嵐の後に
恐らくたった二人で乗り込んで来たのだろう、けれどそこに居た軍人達は見事に全員意識を飛ばされていた。
己のテントから外に出たイーグは苦笑しながらため息を漏らすと、間違いなく怒り狂っているであろう男の元へと足を進める。
「あーあー、派手にやらかしてくれてまー・・・ウチの隊長さんが短気だって知っててやらかしてくれてんのかね。」
「・・・・・・陰口なら聞こえない所で叩け。貴様、今まで何をしていた。」
「おっと、そこに居たのか。陰口だなんて聞こえ悪い事言いなさんなって。ただの率直な意見だっての。」
「何をしていたと、聞いているんだ。」
外の惨状を目の当たりにし、鋭い視線でイーグを睨み付けるシュラ。
その近くにはいつも居る筈の猛犬の姿はなく、それに更に苦笑を深くしたイーグは上着のポケットから煙草を取り出すと口にくわえ火を点けた。
「悪いね、逃げられちゃった。」
「・・・お前と居て、か。」
「結構強かったのよ。」
「獅子王と炎鬼の力なら貴様も知っているだろう。油断でもしていたのか。」
「ちげーよ。お嬢ちゃんの方。」
「何だと?」
「だから、あのお嬢ちゃん。ハクトも再起不能にしてくれた小悪魔ちゃん。」
ふ、と吐き出された紫煙が修羅の顔を掠める。
それに眉間に皺を寄せたシュラを見て、イーグは煙草をもう一本取り出してシュラに差し出した。
「お前さんも吸う?ちったぁ落ち着くだろ。」
「必要ない。」
「あー、ヤメたんだっけ。ハクトが嫌がるから?過保護過ぎんのもどーかと思うけどなぁ。」
「・・・貴様が何を知っている。」
「はいはい、何にも知りませんとも。ただ、これだけは忠告しとくぜ。」
いよいよ殺気まで醸し出し始めたシュラに流石に危険を感じたのか、苦笑した表情のままで手にしていた煙草を引っ込めたイーグはもう一度深く息を吸うと共に煙を体内へと流し込む。
独特の味は未だ先程の興奮を忘れられなかった自分を落ち着かせてくれ、それを感じたと同じ位に短くなった煙草を口から離した。
己の靴底でその煙草の火を消すと、とん、とシュラの肩に手を置くイーグ。
そして、耳元に顔を近付けると囁くように言葉を口にした。
「あのお嬢ちゃんは、中々に危険だぜ?」
誰にとって、か。
それは口にせずとも伝わった様で、破裂しそうなほどに殺気を溜め込んだ視線でイーグを見るシュラ。
それを横目で見て受け取ったイーグは、シュラの肩から手を離すとシュラに背を向け歩き出す。
「取り敢えず、俺はこっから単独行動させて貰うわ。ちょっとウチの可愛い部下達の面倒も見ててくれな。」
「何処へ行くつもりだ。」
「愛しの小悪魔ちゃんに手ェ出しに。」
「・・・逃がしておいてまた捕まえるとは、非効率極まりないな。」
「捕まえるんじゃなく、自分から来て貰うんだっつの。」
「相変わらず、悪趣味な・・・。」
「何とでも。お前は番犬ちゃんのケアちゃんとしてやれよー。せめて、使い物になるくらいにはな。」
「黙れ。貴様に言われる筋合いはない。」
はいはい、とその言葉を軽く受け流したイーグは、もう一本煙草を取り出して再び火を点けた。
そして歩き出すその背を見送ってから、シュラはふと自分の手の平を見下ろした。
「、・・・」
強く張った頬。
けれど、真っ直ぐな目は変わらず真っ直ぐ此方を見透かすように向けられて。
僅かに、恐怖さえ、感じた。
現にあの少女は、ハクトを潰し、イーグを本気にさせ、獅子王と炎鬼を動かした。
そして自分さえも、揺るがされた。
ぐ、と強く握りしめた拳は爪が食い込み血が滲み、けれどその痛ささえ忘れるほどの業火の様な感情が胸に沸き上がり、シュラはその拳をテントの柱に叩きつける。
そして、目を閉じ気を落ち着かせ、そして凛とした声を張り上げた。
「イーグ、あの女を捕らえたら、此処へ連れて来い。」
「はは・・・何、お前さんも興味持っちゃった?いーよ、おじさんが連れて来てやるから、いい子に待ってろよ?」
シュラの声が聞こえたイーグからは、どことなしに楽しそうな声が返されて。
それを聞いたシュラは倒れている部下の一人を叩き起こすと事態の収拾と把握を申し付け、そしてテントへと戻って行った。
これから何が起こるのか、何も知らない夜はその頃セキの船が見える所まで来たところだった。




