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セーラー服と絆創膏  作者: 柚月
セーラー服と嵐
40/50

セーラー服と嵐・6

「セキさん、あの人は・・・?」

「黙ってな、夜ちゃん。」

セキの背中を見上げながら夜が問いかければ、それを制止するように強い口調で返すセキ。

声は真剣そのもので、夜は思わず押し黙った。

「女の子庇うなんて、アンタも人間らしいトコあんだねー。そんな見た目して・・・半獣の化け物の癖に。」

相変わらず嘲笑うような声で言うその男の言葉に、夜の腕を掴む手に力が込められた。

本人にしたら無意識であろうその行動に、夜は堪らず息を飲んで涙を堪えた。


きっと、言われ続けてきたんだろう。言われたくもない、心無いその台詞を。

その度に言い返せず、ただ悲しさを押し込めてきたんだろう。


セキの事など何も知らない夜からしても、それだけは何となく想像がついた。

誰もが、自分のようにその異形の姿を見て恐怖を感じたのであろう事を。



「海じゃアンタに敵う奴はそういないだろうね。アンタは海じゃ絶対に死なない・・・海兵がそう言って怯えてたよ。・・・だけど、陸の上じゃそうもいかないでしょ?」

「ペラペラペラペラ、よく喋る犬っコロだな。そんなに構って欲しきゃ、棒切れでも投げてやるから拾ってこいよ。」

「アハハ、何ソレ・・・・・・バカに、してんの?」

ゾッ、と。

空気が痛い程に冷え込んだのはその時。

口元だけが笑みの形を残したまま、鋭く冷たくなった目が静かにセキを睨み付ける。

「今、死ぬ?」

それはもう問い掛けではなかった。

まるで決定事項のように感じたその言葉に、夜は身震いする。

その殺気をセキも勿論感じたのか、眉間にシワを寄せながら一歩後ずさった。

「ちっ・・・ッ」

こちらは丸腰、武器になるようなものは一切持ち合わせてはいない。

更には背中に庇う少女がいる為、状況は圧倒的に不利なものであった。

「セキさん、」

と、不意に背後から声が聞こえた。

怯えている雰囲気などない、何故か力強いはっきりとした声色で。

それに驚きセキが後ろを振り向くと、そこには笑みを浮かべる少女の姿。

「夜、ちゃん?」

「絶対、死んだらダメですよ。」

「は・・・?」

何を言っているのか、と。セキが言葉を続けようとするのを遮って、握られた腕を勢いよく引いた夜。

不意打ちのそれに大の男の体は簡単にバランスを崩し、気付けば足は地面から離れていた。

驚きに緩んだ手は夜の腕からも離れ、スローモーションのように遠ざかっていく夜の姿。


見開いた目に映るのは、


一人の少女と過去の幻影。


「助けに来て下さいね?」


夜の口がそう動くのをはっきりと見て、そのまま目を見開いた儘で海に飲み込まれたセキの体。

声さえ出せずに波間に沈んだ体を見送った夜は、ゆっくりと視線を元の方へと戻した。

「逃げられちゃいました、ね。」

上擦る声は恐怖の所為。

冷や汗を浮かべながら震える口元で笑みを作った夜に送られたのは、冷酷な視線と作られた笑顔。

「ハハ、ほんとだね。」

ゾッとする声色に夜が唾を飲み込もうとするのも許さず、瞬間移動の様に近付いた男は夜の腹部に容赦なく膝を突き上げた。

「あ、が・・・ッ、っ」

「覚悟は、出来てる?」

その激痛と衝撃で崩れ落ちていく夜の体。

泥混じりの水溜まりに倒れ込んで意識を飛ばそうとする夜に、それすら許さぬとばかりに近付いた男は夜の髪の毛を掴んで顔を上げさせる。


あまりの痛さに意識を繋ぎ止めた夜が薄目を開ければ、目の前の男の表情から笑みが消えているのが見えた。


「俺ね、思い通りにいかない事が大っ嫌いなんだよねー。」


言っていることはただの我が儘で、痛みと恐怖に思考が麻痺していた夜は思い付いた台詞をそのまま口にしていた。

「ふ、は・・・っ、子供、みたい、っ」

「・・・・・・・・・、中々、素直だねー。」

間延びした語尾とは裏腹、どす黒い殺気を纏った男は夜の髪の毛を掴んでいた手を離すと再び夜の体を泥水の水溜まりへと落とす。

それに夜が噎せれば、それすら黙らせるかのように夜の頬を靴で踏みつけた。

「っう゛ぇ、っ・・・っ、ッ」

「何だっけ、俺が?何みたいだって?」

「げほ・・・っ」

「なーぁ、噎せてないでさ、・・・答えろよ。」

命令、なんだろう。

強い口調で言った男は、夜の顔から足を退けると間髪入れずにその足で夜の体を蹴り飛ばす。

抵抗などとうに出来なくなっている夜の体は人形の様に転がり、回りを固めていた軍人の一人の足下までいって漸く止まった。

「ハクト分長、相手は、少女です、・・・もう、その位に、・・・」

見ていられず、けれどハクトと呼ばれた男が恐ろしいのであろう、その軍人は直立したままでハクトに声をかけた。

足下には息も絶え絶えになりつつある、ぼろ雑巾の様な少女の肢体。流石に見ていられなかったのだろう。

「何?何か言った?」

けれどその言葉はハクトにはまるで届かず、地面に横たわっていた夜の体を再び蹴って退かすと、意見を述べた部下でるのであろうその軍人の前に立つと、己より高い所にある顔を見上げて笑みを浮かべた。

「っ・・・」

「邪魔、してんじゃねーよ。」

それは正に、刹那の事。

言葉と共に腰の刃に再び手を伸ばしたハクトがその刃を目の前の部下に向けて疾風の如く振りかぶろうとした。


その、ハクトの踏み込んだ足を。


「、っ、や、めて・・・」


ぐ、と握った華奢な手。


思わず止まったハクトが視線を動かした先には、泥にまみれながら此方に手を伸ばす夜の姿。

「・・・偽善者?自己犠牲?自分に酔っちゃってる感じ?」

軽い口調にも、僅かに混ざった動揺。

振りかぶった刃を下ろしたハクトは、その切っ先を夜に向けた。

「他人を守れる自分が綺麗だとでも思ってんの?」

「あは、は・・・そりゃ、誰かを守れれば、素敵でしょう?」

目線だけをハクトに向けた夜。

度重なる暴力の所為で感覚が鈍感になったのか、切っ先を向けられても恐怖心はあまりなかった。

そのおかげか口元に笑みを浮かべる余裕さえ出来た夜は此方を見下ろすハクトの目をしっかりと見返して、決して視線を反らそうとはしない。

逆に動揺をその目に滲ませたハクトは、力では絶対に己の足下にさえ及ばない少女に何故か刃を振るうのを躊躇っていた。


単純な力ではない、"力"。


それを感じたハクトが息を飲むと同時に、夜はプツンと電池が切れたかのように意識を手放した。


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