二、天才が現れた
七夏リリ視点
出会い編、本格始動!
この時の真白は中学三年生となります。
12月24日 8:00 現在地:ヨーロッパ支部
国際魔法連盟より緊急入電。
日本にてそれらしき人物を目撃ただし詳細は不明。誤報の可能性あり。
誤報? そんなこと今更、たとえ少しでも可能性があるのなら私は行く。なにしろ十年ぶりのターゲット反応なのだから。
第一級特例事案につき、西の魔女の名において最上位権限を行使。ただちに現場へ急行する。
12月24日 13:00 現在地:日本
捜索開始
12月25日 8:00 現在地:日本
一日経過
四十七都道府県を捜索するも消息掴めず。
1月24日 8:00 現在地:日本
一月経過
無様としか言いようのない結果。
リリーシア・ルベイラ、それが私の本当の名前。幾度も名を変え経歴を偽り生きてきた。それもこれも長年追い続けている奴のせいといえる。
奴と出会ったのは月の綺麗な舞踏会の夜という、まるで御伽話のようなシチュエーションだった。それが物語の出来事だったら王子様に見初められるか、王子様が助けてくれてハッピーエンドになるだろう。
侮るなかれルベイラの血筋。たった一度の出会いが私を破滅に突き落す。そいつが私の人生を滅茶苦茶にしたの。誰にも渡さない。奴は絶対に私が――仕留める。捕まえて贖わせる。
そう誓って故郷を発ったのは何年前のことだろう。
数年ぶりに奴の目撃情報がもたらされたのは日本。すぐさま所属しているヨーロッパ支部に特別有給願いを申請、その日のうちに日本を訪れた。
これが一月前の出来事ともなれば私は焦っていた。
クリスマスも年明けも完全スルーして捜査に当たったけれど、確保どころか目にすることさえ叶わない。たまりにたまった有給だけに時間切れの心配はないけれど……何の収穫もないというのは心を抉られるようだった。
必死になって日本中を探し回っているけれど、もう日本にはいないかもしれない。そもそも誤報だったのかもしれない。そんな絶望が色を濃くしている。
――次はどこへ行く?
前回の目撃情報は十年前のヨーロッパ。それならばとヨーロッパ支部に勤務していたけれど、当ては外れていた。
このまま転位してヨーロッパ支部へ戻るべきか……
時々、不安に思うことがある。
正体不明、神出鬼没。わかっているのは奴が私の仇であるということだけ。
そう、あの日奴を目撃したのは私だけだった。信じたくないと拒否するあまり幻を追いかけているのかもしれない。虚像を作り出し、誰かのせいにしたいだけなのかもしれない。
もう何度目?
確かな手がかりもないまま痕跡だけを追い続ける。進展のない状況に苛立ちもしていた。
呪いが減らない、今日も呪われ魔女のまま。いつまでたっても好転しない現実に胸をかきむしる。そこにある呪いに怒りをぶつけるように。
「疲れた……」
この一言に尽きた。
帰ろう――本当に帰る場所はとっくに失くしてしまったけれど、今は仮初でもいいから帰りたい。
とてもゆっくり電車に乗って帰るような気分にはなれない。気が立っている時は周囲に影響を与えてしまう恐れもある。
そこの路地裏には人がいなさそう。もうこのままヨーロッパ支部の寮まで帰ってしまおう。
そう考えて足を向けたのに先客がいた。
「誰? 邪魔しないでよ」
私を見つけるや、喧嘩腰のような台詞を投げかけてきたのは金髪の少年だった。目つきは鋭く纏う空気もピリピリしていた。
一目でわかった。私は不良の喧嘩場面に遭遇していると。けれど抗争には決着がついたのか、彼以外は地面に倒れている。周囲には金属バッドやら物騒なものが転がっているけれど彼は素手だった。大きな外相も見られない。
「別に邪魔をするつもりはないから」
お互いのためにもかかわらない方が賢明。
私にとって、ここは使えないかくらいの認識だった。本当は一秒でも早く帰ってしまいたかったけれど残念。別の場所を探して……
呆気なく背を向ける。それでこの出会いは終了だ。
「は? おい!」
今の私が色んな事に苛立っているように彼も同じなのだろう。喧嘩の鬱憤もはれていないのか、背中に向けて殴りかかる気配を感じた。
「私、急いでいるの」
少年にしては良いパンチだとは思うけれど、これで私に敵うと思われるのは癪だ。振り向かずに拳を受け止める。
大人げない対応だったと思う。けれど私もまた気が立っていた。いつもならさして構わずに通り過ぎただろうに。
バチッ――
えっ?
