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リズベルト・シンソフィーの冒険  作者: 阿江
第1章 リヘルトという少年
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子供


 特徴は赤く輝く目。

 そして『食事』は人―――人の血。

 

 目の前の少年の瞳にロニィは気圧されたように一歩下がった。



「吸血鬼……ですか?」

 奴隷商の言葉に熊のような男は、できものが出来た唇をニタリとつりあげた。


「ええ」


「どうやって……、この大陸には吸血鬼は居ないはずでは……?」


 動揺した様子の奴隷商に、熊のような男はニヤニヤと薄ら笑いを続けた。ロニィは嫌な気分になった。

 これから聞かされるのは、薄汚い話であるように感じたのだ。


「いやね、こいつは流刑者(つみびと)なんですよ」


 流刑者、この大陸に住み獣人や亜種人族の祖先。他の大陸、獣人や亜種人族が住む大陸から、『人間庭園』とも言われるこの大陸、人間至上主義の大陸に『罰』として送られる。


 それに、奴隷の首輪も、丁寧に付けられて。


 ロニィは子供に視線を移した。まだ7歳か、そこらにしか見えなかった。


 幼いから。それが理由にならないことは、ロニィにだって分かる。なぜならロニィも幼い頃売られた。


 でも、この王様が罪人? この人は、なにされても許される。


「吸血鬼が、流刑者になるなど」


 ありえません、奴隷商は言った。

 そう、吸血鬼が居るのは栄華を誇る、ユネシア大陸だけ。そして吸血鬼(ヴァンピルア)はユネシア大陸での『王族』だけだ。


「王位継承の問題……?」

 自問を続ける奴隷商に男は言った。


「それでこいつは、いくらで売れる?」








 結局子供はそれほど高額で買われなかった。

 『食事代』の問題と、それと、


「手に余るますよ、これは」


 奴隷商が本気で、そう思ったからに違いない。熊のような男も、奴隷商がつけた値段に抗議したが、奴隷商の言葉に黙った。

 この大陸でも有名な愛玩奴隷商人がこういうのだから、他に酔狂で買ってくれる商人を探すのは一苦労だ。ロニィだって、分かる。


 ロニィは嫌だった。自分が彼の世話をするなど。

 恐怖などそういうものではなかった。

 罪悪感だ。種として圧倒的格下の自分が、圧倒的格上を世話するなど。



 そしてその少年―――リヘルトとは、品物(しょうひん)になったのだ。




 紛れもなく、恐怖政治だった。

 彼に怯えるあまり、夜に眠れなくなった商品が続出した。そして、彼の餌となった商品たちは、ほとんど3度目の食事ぐらいから、気が違った。


 リヘルトを求め、泣き喚き、名前を呼び続けるのだ。そんな餌を、リヘルトはつまらないものを見る目つきで、冷然と見下ろした。何も言わない。


「捨てないで!! 私の血を吸って!! 必要よね……っ! リヘルト」


 赤い目がじっと見つめる。するとその女は壊れたように痙攣した。


「リッリヘルト様」


 身分では上の女がつっかえなが『様』付ける。

 そして、リヘルトは赤い目を美しく歪ませる。


「勝手に、名前を呼ぶな」

 低く言う。



 だけど、ロニィには分かった。そんな何もかも違う彼が、とても孤独でまだ『子供』だということに。

 多くの人は勘違いする。圧倒的強者は、自分がどうしたいか分かっているのだと。

 だけど、彼は力の意味すらまだ分かっていなかった。

 そんな王様で、暴君で、子供だったのだ。

 ロニィは片時も―――バランスという言葉から無縁の不安定な赤が気になってしょうがなかった。


 おかしくなり始めた、ロニィの世界で、ある日奴隷商が言った。


「売るしかない」

 と。動揺するロニィに構わず、奴隷商は続けた。

「そろそろ、狂い始める」

 何が、とはあえて言わなかった。

 ロニィも、何も言わなかった。


 そして、奴隷商は今までのコネクションを使い、大規模な商品会を催した。



 そこには幾人もの貴族、そして大商人が含まれていた。

 勿論そこには、エレビア王国商人連合『ルートレー』、第二級加盟商会『シンソフィー商会』5代目最高責任者ルーン・シンソフィーもいた。





 

 そしてそこで、ロニィは王様が堕ちた瞬間を忘れないだろう。





 


 商品会はペルミネェアの御茶会(めがみのひまどき)と名づけられた。

 その『御茶会』の主催者はロニィの主人と、他4人の奴隷商人だった。


 呼ばれた出席者―――お客様は全部で30名だった。その中には、王族も居た。

 


 オークション形式ではなく。もっとも人気が高い、『花屋敷』がとられることになった。


 それは、大規模な屋敷を借り、その屋敷の一部屋一部屋に、着飾った商品を飾る。

 食事も用意されており、一日中、片手にワインや食事を持ちながら、部屋を回るのだ。


 気に入った商品に、個別に与えられた花を飾る。いくつもの花を与えられた商品が人気が高く、人気が高い商品はある程度、自分の希望の主人に仕えることが出来る。


 そこら中に商品は配置されており、庭の噴水で裸で寝そべっている女も居れば、書庫で静かに本を持っている男も居る。


 これは美しい奴隷を探す楽しみもあるのだ。部屋を回り、気に入った奴隷に花を飾る。

 見つけにくいところで見つけるからこそ、美しい女や男に簡単に花を飾る。いくらその商品が、平民の一生を通した収入だとしても。


 『花屋敷』は商人にも、人気が高い。



 そして、リヘルト、彼はこの屋敷の隠された部屋、地下の牢屋で数多の鎖に繋がれて、待っている。




 

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