セーラー服と嵐・1
その日は、半日は大宴会だった。
自分達の頭であるセキの宿敵であるクウヤが居るのにも構わず、まるで新しい仲間を歓迎するかのように大騒ぎする海賊達。
セキもクロも、もちろんクウヤも最初こそ呆れ返ってはいたが、その中心にいるのが夜であったから何も言えず仕舞い。
「あー、頭ー!!飲みましょうよ!!」
「てめ、獅子王!何を高みの見物気取ってやがんだ、あぁ!?潰してやるからてめぇも飲めや、コラァ!!!」
「クロさんクロさん!!クロさんもたまには飲んで下さいよ!とっておきの酒、あるんスよ!」
「サラクさんも!!いーじゃないスか、今日くらい!サラクさんが飲めるヤツもあるんですってば!!!」
最初からハイペースで飲んでいたせいで異常に高いテンション。
名を呼ばれた四人は最初こそひきつった顔をしていたものの、いつの間にかその輪の中へと引きずり込まれていた。
周りが酒を呑む中、夜は唯一ジュースのようなものを貰い飲みながら、まだ日が暮れない内から飲んだくれる人達を見てただただ苦笑。
「よーる!!なに飲んでんだよ?」
「ジュース。」
「何だよ、お前も飲めよー。」
「飲めません。」
酒の匂いとその場の熱気だけで酔いそうになった夜が潮風にでも当たろうと席を立つと、目敏くそれを見つけたカイが近付いてきて、酔っ払っているのか赤くなった顔で、若干の呂律の回らない口調で話しかけてきた。
「にしてもさー、」
「ん?」
「丸くなったよなー。」
「セキさん?」
「んーん、獅子王。前はマジで刺々しいっつーか近付くなオーラ全開。」
「ふ、はっ・・・そうなんだ。」
そういやそうだった気がする。
話しかけるのなんてあり得ないと思うくらいの空気を醸し出していたクウヤを思い出して、夜は思わず笑った。
「お前のおかげ?」
「そんな事ないと思うけど・・・」
「つか、実際どうなの?獅子王と。」
「へ?」
「・・・いや、だから、」
「あーら、面白そうなお話してるじゃない。私もまーぜて。」
何かを言いかけたカイ。
だがその台詞は簡単に遮られ、かなりの勢いでのし掛かられて甲板に潰されたカイの体。
「ちょ、サラクさん重い重い重い!!出ますから!!色々出ますから!!!」
「んふふ、知らなーい。アタシ悪くないものー。」
あ、ダメだこれ。
とっさにそう察知した夜が少し距離を置いたのはただの防衛本能で。
あきらかに酒に飲まれたであろうサラクから離れた夜は、恐らくは安全だと思われるクウヤの方へ行こうとしたのだが、
「はっ、もうへばってんのか、獅子王さんよー!!」
「てめぇこそ顔見て来いよ、頭と同じ色になってんぞ、セキ!!」
ぴた、と止めた足。
声でわかる二人の喧嘩腰の怒声は、近付いてはいけない事を教えてくれて。
思わず後ずさった夜の背中に、とん、と何かが触れたのはその時。
「わ、っ」
「すまない、だいじょうぶか?」
「ありゃ、クロさんだ。」
後ろに居た人物がクロだと気付いた夜がすみません大丈夫です、と頭を下げれば、目元を緩めて頭を撫でる手。
「ふふ、クロさんも避難組ですか?」
「とくいじゃ、ないからな。」
「何となく分かります。」
遠くから宴会を眺めれば、それは正しく宴という名の大騒ぎ。
さすがにずっと混ざっているのはまだ無理だと苦笑した夜に、クロは優しい目をしたまま話しかけた。
「さきに、やすむか?」
「あ、でも片付けまではいますよ。」
「どうせあしたやるからだいじょうぶ。けがもあるし、やすんだほうがいい。」
空は程よく暗くなっていて、もう寝るにはいい時間。
クロの言葉にそれじゃあと甘える事にした夜は、クロを見上げて笑みを送った。
「じゃあ、おやすみなさい。クロさん、また明日。」
頭を下げ、それだけ告げた夜は誰にも見つからないようにこっそりと甲板を後にして。
その背を見ていたクロの頭には、夜の言葉が回っていた。
「また、あした・・・」
あたり前のような言葉も、クロにとっては新鮮で。
初めてだろうその言われた言葉を何度も何度も繰り返し思い返し、思わず緩む頬に気付いたクロは慌てて襟元に顔を深く埋めた。
何気ない言葉がこれ程に嬉しいのか、と。
誰にもばれないように、ただただ繰り返した。




