、頷いた。


「彼が一人前に成長するまではそばで見守っていたくて」


「え、相手年下――って、まあナナちゃん相手だったら皆そうなるんだろうけど……」


 香子は医務室勤務なので私の事情も知っている。健康診断の時は結果偽造のために大変お世話になった間柄だ。


「で!? 世紀の魔女様のお相手はどこの誰!」


 しかし私たちの会話にはズレが生じているようだ。

 長くなりそうなので近くのカフェに移動しないかと提案する。もちろん社内併設のカフェであり、私の目的地でもあった。


 私が日本で出会った天才、連条真白について話した。

 

「なーんだ残念」


 移動しながら真白について話せばこの反応だ。

 何が残念?


「私に限ってあるわけがない。すみません、ストロベリーパフェデラックスバニラアイス乗せで」


「あたしキャラメルバージョンでお願いね。そう? だって、その子はどうなのよ。ナナちゃんの話じゃ、将来有望天才魔女様じゃないの!」


「だから違うの。香子は現在いまも医務室勤務?」


「そーよー、なかなか後進が育たなくて困っちゃう。おかげで結婚してもこのザマね」


「え――」


 その二文字に固まった。


「ナナちゃんが過去の交友関係バッサリ切り捨てて異動したせいで報告遅れちゃったけど、結婚しましたー!」


「え――」


「今のあたしは近江じゃなくて鈴原香子です」


「……おめでとう」


「ありがと」


 それ以外に言えることなんてなかった。羨ましいとか、私がそれを言ってしまったらとてつもなく空気が重たくなってしまう。


 そんなことを考えていたせいか、注文する際に欠かさず頼んでいるホイップクリーム大盛を忘れていたことに気付く。痛恨のミスだ。


「お待たせしました! ストロベリーパフェデラックスバニラアイス乗せです。ホイップクリーム、サービスしておきましたよ」


 気が利く店員で助かった。あまりにも何度も注文しているから覚えられているのだろうか。この短期間にちょっと頼みすぎたかも?


「お気遣いありが――」


 暢気に感謝している場合じゃなかった。


「ま、真白!?」


「ご来店ありがとうございます!」


 危うく大好きなメニューを味わうことなく握り潰すところだった。

新登場は鈴原香子すずはらきょうここと旧姓・近江香子おうみきょうこさんでした。

かつて日本支部に所属していた頃の貴重な友人です。

現在四十二歳で幸せな結婚生活を送っております。

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