セーラー服と異世界・8
何とも言えない沈黙が流れた。
クウヤもツィーリもそれ以上は何も言わず、ただ時計の秒針の音だけが響く室内。
その沈黙を切り裂いたのは、恥ずかしそうな小さな声だった。
「ツ、ツィーリさん、あの・・・着たんですけど、これ・・・ちょっと・・・」
「いいから出てきな。似合ってんだろ?」
「いや、めちゃくちゃ可愛いんですけどでもこれ・・・っ」
「ほら、出てこいって!」
しびれをきらしたツィーリは、試着室に近付くと中にいた夜の腕を掴んで引きずり出す。
それと共に聞こえたのは、夜の悲鳴だった。
「ああぁあ足!!足が出過ぎ!!!」
「若ぇんだから出しとけ!!」
「ふ、太いですから!!ツィーリさんみたいなナイスバディじゃないですからぁぁぁ!!!」
必死に抵抗してもツィーリの力には適わず、簡単にクウヤの前に連れて来られた夜。
隠しようにも隠しきれない足に、夜の顔は真っ赤になる。
「どーだ?アタシの見立ては?」
ニヤリと笑いながらクウヤを見るツィーリ。
そこには表情をなくしたクウヤが居て、今度は夜の顔は真っ青に変わった。
「ほら!!クウヤ引いてます!!着替えましょう・・・!!!」
もうほぼ涙目の夜。
そんな夜にクウヤは無表情で近付いてツィーリから夜を奪い取り、
そして、
「・・・襲わせろ。」
「は・・・?って、ちょ・・・っ」
力任せに押し倒してくるクウヤ。
その目はもう獣のようで、思わず固まる夜・・・の上からクウヤが一瞬で消えたのはその直後。
「うちの店でサカってんじゃねぇぞ、このエロガキが!!!」
どうやらツィーリの全力の蹴りがクウヤの腹に入ったらしく、痛みに悶絶するケダモノが一匹。
それを気にする素振りも見せず、ツィーリは夜の腕を取って起き上がらせるとぎゅうと抱き締めた。
「すまねぇな。あの馬鹿にゃ、刺激が強過ぎるみてーだ。」
そう言って、ツィーリはニーハイの丈のある
ブーツを夜に渡した。
「こいつで足は粗方隠れる。これなら大丈夫だろ?」
「ありがとうございます・・・っ」
そもそもその服を着せたのはツィーリなのだが夜はその事は忘れて、まるで神様を見るような目でツィーリを見上げてから抱きついた。
「・・・てめぇ・・・どさくさに紛れて・・・」
「はっ、人徳だ。アタシを見習いな。・・・と、そういやヨル、」
「はい?」
「お前、何か剣術でもやってるのか?」
「え・・・?」
不意に真剣に問い掛けるツィーリ。
目を丸くした夜に、その問い掛けの答えが応なのだと気付いたツィーリは、優しい笑顔で夜の頭を撫でた。
「腕の筋肉、手のひらのタコ。」
それは剣術をやってる奴らの特徴だ。
そう言うツィーリに、夜は困惑した。
「やってたのは、ずっとずっと昔ですよ?」
「服屋やってりゃ、相当な数の人間を見るからな。分かるさ、それくらい。」
「・・・すごい、なぁ」
ふにゃ、と笑った夜。
その顔に違和感を感じたのは、クウヤとツィーリと同時だった。
「・・・でも、」
私には、向いてなかったんです。
幼い頃から、剣道の道場で師範を勤める祖父に習っていた。
(お前はどうして剣道を続けるんだ?)
そう、何度言われたか。
大会に出ても賞どころか一回戦で敗れ、周りからは陰口と落胆の嵐。
嫌になって竹刀を捨てたのは、小学六年の時だった。
(それでいいんだ。強制されてやっても、何の意味もない。)
その少し前から病床に伏していた祖父は、布団に寝たままで優しく笑ってそう言った。
道場に居るときには見たことのない、優しい笑顔だった。
(剣は、人を傷つける。お前は優しい子だから、それが怖いんだろう?それでいい。それでいいんだよ。)
お前は、ちゃんと大事な事が分かってる。
(ワシは忘れてはいないよ。保育園の頃、野良犬から友達を守ろうと木の枝を振るってたお前の勇気を。
辞めていいと、言ってやれなくて悪かった。
お前は、ワシの自慢の孫だから、)
一緒に居られるだけで、誇らしかった。
祖父と話したのは、それが最後だった。
「だめだめ、でしたから」
その日を境に、一切剣道からは遠ざかったんです。
そう言った夜の顔は、誇らしそうで、でも泣きそうで。
けれど笑うその顔に、彼女の祖父が言いたかったであろう“優しさ”と“強さ”を垣間見た。
「ヨル、ちょっと待ってな。」
そう言ってツィーリは僅かばかりその場を離れ、そして戻ってきた彼女の手には、刀に良く似た鍔の形状の、鞘に納められた剣があった。
「ヨル、これも持っていきな。」
「・・・え・・・?」
「あんたの為の、剣だ。」
その言葉に、眉根を寄せる夜。
「ツィーリさん、私は、」
「その剣は、モルガナって言うんだ。いいからちょっと抜いてみな。」
「は、はい。・・・って、え・・・?」
「その剣に、刀身はない。」
夜が鞘から刀身を出そうとすれば、なる程そこにあるはずのものはなかった。
「思いが形になる。」
そんな、伝説まがいの代物だ。
「刀身を見た事なんざねぇ。使えねーデクだと、巡り巡ってアタシのとこに来やがった。・・・これはアタシの勘だけどな、それはお前が持つべきモノだと思う。」
アタシの勘は当たるんだぜ?そう言って再び眩しい笑顔を向けてくるツィーリに、夜はもはや反論も出来ずに苦笑。
妙に手にしっくりくるそれを握りしめると、
「ありがとう、ございます」
何故だか自然と、お礼の言葉が浮かんできた。




