セーラー服と嵐・11
そのイーグの表情を見た夜は、無意識に背筋が戦慄くのを感じた。
寒気、悪寒、そんな表現がピタリと合うような、良くはない・・・寧ろ悪い方にしか感じない、何とも言い難い感覚。
その感覚の所為か、上体を起こした夜はイーグから距離を置くかの様に後ずさっていて、それに気付いたイーグは苦笑を浮かべた。
「ありゃ、嫌われちゃった?」
「そ、ういう、訳じゃ、」
「じゃあ何で、避けられてんのかな?」
言葉の端々に感じる、言い様のない違和感。
優しい手つきも柔らかい物言いも、夜の中の何かが警鐘を鳴らしているかのように信用が出来ないのだ。
「"夜ちゃん"、だっけ?」
不意に名を口にされ、跳ねた肩。
恐る恐るイーグの顔を見た夜の目には、相変わらず優しい笑みが映って、
けれど、どうしてだろうか。
その男の全てが、違和感でしかない。
「ごめん、なさい・・・私は貴方を、信用出来ない。」
震えた唇から出た言葉はそのまま震えてイーグに届き、そしてそれを受けたイーグは一瞬笑みを消したかと思うと、目にも止まらぬ速さで夜の片腕を掴んで引き寄せ自分に近付けた。
正に為す術などなく、イーグの胸に飛び込んだ夜は腕を掴んだ手とは逆の手で後頭部まで押さえられ、為されるがままに顔を上に向けられる。
言葉さえも出す暇なく、そうやって無理やり動かされた夜の顔を真上から覗き込んだのは、優しい笑みに僅かに獰猛さを滲ませた、"本来の"笑い方であろう笑みを浮かべたイーグの顔。
「勘が鋭いね、おじさんビックリしっぱなしだわ。」
「っ・・・、ッ」
「下手したらシュラやハクトより厄介かもね。どうりで、獅子王や赤鬼が気に入る訳だ。」
「、はな、して・・・っ」
「ダーメ。おじさん、久々に楽しくなってんだからもうちょっと付き合ってよ。」
言いながら、腕を掴んでいた手を離したイーグ。
そしてその手は自分の胸元へと持って行かれ、器用に片手で外し始めたシャツの釦。
はだけたシャツの間から見える肌は気耐え抜かれ、時折残った傷痕さえその逞しさを引き立てていた。
敵う筈が、ない。
逃げようと足掻く夜の脳裏に浮かぶのはその言葉だけ。いくら体を捩ろうと、ほんの僅かすらも動かないのだ。
そして僅かな時間でシャツの釦を全て外したイーグは夜の腕を引き寝床に使っているのだろう、柔らかな布の上へ腰を下ろすと胡座をかいた自分の足の間に夜を座らせた。
「力で全部何とかなると思ってる奴には、お嬢ちゃんはたぶんどうにも出来ないだろうね。」
シュラや、ハクトの事を言っているのだろうか。
薄く笑いながら言うイーグの声に、夜は身震いした。
力じゃないやり方を、知っているのだと気付いたから。
「言ったよな?おじさん、女の子大好きって。何でか知ってる?」
「し、しらな、・・・ッ離し、て・・・っ!」
「まぁまぁ、聞いて頂戴よ。何でかっていうとね、女の子って素直で弱いからさ、」
女の子に対してだけできる、拷問ってのがあるわけよ。
冷たい、声がした。
思わず悲鳴を漏らした夜に、イーグは申し訳なさそうな笑みを少し浮かべると、
夜の、首筋に、
まるで牙を立てるかのように噛みついた。
「ひ、っ」
「おじさんは、こっちの拷問専門。・・・知ってる事話してくれたら止めたげるから、早いとこ全部喋っちゃいなさいね。」
言いながらも、歯を立てた首筋をつ、と舐め上げるイーグ。
その鳥肌の立つような嫌悪感に夜の目には瞬く間に涙が浮く。
そうしている間にも、イーグは手のひらを夜の上着の隙間へ滑り込ませ、擽るようにゆっくりと夜の肌を蹂躙し、堪らず夜の口からは嗚咽が漏れた。
「や、だ・・・っひぅ、ッ・・・やめ、て・・・ッ・・・!!」
何をされるかなんて分からない。何をされるかなんて分かりたくない。
抵抗は意味を為さず、こんなにも容易く人の気持ちなど無視し蹂躙される事への恐怖で気が狂いそうになった、
その時、だった。
「その、汚ぇ手を、」
「今すぐ離せ、クソ野郎」
イーグの首に充てられた二つの刃。
尋常じゃない程の殺気と怒気の籠った声にイーグの動きは止まり、拘束を解かれた夜の滲んだ視界に映ったのは、金と赤。
「っ・・・!!!」
声に、ならなかった。
溢れた涙は安心したからで、名前さえ呼べずに見上げるその二人の姿。
「夜、悪い、遅くなった。」
酷く申し訳なさそうに言う金色に、夜は取れる程に首を横に振った。
「約束通り助けに来たぜ、夜ちゃん。」
身体中傷だらけになった赤色に、夜は取れる程に首を縦に振った。
「クウヤ、っ・・・セキさん・・・!!」
二人の名を呼んびながら、夜は飛び付くように抱きついた。




