セーラー服と海賊・19
サラクの問答無用の威圧に気圧され、無言で部屋を追い出される形で後にしたクウヤとセキ。
クロはどうしていいか分からず少し戸惑ってから、サラクと夜に向けて声を発した。
「サラク、まかせていいか?」
「・・・夜ちゃんより、アイツ等のが気になるって訳?」
怒りに任せている所為か、棘を帯びるサラクの言葉。
それに気付いてはいるものの、それでもクロは冷静に言葉を返した。
「おまえが、いるから。・・・サラクがいちばん、このふねでれいせい。」
だから大丈夫だ、と。クロは迷わず口にして、セキとクウヤを追いかけるように部屋を出ていって。
その背を見送ったサラクは、僅かに目を見開いてから苦笑を浮かべた。
「少しも、冷静なんかじゃないわよ。・・・アンタのがよっぽど落ち着いてるわ。」
そして腕の中の夜に視線を落としたサラクは、震える体を落ち着かせるように髪の毛に触れる程度の優しさで頭を撫でる。
未だに嗚咽を漏らす様子を見れば相当怖かったんだろう事は容易く分かって、そのあまりの可哀想な様子にサラクは眉をしかめた。
「夜ちゃん、ごめんなさいね。元々が気性の荒い連中だから、」
喧嘩は日常茶飯事。
流血沙汰なんてそれこそ当たり前。
「口は悪いし、すぐ手は出るし、」
二言目には殺すだ、死ねだ、
その次にはもう、殴り合い。
「それが当然の世界が日常だから、きっと、分かんないのよ。夜ちゃんみたいに普通の子が居る、そういった当たり前が此処の連中にも、獅子王にも。」
自分だってそうだ。
今でさえ、何を言えばいいかなんて分からない。
人を慰めるなんて事、する事はほぼないから。
それでも、その中で、
「何とかして守りたいって、どうにかして笑わせたいって、」
たぶん、きっと、たぶん、
「それぞれ、一応は考えてんのよ。」
まとまらない言葉を口にして、その滑稽さに思わず情けなく笑うサラク。
けれどどうにか伝われと、思い付く限りで言葉を並べる。
そんなサラクの気持ちが伝わったのか、泣き腫らした目をサラクにゆっくりと向けた夜は、戸惑うように視線を揺るがせた。
「サラク、さん、」
「なぁに?」
「どうしたら、対等になれるんでしょうか。」
「え、?」
守られる。
それは確かに嬉しい事で。
だけど、それだけじゃなくて。
「守って貰ってばっかりで、私、結局誰とも真正面から話せてないんです。」
誰かの逆鱗に触れて、別の誰かが助けてくれて。
それのループ。自分じゃ結局、何もしてない。
「もどかしい、情けない、悲しい、」
そして何より、ただただ悔しい。
ふわふわと、太陽の様に笑う子だと思っていた。
激情なんてものは持ち合わせておらず、まるで中和剤のような柔らかな子だと思っていた。
そんな夜が滲み出させた、正に激情とも言える強くはっきりとした感情と表情に、サラクは思わず息を飲む。
「・・・、っ」
夜の威圧に、この子のどこにそんな強さが潜んでいるのかと背筋が戦慄いて。
それと同時に、夜が腕の中から抜け出した。
何を隠そう、その激情に一番驚いていたのは夜本人だった。
"この世界"に来なければ、きっとこんな感情には気付きもせずに生きていったんだろう。
剣道をやっていた時でさえ感じた事がなかった、強くなりたい、という意思。
それは多分、クウヤ達と交わったからこそ沸き上がった思いで、夜はその時、感情のままに足を動かしていた。
「よ、夜ちゃん・・・?」
「ちょっと、喧嘩してきます。」
「は・・・?」
咄嗟に声をかけたサラクに返したのは突拍子もない言葉で、サラクは思わず間抜けな声を上げる。
それすら気にせず、夜はクウヤ、セキ、クロが出ていった扉に向かって足を進める。
「夜ちゃん、ちょ、まっ・・・ッ」
必死に止めようと声を上げるサラクを振り切り、夜の足は扉の外へ。
出ればそこは一本道の廊下。真っ直ぐ進めば甲板へと出れるのは覚えていて。
どこに居るのか、そんな確証はどこにもなかったけれど、夜の足は迷わずその甲板の方へと向いていた。
「ちょ・・・夜ちゃん、待ちなさい!!」
夜の圧力に完全に圧されたサラクが我に反って夜を追いかけたのは少ししてからで、ようやく夜に追い付いたのはもう既に夜が甲板に上がってからの事だった。




