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セーラー服と絆創膏  作者: 柚月
セーラー服と異世界
9/50

セーラー服と異世界・8

何とも言えない沈黙が流れた。

クウヤもツィーリもそれ以上は何も言わず、ただ時計の秒針の音だけが響く室内。


その沈黙を切り裂いたのは、恥ずかしそうな小さな声だった。


「ツ、ツィーリさん、あの・・・着たんですけど、これ・・・ちょっと・・・」

「いいから出てきな。似合ってんだろ?」

「いや、めちゃくちゃ可愛いんですけどでもこれ・・・っ」

「ほら、出てこいって!」


しびれをきらしたツィーリは、試着室に近付くと中にいた夜の腕を掴んで引きずり出す。

それと共に聞こえたのは、夜の悲鳴だった。


「ああぁあ足!!足が出過ぎ!!!」

「若ぇんだから出しとけ!!」

「ふ、太いですから!!ツィーリさんみたいなナイスバディじゃないですからぁぁぁ!!!」

必死に抵抗してもツィーリの力には適わず、簡単にクウヤの前に連れて来られた夜。

隠しようにも隠しきれない足に、夜の顔は真っ赤になる。

「どーだ?アタシの見立ては?」

ニヤリと笑いながらクウヤを見るツィーリ。

そこには表情をなくしたクウヤが居て、今度は夜の顔は真っ青に変わった。

「ほら!!クウヤ引いてます!!着替えましょう・・・!!!」

もうほぼ涙目の夜。

そんな夜にクウヤは無表情で近付いてツィーリから夜を奪い取り、


そして、


「・・・襲わせろ。」

「は・・・?って、ちょ・・・っ」


力任せに押し倒してくるクウヤ。

その目はもう獣のようで、思わず固まる夜・・・の上からクウヤが一瞬で消えたのはその直後。

「うちの店でサカってんじゃねぇぞ、このエロガキが!!!」

どうやらツィーリの全力の蹴りがクウヤの腹に入ったらしく、痛みに悶絶するケダモノが一匹。

それを気にする素振りも見せず、ツィーリは夜の腕を取って起き上がらせるとぎゅうと抱き締めた。

「すまねぇな。あの馬鹿にゃ、刺激が強過ぎるみてーだ。」

そう言って、ツィーリはニーハイの丈のある

ブーツを夜に渡した。

「こいつで足は粗方隠れる。これなら大丈夫だろ?」

「ありがとうございます・・・っ」

そもそもその服を着せたのはツィーリなのだが夜はその事は忘れて、まるで神様を見るような目でツィーリを見上げてから抱きついた。

「・・・てめぇ・・・どさくさに紛れて・・・」

「はっ、人徳だ。アタシを見習いな。・・・と、そういやヨル、」

「はい?」

「お前、何か剣術でもやってるのか?」

「え・・・?」

不意に真剣に問い掛けるツィーリ。

目を丸くした夜に、その問い掛けの答えが応なのだと気付いたツィーリは、優しい笑顔で夜の頭を撫でた。

「腕の筋肉、手のひらのタコ。」

それは剣術をやってる奴らの特徴だ。

そう言うツィーリに、夜は困惑した。

「やってたのは、ずっとずっと昔ですよ?」

「服屋やってりゃ、相当な数の人間を見るからな。分かるさ、それくらい。」

「・・・すごい、なぁ」


ふにゃ、と笑った夜。

その顔に違和感を感じたのは、クウヤとツィーリと同時だった。


「・・・でも、」


私には、向いてなかったんです。


幼い頃から、剣道の道場で師範を勤める祖父に習っていた。

(お前はどうして剣道を続けるんだ?)

そう、何度言われたか。

大会に出ても賞どころか一回戦で敗れ、周りからは陰口と落胆の嵐。


嫌になって竹刀を捨てたのは、小学六年の時だった。


(それでいいんだ。強制されてやっても、何の意味もない。)


その少し前から病床に伏していた祖父は、布団に寝たままで優しく笑ってそう言った。

道場に居るときには見たことのない、優しい笑顔だった。


(剣は、人を傷つける。お前は優しい子だから、それが怖いんだろう?それでいい。それでいいんだよ。)


お前は、ちゃんと大事な事が分かってる。


(ワシは忘れてはいないよ。保育園の頃、野良犬から友達を守ろうと木の枝を振るってたお前の勇気を。


辞めていいと、言ってやれなくて悪かった。



お前は、ワシの自慢の孫だから、)


一緒に居られるだけで、誇らしかった。



祖父と話したのは、それが最後だった。


「だめだめ、でしたから」

その日を境に、一切剣道からは遠ざかったんです。


そう言った夜の顔は、誇らしそうで、でも泣きそうで。

けれど笑うその顔に、彼女の祖父が言いたかったであろう“優しさ”と“強さ”を垣間見た。


「ヨル、ちょっと待ってな。」


そう言ってツィーリは僅かばかりその場を離れ、そして戻ってきた彼女の手には、刀に良く似た鍔の形状の、鞘に納められた剣があった。


「ヨル、これも持っていきな。」

「・・・え・・・?」

「あんたの為の、剣だ。」


その言葉に、眉根を寄せる夜。


「ツィーリさん、私は、」

「その剣は、モルガナって言うんだ。いいからちょっと抜いてみな。」

「は、はい。・・・って、え・・・?」

「その剣に、刀身はない。」


夜が鞘から刀身を出そうとすれば、なる程そこにあるはずのものはなかった。


「思いが形になる。」

そんな、伝説まがいの代物だ。


「刀身を見た事なんざねぇ。使えねーデクだと、巡り巡ってアタシのとこに来やがった。・・・これはアタシの勘だけどな、それはお前が持つべきモノだと思う。」

アタシの勘は当たるんだぜ?そう言って再び眩しい笑顔を向けてくるツィーリに、夜はもはや反論も出来ずに苦笑。

妙に手にしっくりくるそれを握りしめると、


「ありがとう、ございます」


何故だか自然と、お礼の言葉が浮かんできた。

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