セーラー服と海賊・21
サラクに微笑まれ笑みを返した夜の顔は、どことなしに強さを帯びていた。
柔らかいだけだった笑顔に足された、端から見ても分かるその強さに、思わず鼓動を高鳴らせたのは真正面からそれを見たサラクで。
ほんの僅かの時間に変わっていく表情達に、サラクはただただ魅せられた。
「若いっていーわー。」
「サラクさんだって、充分若いじゃないですか。」
冗談だと思ったのだろう、思わず吹き出した夜を見てサラクは思わず苦笑を浮かべる。
そのままサラクが黙ってしまったのを確認した夜は一度深呼吸をしてから、目を閉じて心を一度落ち着ける動作に入った。
争いは、嫌いだった。
人を傷付ける事が、苦手だった。
言いたい事も我慢する事が多く、人の顔色を見ながら言葉を選んでいた。
当たり障りなく、人に嫌われないように。
誰かに嫌われる事が怖くて怖くて、だからさっきまで"そうしよう"と、思ってた。
思って、いたんだ。
だけど、
だけど、
だけど、真正面から言葉をぶつけてくる人達に、そうする余裕なんてないことに気付いたんだ。
気付いて、
決めたんだ。
「もういいや。嫌われてもいい、怒られてもいい。その代わり、私も嫌うし私も怒るし。
そしたら喧嘩しよう。
誰も手ぇ出されないように、サシで喧嘩しようよ。
で、仲直りしよう。」
うん、決めた。私が決めた。今、そう決めた。
止まることなく言葉を告げた夜に、誰も口を挟む隙などなく。
言い終わった夜は、今日一番であろう全開の笑顔をクウヤとセキに向けて放った。
そして同じ笑顔をサラクとクロにも向けて告げ、くるりと踵を返して今度はカイの元へと向かった。
その、背に。
クウヤの呆れ返った苦笑が送られたのはその直後だった。
その事など露も知らない夜は、気になって仕方がなかったらしく近場でうろうろしていたカイの所にすぐに辿り着くと、夜よりも若干高い所にある頭に手を伸ばすとそのままぐしゃぐしゃとカイの頭を撫で回した。
「ちょっ・・・よ、夜!!なにしてやがんだ、お前!!!」
「ん?いや、お礼のつもり。」
「ただの嫌がらせじゃねーか!!なんだよ、さっきまでワンワン大泣きしてやがったくせに!!」
「ちょ、それ忘れて!すごい恥ずかしい!めっちゃ恥ずかしい!!」
「ったく・・・で?もういいのかよ?スッキリした顔してっけど。」
「おかげさまで、もうばっちりスッキリ。」
ぐ、と親指を立てた夜にカイはしっかりと呆れ顔を向けてから、今度はお返しとばかりに夜の頭をぐしゃぐしゃに撫でてやった。
「そーかそーか。ならよかったですねー、夜ちゃん。いいこいいこ。」
「棒読みな上に若干力が強すぎます、カイ君!!!」
「仕返し仕返し、気にすんな。」
「気にするっての!!!」
軽快な返しに、元気は本格的に回復したのだと理解したカイは、今度はにかっと八重歯を見せながら笑みを浮かべて手を離した。
それからちらっとセキ達の方の様子を伺いつつ、夜の腕を掴んでセキ達の居る方と真逆に引っ張り歩き出すカイ。
「え、ちょ、カイ?」
「ん?いや、チャンスかなー、と。」
「え、ぇ・・・?」
「何でもねーよ。ただ、ちょっと兄貴たちもお前と話してーんだって。」
「兄貴たち・・・って、・・・・・・いやいやいや、私まだ強面さん達に耐性ついていませんが。」
「大丈夫、大丈夫。兄貴たち、すっげーいい人達だから。」
人がよくても顔が怖いんだってば、なんて夜が言い返す間もなく、連れてこられたのは船首近くの甲板。
そこにはせっせと床磨きに精を出す、がっしり筋肉のついた"兄貴たち"の姿。
「兄貴たち!!」
「あぁ?てめ、カイ・・・何サボっていがったんだてめーは!!」
「ちょ、待って待って!!夜!連れて来たんスよ!!!」
その声と共に向けられたのは鋭い眼光。
ひっ、と夜が悲鳴を上げたのと同時くらいにはもう、夜の回りには兄貴たちと思しき人だかり。
「あ、え、と・・・あの、お、お邪魔、してます・・・」
「なんでぇ、近くで見るとホントにちっけーなぁ!」
「腕、ほっせーな。ちゃんと肉を食ってんのか、肉を!!」
「おう、そーいや腹は平気か?ったく、正気じゃねーぜ、戦闘中の頭の前に立つなんざ。」
「いや、でもすげーぜ、実際!俺なんて動けなかったしな!!」
「てめーは動けなかったんじゃなくて動く気がなかったんだろーが!」
「ガハハハ!よーし、てめぇふざけんなゴルァ!!」
「おぅ、やんのかゴルァ!!」
「上等だゴルァ!!」
あれよあれよと、怒濤の会話についていけすに目を白黒させていた夜の存在など忘れてしまったかのようにいきなり始まった喧嘩。
唖然としている夜を尻目に、その場にはあっという間に人垣というなのリングが出来て、怒声や罵声が飛び交い出して。
「・・・ああ、なんだ。」
この人達、挨拶がわりみたいに喧嘩してるんだ、きっと。
クウヤとセキも、思ってることはきっともっと深いものがあるのだろうけど、きっとコレと大差ない感覚でやりあってるんだろう。
そう、気付いたらもうなんだか今度は可笑しくなって。
「ふは、は、・・・っ、」
思わず、本当に思わず吹き出して笑いだした夜。
それに驚いたのはカイがどうしたと問いかければ、夜は可笑しそうに笑い続けながら、笑いすぎて涙目になった目でカイを見た。
「や、もうなんか、男の子だなーって。」
いいな、仲良しだな。
なんて笑う夜に、カイがとんでもなく変な子を見る目を向けたのは、その直後の事だった。




