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リズベルト・シンソフィーの冒険  作者: 阿江
第1章 リヘルトという少年
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来賓


「それは―――」

 そこまで言って、ロニィは口を噤んだ。どう説明しようか迷っている様子に見えた。


「リズ様、魔法の存在は知ってますよね」

 俯いていた顔を勢いよく上げて、突然質問してくる。

 戸惑いながら頷く。


「魔法の種類というものは?」


「……火と水と土と風、時間」

 そう答えれば、戸惑ったような顔になり「そっちではなく」と呟くように言った。


「えっと、五行系魔法、今言われたものと、変質魔法と特質魔法というのがあるんです」

 

 初耳だった。家庭教師が教えてくれたのは文字や文学、一般教養であり、あとはマナーだったからだ。最初の頃は戸惑ったが、食事のマナーや礼の仕方を覚えるのは意外と楽しい。


「五行系魔法というのは人間を媒体にするものですが、変質魔法というのは本やレリーフ、遺跡、また歴史を重ねたものなど、『特殊なもの』に宿るもので、不思議な力があります。

 罪の首輪は変質魔法のひとつで、『首輪』を媒体にして行われます。首輪に甲虫ウラウリオスの殻を使うことで、『隷属効果』が与えられます」

 やり遂げた、という満足そうな顔でロニィはこちらを見た。

 ……いやこの人は頑張ってくれたのだろうと思う。そうなのだとは思う。

 この場合私が悪いのだろうが、……意味が分からない。質問を間違えた。


 まあ、とりあえずまとめると、奴隷の多くは獣人や亜種人族。それは彼らの祖先が他の大陸で、何かしらの罪を犯し、そのせいでこの大陸に『流刑』にされたというところだろうか。

 そしてその時の人たちが付けていたのが『罪の首輪』。

 今まで見た奴隷にそれを付けていた人はいなかった。ということはその首輪というのは全ての奴隷に付けられているわけではなく、一部の、あるいは流刑者だけに付けられる特有のものなのかもしれない。

 あれ、意外と分かってる。私は満足して、自分の仮説を証明するために問いかける。


「首輪をつけているのは、流刑者だけということ?」


「はい、そうなります」


「流刑者というのは今でも送られて来るの?」


「はい……珍しいですけど。……リズ様が購入されようとしている奴隷、リヘルトも流刑者ですね。首輪つけてあったのを見られましたよね」



「…………え」

 





 アンネはうとうとと机に突っ伏して寝ている。

 私は切実に糖分が欲しいと思いながら、眉間のしわを人差し指で伸ばしている。


「えっと、リヘルトが吸血鬼(ヴァンパイア)?」


「いえ吸血鬼(ヴァンピルア)です」


「……違いは?」


吸血鬼(ヴァンパイア)というのは吸血鬼(ヴァンピルア)の眷属のことです。

 吸血鬼(ヴァンピルア)の特質魔法は多様で、その中で自らの血液を用いて、他者を眷属と出来る能力があります」

 特質魔法というのは、種族ごとの固有能力のことらしい。


 しかし、と思う。

 ほんとに、ここ異世界なんだ。

 私は途方もない気持ちになった。流刑、魔法、人間至上主義の大陸、異種族の奴隷、吸血鬼。


 ほんとに、途方もない。この世界は理解不能だ。

 これが世界が違うということか。


 魔法の原理すら意味不明で、そして出てくる『非常識』。私は、この世界を本当に知っていけるのか、辛い気分でそう思った。




「その話を聴く限り、どうも吸血鬼(ヴァンピルア)という種が強すぎるように思うのだけど」

 一通り吸血鬼の話を聴くと、その種族の反則っぷりが分かってくる。

 

 確か吸血鬼の弱点は、陽の光。前世ではそうだったが、ここでは異なる。

 簡潔に言えば―――弱点はない。いや陽の光に弱いのは確からしい、ただそれを和らげる『方法』があるらしい。ロニィは知らないらしいが。

 そして食事が血であることも前世通り。吸血鬼(ヴァンピルア)の固有能力はあまり知られていないらしいが、一番有名なのは『血を媒体にした眷族化』。眷属化とはそのままの意味。


「そうですね、一番優秀な種だとも言われますから」


「……ああだから、リヘルトも人気が高いのか」

 

 あれ、そうなると、私の頭が僅かな警報を鳴らした。


 そんな優秀な種族である吸血鬼が、たかが一商人の娘ごときに、手に入るものなのか。

 そんなのは、有り得ない。


 どう考えてもおかしい。吸血鬼というのはこの大陸においては稀少だ。


「……ロニィさん、この商品会で最も身分が高い人は?」


「それは……申し訳ありませんが……そういう情報は……」


「いいから……!」


 この屋敷を回っている間に何人か客らしき人物は見た。客同士で何かしら話しているのも知っている。

 まあ表立って、主催者側がそういうことを言うのは禁じているのは分かる。だけど、


「建前はいいから」


 私はロニィを見つめた。瞬間、ロニィの緑色の瞳に『恐怖』が写った。えっ、と思う間もなく、ロニィは喘ぐように言った。


「王族です! 王族のっ……王弟イーザム様です!」





 

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