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セーラー服と絆創膏  作者: 柚月
セーラー服と嵐
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セーラー服と嵐・3

波間を縫い、真っ直ぐと此方に向かってくる白い重艦船。

青い海にあってその船は光のように目映く、朝日に反射したそれに思わず目を細くして顔をしかめれば、まるでそれを見透かすかの様に砲弾が此方の船を掠めた。


その衝撃で揺れた海賊船の上で、夜は壁に手をつき必死に転けないように耐える。


「根性あるじゃねーか、夜ちゃん。」


首だけを夜の方へ向けたセキがそれを見、片方の口角だけを吊り上げて笑みを作った。


「そのまま、もうちっと耐えてろよ。」

「そこから動くなよ、夜。」


同じように振り向いたクウヤも笑みを浮かべてそう言うと、不安定な足場など気にもせずに歩き出して。

それを見送った夜の目には、周りの船員達も同じようにそれぞれが動き出す姿が映った。


この、揺れる船上で。

夜以外の誰も、"動けない"人間はいない。


それに気付いた夜は、更に力強く地面に足を付けた。

腹にも力を入れたせいであばらには激痛が走ったが、けれども力を緩める事もなく。



何が起こっているのかなど、もう分かる術も時間もない事だけは分かったから。

けれど今、危害を加えられている事は紛れもなく分かったから。


ならば、せめて、


せめて、邪魔にだけはならないように。



「夜ちゃん、大丈夫!?」


不意に掛けられた声がサラクのものであるのは分かって、夜は頷くと無理に作った笑顔でサラクを見た。


「取り敢えず、隅っこにいます。」

「・・・っふふ、あはは・・・ッやっぱり、夜ちゃん素敵だわ。」


その返事に満足したらしく、サラクは夜に豪快に笑顔を返してから夜の頭を撫で、


そして、その表情をすっと鋭いものへと変えると海軍船へと向き直った。


「カッコイイとこ、見せたげる。」


そう言い残し、セキの隣に控えるサラク。

その背後にはすでにクロが座していて、更にその後ろには各々の武器を手にした船員達。


向く先の海軍船の砲台は完全に此方を捉え、その砲門から砲弾が放たれたのはその時。



「足手まといになるんじゃねーぞ、獅子王。」


それを真正面に迎えながら、隣に立つクウヤに声を掛けたセキ。

その言葉を受けたクウヤは、ゆっくりと口許を緩めながら腰に下げた鞘から刃を抜き始めた。


向かい来る砲弾。

今度は確実に此方の船に向かってくるそれは、みるみる内に距離を詰めてきて。


だが、それを間近に感じてもその場からは誰一人として動かない。

動かずに、更には全員が口許に笑みを湛えてさえいるのだ。



「誰に向かって言ってやがる。」



そして、クウヤがそう返した直後。


風の如く速さで抜かれた刀身は、空気を裂くかのように砲弾を真っ二つに切り裂いた。



どぼん、と海に落ちた半分になった砲弾達。


それが正に開戦の合図とばかりに、怒号が響き渡った。


「野郎共!獅子王にいいトコ取られんじゃねぇぞ!!!!」

「「「オオォォォォ!!!!」」」


海の上にも関わらず地鳴りのように響いた声に空気は張り詰め。

互いの船も近付き、それぞれに敵船に飛び乗ろうという姿勢を取った。



その、刹那だった。



快晴だった空に、まるで早送りかのように暗雲が立ち込め。

穏やかだった海は、瞬く間に高波に覆われ。

凪に近かった風は、渦を巻くように吹き荒れて。


雷号が轟き、

礫のような雨が打ち付け、



天候は、嵐になった。




顔をしかめたのは、その場にいた全員。

もう戦闘どころではなく、荒れ狂う海に弄ばれる船から弾き落とされまいと必死にしがみつくしかない。


「くそ・・・ッ、落ちるなよ!!」


声を荒げたのはセキ。

自分でさえ振り落とされそうな程の衝撃の中、セキの目は周りに向けられていた。



そして、気付く。


自分達"でさえ"必死にならなければ堪えられないこの状況の中、


一人、堪えられないであろう人物が居る事に。



視線を向けたのはそう思うと同時。

先程まで居たはずの場所を見ればもうすでにそこに姿はなく、慌てて辺りを見渡せば、まるで玩具かのように船に振り回され転げ回るその姿を捉えた。


「っ、ッ・・・!!」


声はなかった。

声を出す暇もなかった。


船に、波に、天候に弄ばれたその体は、誰の手に届くよりも早く船から投げ出され。



「夜ちゃんっ・・・ーーーーーーー!!!」



名を呼んだ時にはもう、船上からは手の届かない所まで体は離れていた。


「夜!!!!!」


それに遅れながらも気付いたクウヤが声を荒げ、側へ駆け寄る。

だが届かないと知れば、次には何も考えずに海へと飛び込もうとした。



それを、


「てめぇは船、守ってろ!!!」



その怒声が、引き留めた。


そして見たのは夜の体を追うように海に飲み込まれる炎鬼の姿。

目を見開いたクウヤに、クロが声を掛けたのはその時だった。



「セキなら、だいじょうぶ。」


海はアイツの庭だから。


「セキは、うみではしなない。」



だから大丈夫だ、と。

真っ直ぐ、曇りのない目でそう告げるクロに、クウヤは凶悪に顔を歪めながら歯を食い縛った。




空は未だ厚く黒い曇天。

海は、荒れ模様。



嵐が、世界を飲み干した。


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