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呪われ魔女は現代を生きる  作者: 奏白いずも
最強と天才と黒の出会い
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三、リリーシア・ルベイラの不幸

七夏リリが語る、彼女の不幸――

 かつてリリーシア・ルベイラという公爵令嬢がいた。もちろん過去のこと、なにしろ彼女はとっくに死んだことになっている。


 今にして思えば――

 なんてありふれた言葉だけれど、前兆はあった。

 雨男、雨女と定評のあるルベイラ家である。けれどその日は満天の星空が広がっていた。後にブランの奇跡と称されるほど珍しいことである。

 月は血に染まったように赤く、不気味に見守っていた。


 舞踏会は嫌いだった。

 雪薔薇、それが私の……リリーシア・ルベイラの社交界での通り名だから。雪のように白い髪に深紅の薔薇を差し、深紅のドレスに身を包む――まるで雪薔薇だと周囲はもてはやした。何度反論しようと一番似合うからと家族やメイドに押し切られ、この白髪が引き立てられるような格好が大嫌いだった。

 もちろん家族が嫌いなわけじゃない。だからこそ大嫌いな格好だろうと我慢した。ルベイラの異端、愛人の子などと影で囁かれようとも、ルベイラであることは私の誇りだったから。


 この容姿のせいで悪い目立ち方をしてしまう。それでも気にせず寄ってくるのは家柄目当ての人間ばかり。

 さらには予備靴持参などという訳の分からない家訓まであるのだから楽しめるわけがない。どういう理屈か壊れたり失くしたり毎回痛い目に遭うものだから、どうしても好きになれなかった。


 そんな日は、いいえ。そんな日でなくとも。私は大抵バルコニーでひっそりと過ごしていた。舞踏会を楽しみたいという年相応の望みもあったけれど、白髪を噂されては大抵肩身が狭くなってしまう。

 あの頃は気弱だった。失礼な! 私は正真正銘ルベイラ家の娘よ! くらい言い返してやればよかったのに大人しいものね。


 退屈な舞踏会に辟易し、周囲が品定めよろしく目を血走らせている中、外に出てしまったのがいけなかった。だから興味を持たれてしまったのかもしれない。


 その日も私はバルコニーで一人虚しく月を見ていた。

 追いかけてくれる人なんていない。私もそれを望まないと明言していた。……でも本当は、心のどこかでは待っていたのかもしれない。


「こんばんは、美しいお嬢さん。良い月ですね。血のように赤い」


 声をかけてきたのは見知らぬ男だった。真黒なタキシードに闇のような黒髪。赤い瞳だけが異様に際立っていた。


「……そう、でしょうか。美し過ぎて、わたくしには少し、不気味に映ってしまいます」


「ほほう、謙虚なお嬢さんだ」


 奴は機嫌よく笑ってみせた。


「どなたなのですか?」


「さしずめ私はお嬢さんの美しさに引き寄せられた蝶とでも」


「お上手ですのね」


 褒められて悪い気はしなかった。何より彼の言葉には私を貶そうという意図が感じられなかった。だから油断していた。


「わたくし、リリーシア・ルベイラと申します。あなたは?」


 簡単に名を明かしもした。


「本当に、名乗る名はないのですよ。お気になさらず、リリーシア嬢」


「お名前がない? 招待客のどなたかではありませんの?」


「その髪は純白の雪。飾られた薔薇は最上の引き立て役。ああ、貴女はなんと美しい。月も星も花も! あなたの前では全てが霞んでしまう!」


 まるで私の話を聞いていないように恍惚と語る。


「あの、いくらなんでも……褒めすぎではありませんか?」


「ああ、このまま時を止めてしまいたい。永遠に美しく在ってほしい」


「あ、の――?」


 赤い瞳が妖しい輝きを放つ。そこには怯える私が映っていた。

 得体が知れない。意識して急に身体がすくんだ。

 まるで蝶、蜘蛛に睨まれ追い込まれているような気分だった。ここは蜘蛛の巣の上どころか、相手は蜘蛛ですらないのに。


 もっと性質の悪い何かだった。

 

 危険な存在だと認識した頃には手遅れだったのかもしれない。もっと早く、早々に悲鳴を上げるなり逃げ出していればよかったのかも……いくら後悔したって遅い。


 短く喉を鳴らすだけで精一杯だった。

 瞬きの一瞬で唇を塞がれていた。


「んっ!?」


 氷のように冷たい唇が触れ背筋が震えた。

 冷たいからじゃない。目に見えない何かに心臓を握られているようだった。


 私はすぐに解放されたけれど、酷く身体が怠い。糸が切れたように倒れ込む。

 次第に体中が冷たくなっていく。水の中に放り込まれたように苦しかった。


「私のリリーシア、美しい人。貴女は永遠にこのままだ」


 何を、言っているの?

 ひどく残酷な響きだということは理解できた。


「美しい! 美しいものには永遠を! 願わくば、また会えることを期待します。ご心配なく、貴女は永遠に美しいままなのですから。気が向いたら、また麗しの顔を拝見しに窺うといたしましょう」


「ま――、って」


 朦朧とする意識の中、柵に縋りつく。

 

 乙女の唇を奪っておいて、それで済むとでも!?


 このまま逃がしてなるものか!

 もはや意地だった。私は渾身の力で靴を投げていた。混濁する意識でよく投げられたと思う。乙女の執念だろう。


「ぎゃっ!?」


 闇の中、どこからか聞こえた情けない悲鳴。それを最後に意識が薄れていく。


 よしっ!


 どこかに当たったのだろう。また今回も無事に靴を揃えて帰宅出来なかったけれど悔いはない。


 その時はまだ呪いの存在を疑いもせず、一矢報いてやれたという満足感に意識を手放していた。だってまさか、舞踏会で不老不死の呪いを貰うなんて思わないでしょう?


 さあ、もう一度あの夜をやり直しましょう。

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