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セーラー服と絆創膏  作者: 柚月
セーラー服と嵐
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セーラー服と嵐・9

状況の割に、冷静な落ち着いた声でハクトに声をかけた夜。

その言葉が核心を突いたのかハクトの動きは完全に止まり、瞬きさえ忘れて目を見開く。


その目に映った少女はゆっくりと立ち上がると、ボロボロになった体を引きずるように歩き出した。

「、帰る。」

呟いた声さえもはっきりとハクトの耳には聞こえていたが、それでも体は動かない。

まるで金縛りにあったかのように硬直したハクトの横を夜は迷いなく通りすぎ、その部屋からの唯一の出口に容易くたどり着き、


そして、それを開かんと手を伸ばしたその時。



「、え、」

「あ?」


自動で開いたその戸口。

思わず間の抜けた声を上げた夜の声に被さるように聞こえたのは、初めて聞く声色で。

「初めまして。」

「、こちら、こそ。」

互いに動揺したのだろう、目を幾度も瞬かせながら挨拶を交わす夜とその人物。


白い軍服を適当に着崩して、短めの黒髪を後ろに流すように固めてはいるものの決して真面目には見えない容姿の、30は越えているだろう年齢の男。

身長は190近くあるんじゃないかと思うほど高く、夜はその男を見上げて思わず後ずさった。


白い軍服、ということはつまり、ハクト達の側の人間だと言うことに気付いたから。


「あちゃー、手遅れだったか。お嬢ちゃん、大丈夫?悪いね、手荒な事して。」


すると、警戒された事に気付いた男は優しい笑顔を浮かべながら自分の軍服の上着を脱ぐと、夜に着せるように夜の肩にその上着を掛けた。

それに驚いて夜が目を丸くすると、今度は困ったような笑顔をその顔に浮かべる男。

「ったく、シュラ、お前止めろよ。ハクトの管理はお前の仕事だろーが。」

「煩い、黙れ。そもそも、貴様が獅子王と炎鬼を逃がしたのが悪いんだろうが。」

「へーへー、そいつはすみませんでした。でもよ、そりゃハクトも同罪だぜ?みすみす炎鬼逃がしてんだからよ。」

「だからその女から情報を吐かせようとしていたんだろう。」

「吐く前に殺しちまうからタチ悪いって言ってんの。おじさんの話、ちゃんと聞いてる?」

「黙れ、イーグ。貴様と話しても埒があかない。」

「可愛くねーなー。ちょっとは年上を敬いなさいよ。」

目の前で繰り返される口喧嘩のような言い合いに目を白黒させる夜。

イーグと呼ばれた男は無意識にか意識的にかは定かではないが夜を背中に庇うようにシュラと夜との間に立ち、時折振り向いては夜の様子を確認していた。


シュラやハクトとは違い、柔らかい雰囲気を纏ったイーグに夜は思わず気が抜けたんだろう。

必死に奮い立たせて踏ん張っていた足からは力が抜け、崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。

「おっと、大丈夫かお嬢ちゃん。」

それに直ぐ様気が付いたイーグは間髪いれずに夜を抱き上げ、軽々と所謂お姫様抱っこの形で自分の腕に収めた。

「うわ、わ・・・っ」

「っと、軽いな。・・・お前ら、こんなか弱い子に何してんの。流石に良心とか痛まねーか?」

「良心が国の為になるとでも?」

「暴力も国の為にはなんねーよ。」

「貴様とはやはり、気が合わない。」

「上等、上等。気が合ってちゃ、間違ってても誰も止めてくれねーだろ。」

じゃあ、この子は俺が預かっておくから。


そう言い反論も聞く気もなく歩き出したイーグ。

その背中に、不意に殺意が向いたのはその時。


「・・・ハクト、何か用か?」


その気配だけで、イーグは振り向く事さえなく殺意の主の名を当てた。

そしてそのままの状態で掛けた問い掛けに、余裕などまるで無くした声のハクトが答える。

「まだ、俺はその子に用があるんスよね。イーグさん、返してくんない?」

「だーめ。お前、何時もよりおかしくなってるぞ。ちっと頭冷して来い。」

「いいから返せって、言ってんだよ・・・!!!」


荒々しい声、切羽詰まった表情。

正常ではない事を感じたイーグが振り返りその目に映したのはそこまで感情を露にしたハクトで、そんな状態を見たのは初めてだったのだろう、イーグは僅かに目を見開いた。

ハクトの狂気は知っていても、ハクトという男の激情を目の当たりにした事はなく、それを引き出したのが腕の中に簡単に収まってしまうような少女だという事実にただただ驚きを隠せないイーグ。

「お嬢ちゃん、ハクトに何かした?」

「・・・、」

思わず夜に問いかければ、夜は困ったように笑みを漏らした。


「何も、って言ったら嘘だけど、だけど"私は"何もしてないです。」


言いながら、イーグの腕から抜け出した夜。

何とか立てるようにはなった足で床を踏みしめて真正面からハクトを見据えた夜に、ハクトの動きが止まった。

「・・・ごめん、酷いこと言う。」

と、不意に謝った夜の声に、跳ねるハクトの肩。



「貴方の過去は貴方のもので、私に何をしたってその過去は消えないよ、絶対に。」


誰も助けてくれなかった、そう言う程の何かがあったのだろう。

それこそ、そんなにも狂気を宿すほどの何かが、貴方の過去に。


「だけど、さっきも言ったでしょう。私は貴方じゃない。貴方とは違う。一緒にしないで。」


自分を他人に被せて何になるっていうの。

私を誰も助けに来てくれなかったら、自分と同じだからほっとする?それで満足?それで満たされる?



違う、でしょう。


「貴方の過去はもう消せない。もう作り替えられない。その時には誰も助けに来てはくれなかったって事実は変わらない。



それを今さら、私と自分を勝手に重ねないでよ。私は私だよ、貴方じゃないよ、他の誰でもないんだよ。」


暴力振るうなら、

暴言吐くなら、



好きだと、言ってほしいなら、


「ちゃんと、私を私として見てよ。私を、私として認めてよ。」



そしたら、ほんのちょっとかもしれないけど、


「そしたら、ちゃんと少しだけは好きになるかもしれないじゃない。」



夜は気付いてはいなかったが、その言葉を言った時にはもうハクトから殺気は消えていた。

それどころか思考さえ止まってしまったのだろう、呆然と夜を見るハクト。


それに気付いたイーグは、夜の口を手で塞ぐと自分の肩に担ぎ上げ、苦笑を浮かべながら歩き出した。

「結構、えげつない事言っちゃうのね。」

もうその辺にしておいてやって、と言いながら、イーグはハクトに背を向けシュラの隣を通り過ぎ、そのテントを後にした。





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