触れた場所が静電気のような反応を起こし熱を持つ。
「な、なんだ!?」
ああ、この子も魔女の子孫なのね。拳にはかすかに魔法の気配が宿っていた。
「君、魔女?」
「は、何言ってんの?」
「そう、自覚はしていないのね。なら、私はしかるべき対応をするべき、よね……」
少年は初めての感覚に戸惑っている。もしかしたら私が何か影響を与えてしまったのかもしれない。本当は早く帰りたいけれど……そうも言ってはいられない。たとえ有給中でも、私は国際魔法連盟の魔女なのだから。
「今のは魔法と呼ばれるものよ。君は魔女の子孫で――」
お決まりの説明をしていると電話が鳴った。
慌てて反応すれば赤いランプが点滅している。これは私が日本中に設置した奴用の警報装置に反応があったというサイン。
「失礼!」
かつて奴と接触した際身に着けていた宝石を砕き、奴の気配に反応するようプログラムした魔法具。奴を補足するために重ねた理論に呪文の数々は今もこの世界で生きている。もちろん特許も取得済み。展開には時間も魔力も消費するからたくさんは設置できないけれど、まさか網にかかるなんて奇跡!?
「どこ!?」
画面に表示されていたのは北海道という文字だ。
「見つけた!」
叫びながら転移魔法を展開する。
連盟職員としてはただしい選択じゃないこともわかっていた。でも今だけはお願い! 後でどんな罰を受けたっていい。この瞬間だけはリリーシア・ルベイラでいさせて!
「君、詳しい話は後で」
「無視するなよ!」
もう遅かった。
少年は私の展開した魔法を感じ取っていたのか、落ちている金属バッドを拾っていた。振り上げられたバッド――そこには強い魔力が込められていた。杖で防壁を張ったけれど衝突は免れない。
「うわっ!」
「なっ!?」
魔法が相殺された。
金属バッドで私の魔法を砕いた!? 何なのこの子、天才!?
数分前までただの人間だった。怒りという感情に乗せて力が浮き出るくらいの微かな魔法レベル。それが私という魔女と接触したことによって成長したというの? たった数分でここまで爆発的に力を飛躍させるなんて、しかも無学で!
運の悪いことに事態はこれだけで終わらない。
私の転移魔法は無事成功していた。そう、彼も一緒に飛んでしまったのだ。関東のとある県から、遠い北海道の地まで。
かつて魔法の師である曾祖母は言ってくれた。
『お前は誰より素晴らしい魔女になった。誇っていい。お前は努力の天才だ』
でもね、おばあさま。私、本物の天才と出会ってしまいました。何人、何百、何千――たくさんの魔女を見てきたけれど、彼は文字通りの天才。きっと彼は、私が努力で手に入れたものを容易く凌駕してしまう、そう直感しました。その行く末を見てみたいとも。
「まさか、私がこんなミスを犯すなんて……」
長年の宿敵に手が届くかもしれない。私の欲が彼を巻き込んでしまった。
「なっ、ここ、どこ……」
少年は唖然としている。それもそう、彼は魔法すら認識していなかった一般人。
「巻き込んでしまったことは心から申し訳なく感じています。でもお願い。どうしてもやらなければならないことがあるの。だから、お願いします。慣れない土地で心細いかもしれないけれど、しばらくどこかで時間をつぶして――君、名前は!?」
「そんなこと――」
「いいから早く!」
「れ、連条真白だけど……」
剣幕に押されるように少年が答える。
早く、早く――焦りが私を突き動かしている。
転移の出口である日本支部が借りている建物は幸い街中だった。カフェなりコンビになり時間を潰す方法はたくさんあるだろう。
「連条真白、覚えたわ。領収書をもらってくれれば後でいくらでも払うから!」
「あ、ちょっと!」
追いすがる声を最後まで聞いている暇はない。魔法具はまだ反応を示している。つまり、この北海道に奴がいる。
自らに目隠し魔法をかけ地を蹴る。この日の北海道は猛吹雪だった。
だから? 天候ごときに私の執念は遮れない。
どこ――
どこ――
上空を飛び回り反応を探す。
どこにいる!
やがて辿り着いたのは北海道沖だった。
「やっと見つけた」
かつて舞踏会に足を運んだ時よりも高揚していた。だとしてら最初から私の本質はこちら側に、魔女の世界にあったのかもしれない。
「会いたかったわ」




