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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

意識と無意識の境界線(短編)

意識と無意識の境界線 〜 koŝmaro

 沢山の人々が強制的に一カ所に集められてる。自分もその内の一人・・・。

 周囲を見ればビジネスマンのような人々が殆どだ。


 “私”の視線の先には大きな飛行機の胴体が硝子越しに見えている。


 (ここは空港か?)


 人々は烏合の衆ではないようだ。何か目的をもった人々が、何者かによって集められているこの状況ーーー。


 ここにいる人々の顔には不安の色がはっきりと見て取れる。


 気温が高いのか背広を着ている者は殆どおらず、皆白系のワイシャツにネクタイもしくはノータイという軽装だ。


 “私”は自分が何者か判らない。なぜなら“この人”の目を通して見ているだけの様な気がするからだ。だが彼らの仲間だと感じている。同士だとも。


 私は女性だったはずだが、この人はどうやら男性のようだ。内面に意識を向けると、“この人”はこの状況をかなりまずい状態と判断しているようで一刻も早く逃げ出さなければならないと、大きな不安に狩られているようだ。妙な汗が体を伝っているのも感じられる。顔の筋肉が勝手に引きつろうとするのを無表情を保とうとするのが精一杯だ。


 (焦る。焦る。焦る。ーーー早くこの場所から逃げなければ!!)


 それはここにいる誰しもがそう思っているはずだ。


 不思議な事に自分達を集めている奴らも同様にスーツ姿だ。サングラスをしているので目つきはわからない。外国人か? それを除けば至って一般的なビジネスマンといった風情である。だが、彼らの口元は口角が怪しげに上がり恐らくそのサングラスの奥の目は笑っているのだと思われる。


 ドクンドクンと早鐘のように心臓の音が煩い。呼吸も荒くなってきているが悟られる訳にはいかない。


 飛行機側へ詰めるように見せかけ、こっそりと場所を移動する。


 (ああ、ここにいる彼らは死んでしまうのか! 自分もきっと彼らと一緒の運命を辿るのか?)


 この状況で彼ら全員を助ける事は出来ないと言う事を、なぜかはっきり自覚している。


 突然、飛行機側のガラス張りの扉が開きガードに取り囲まれた我が国の最高指導者が入ってきた。彼は一段高い所へ立つと両手を広げ何かを話し出した。心臓の音が煩くて聞こえない。どうやら安心しろと言っているようだが・・・政治家は何故こうも演説が好きなのだろうか? こういう状況に陥っているのに何を安心しろと? 


 私はなぜかこの演説をしている最高指導者も死ぬと感じている。ここにいる誰もが助からないだろうとも。


 (どうやって殺されてしまうのか。ーーー苦しむのだろうか、痛いのだろうか、大切な人達へメッセージは伝えられないのだろうか・・・一秒ごとに絶望感が募る・・・逃げなければ、逃げなければ、逃げなければ・・・怖い怖い怖い怖い怖い)


 頭の中はもう謂れの無い恐怖で一杯だ。




 サングラスをかけた背の高いスーツ姿の男が入ってきた。口元はガムでも噛んでいるのか絶え間なく動かし、嫌な笑みを浮かべている。


 (終に来た、来てしまった・・・こいつだ。こいつが私たちの息の根を止めるヤツだ!)


 体が震えるのを感じる。だが、おかしなモノでどこか直接的な震えは感じない。恐怖だけはダイレクトに響いて来ると言うのに!


 見れば男の手には白いホースが握られている。直径は15cm程だろうか。掃除機のホースの様な波を打っている長いホースが扉の先まで延びているようだ。


 逃げろ! と強く強く思ったその時、そのホースから濃密な真っ赤な炎が吹き出した。


 あっという間に周囲が火の海に変わる。集められた人々は逃れようと必死だ。“私”はその混乱を利用して黒い煙の下を搔い潜り飛行機側の扉へと逃れた。途端、ひどい後悔の念が生まれる。中にいる同士を助ける事もせず一人逃げ出した事への自責の念・・・だが、それはまだ早い。自分も生きながらここから離れる事ができるのか判らないからだ。飛行機も炎に包まれ大爆発を起こしそうだ。


 (一刻も早く逃げなければ!)


 黒い濃厚な煙が背後から迫って来る。

 もうもうと立ち上る煙の下を背を低くして搔い潜る。足は止めてはならない。止めたら最期だ!


 懸命に足を動かしていると見知った場所に出た。懐かしい場所だ。田舎の風景か? ホッと一息つけるのかと思いきや周囲にはサングラスをかけたスーツ姿がチラホラいるのを見える。“私”は音を立てないようにこの大きな体を茂みに隠すように姿勢を低くしたまま様子を窺う事にした。


 直感で分かった事が一つ。


 あそこにいた同士達は全員死んだだろうということ。そして最高指導者も。ーーー我が国の最高指導者が他国によって暗殺された事実・・・無茶苦茶だ・・・めまぐるしく思考だけが動く。


 さぞ痛かっただろう熱かっただろう苦しかっただろう。生きながらに焼かれてしまった彼らの無念さ、助ける事もせず一人逃げ帯びた自分への悔恨・・・。だが、この状況ではいつ見つかってもおかしくない。どうすればいい? どうすれば彼らに見つからずに生き延びられる?


 考えろ考えろーーーーーーー!



 自分が冷静なのか混乱しているのかすら判らない。このままでは彼らに見つかってしまう!

 気持ちが焦るが打開策が見つからない!

 焦れば焦るだけ恐怖も増してくる。

 殆どの思考が恐怖に包まれた時・・・


 「ここは・・・?」


 薄暗い天井、見た事のある天井だ。


 「ゆ・・・め?」


 私は夢を見ていたようだ。だがあの恐怖は体に残っている。


 (怖かった。本当に怖かった。一体何故こんな夢を見る?)


 夢に意味を持たせるなんてナンセンスだ。きっと疲れていてシナプスが妙な回路で繋がったからだ・・・


 恐怖から落ち着いた頃、


 ーーー15年後ーーー


 不意に文字が頭の中に浮かぶ。

 


 「え? 何? 今の15年後の光景? 最高指導者が暗殺されるの? 多くの人々とともに・・? ひょっとするとあのワイシャツ姿の人達は我が国の役人達か? 私はその中の一人になっていた・・・?」


 (“私”だった“あの人”はどうなっただろう。生きてあの場を離れる事が出来ただろうか・・・?)


 考えても答えは出ない。枕元にあるリモコンでテレビをつけると現在の我が国の最高指導者がテレビに映る。強気の姿勢は不安の広がる心を落ち着かせる。


 15年後にこの人が死ぬの?


 再びグルグルと考え始める。答えは出ない。なぜなら夢だから。そう、今のは全部夢だ。あの恐ろしい感情も生々しい人々の恐怖の声も、火に焼かれる熱さも、爆発も・・・




 全部、全部、夢だ・・・


 悪戯な数字の見せる夢・・・



 YYYY年6月13日金曜日 朝


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