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セーラー服と絆創膏  作者: 柚月
セーラー服と嵐
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セーラー服と嵐・10

イーグと肩に担がれた夜が外に出ると、嵐はもう去った後なのか雨は止んでいた。

時折強い風は吹くものの、雷号は遥か彼方で聞こえる程度になりあれ程に空を覆っていた黒い雲は散り散りになり、隙間からは太陽の日さえ差し込んでいた。


嵐の去った後の、穏やかな世界。

その中を歩くイーグの向かう先は別のテントで、恐らくイーグが使っているのだろうそのテントはシュラが居たテントとは違い生活感が溢れていた。

「悪いね、散らかってて。」

テントに着くや肩から夜を降ろしたイーグは、夜に向けてそう言いながらタオルを一枚手渡して。

それに首を傾げた夜は訳もわからずタオルを受けとると、不思議そうな顔でイーグを見上げた。

「流石に風呂はないけど、お湯沸かしてあるから体拭いておいで。気持ち悪いでしょ、そんだけどろどろだと。」

「・・・何で、」

「ん?」

「何で、そんな事・・・だって貴方は、多分だけど敵なんじゃ・・・」

「まぁ、お嬢ちゃんが獅子王とか炎鬼の仲間だってなら敵になるんだろうけど・・・いや、でも流石に俺はシュラ達みたいに割り切れないしね。そもそも、女の子大好きだし?おじさん、可愛い子は味方したくなっちゃうタイプだから。」

「ふ、は・・・っ、変な人。」

「んま、失礼しちゃう。」


軽い口調に、落ち着かせるような声色。

それに緊張の糸は解かれて、夜はイーグに指示されるままに促された方向へと足を向ける。

そこは同じテントの中なのだが、普段から風呂がわりに使っているのだろう、桶やタオルが置かれていた。


「服、取り敢えず着れそうなの置いとくね。」

「あ・・・ありがとう、ございます。」

背中に掛けられたのは優しさしかない言葉。

変な違和感さえ感じながらも夜はその声に何故か従い、用意されていたお湯でタオルを湿らせてから軽く絞ると体を拭き始めた。


擦り傷や打ち身にそれは大層滲みて、時折呻き声のようなものを漏らしながらも何とか汚れを拭き取ったのにかかった時間は数分。

着ていた服を脱ぎ、用意された服に着替えた夜は様子を伺うようにゆっくりとイーグの元へと戻った。

「あの、」

「ありゃ、早かったね。もっとゆっくりしててもいいのに。」

「いや、その・・・」

シュラやハクトとのあまりの雰囲気の違いに夜はどうしていいのか分からず言葉を詰まらせる。

そんな様子を見ながらイーグは小さく肩を揺らして笑いながら、夜の側に近付いて目線を合わせた。

「ちょっと説教してもいい?」

「、え・・・?」

「何があったかは分かんないけど、ってかそもそも何でお嬢ちゃんみたいな子が獅子王や炎鬼と一緒に居るのかは分かんないけど、」


だけど此処は、この、自分達の生きている"世界"は、


「少なくとも、お嬢ちゃんが生きてく世界じゃぁない。」


人の生き死にが日常の世界だ。

力で捩じ伏せ、弱い奴は地に伏すしかない世界だ。

普通の人間たちが暮らす日常は、自分達の居る日常とはかけ離れている。


だから、こそ。


「其処に首を突っ込んだ事が、まず一つ。


それと、さっきのハクトに対する台詞。」


あれは流石に言い過ぎ。


「あの前までどんな事があったかは知らないけど、あそこまで見事に人の地雷踏むのは、おじさん流石にびっくりしちゃったからね。」


まったくもう、と少々強めの口調で言われた夜は驚きつつも真っ直ぐイーグの目を見返した。

見返して、口を開いた。

「だって、頭に来たんです。」

「へ、?」

「だって、誰も彼もみんな中々私と向き合ってくれないんですよ。なのに暴力も暴言も全部全部私に向かってくるんだもん。そんなの不公平、そんなの私ばっかり大損。」

「そりゃ、まぁ・・・うん、確かにそうなんだけど・・・」

「だから、ちょっとは言い返します。思った事をそのまま言います。少しくらい、やり返したっていいじゃないですか。」

説教をされた事になのか今の状況になのかは定かではないが、不服そうに唇を尖らせた夜を見てイーグは一瞬唖然。

それからすぐに吹き出すと、可笑しそうに笑いながら夜の頭を撫でた。

「はは、どーりでハクトが振り回される訳だ。」

「?」

「いいね、お嬢ちゃんみたいな子、おじさん大好き。」

そして言いながら、夜の体はゆっくりと倒されて。

気付けば夜の背中は床に付き、真上に覆い被さったイーグの両手に因って夜の両腕も床に縫い付けられた。

驚きに見開かれる目に映るのは微笑むイーグの顔で、夜は思わず喉を鳴らして唾を飲み込んだ。

「な、に、を、・・・っ」

「ん?いや、ちょっと、ね。」

動こうにもびくともしないイーグの体。

為す術もなく硬直する夜を見下ろしながら尚も微笑むイーグは、それ以上言葉を続ける事はせずに顔を夜に近付けた。

「ちょ・・・っ」

それは、ほんの僅かな瞬間だった。

声を漏らした夜の口を塞ぐように、イーグの唇が夜の唇に当たり。

瞬きを忘れて目を見開いた夜の口内に、何か液体が流れ込んだのはその時。


イーグはそれを飲み込ませたいのか長い口付けを続け、それにより夜はその液体を喉に流し込むしかなく。


夜の喉が動いた事によりその液体を夜が飲み込んだのを確認したイーグは、ようやく夜から唇を離した。

「ぅっ・・・げほ、っげほげほ・・・ッ」

「ちゃんと飲んだな?」

「ッ、何を・・・っ」

思わず浮いた涙を感じながら声を上げた夜だったが、不意に感じた体の違和感に声を止めた。



体が、熱いのだ。

芯から、燃えるように。


「っう、あ、あ゛・・・ッ」


漏れ出したのは呻き声。

余りの衝撃に白い喉を仰け反らせる夜だったが、イーグはその体から退くこともせず拘束を緩めることもしない。

脂汗を滲ませた夜を見下ろすイーグの表情は申し訳なさそうな笑みを浮かべていたが、今の夜にはそれを見る余裕すらない。


このままその熱で溶けるのではないかと思うほどに熱が高くなったのを感じた、その刹那。


ふっと熱があっという間に引き、それと同時に離れるイーグの体。

「はっ、は・・・ッ」

浅い息を繰り返し仰向けに床に横たわる夜。

その額に柔らかく手を置いたイーグは、夜の顔を覗き込んだ。

「悪いね、手荒な真似して。」

「っ・・・何だった、の、・・・ッ?」

「酷いことしちゃったお詫び。怪我、もう痛くないでしょ?」

そう言われ、気付いたのは全身の体の痛みがなくなってるという事。

自由にされた片腕を上げてみれば、目に入ったのは傷も痣もない無傷の腕で。

「な、んで・・・?」

「何でも治しちゃう魔法の薬。貴重品だからあんまり使えないんだけどね、今日は特別。」

「・・・口移し、の、意味は、」

「ん?まぁ、それはおじさんの趣味。」


妖しい笑みを浮かべたイーグの手の中には小さなガラスの小瓶。

その中に入った魔法の薬は、この世にほんの数滴しか残存しない謂わば禁忌の水。


それを持つ男の二つ名は夜鷹。

姿を隠し、獲物を狙う。



本性を見せない、道化の猛禽。




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