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セーラー服と絆創膏  作者: 柚月
セーラー服と海賊
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セーラー服と海賊・18

「・・・おい、獅子王。てめぇ、いつからそんな格好悪ぃ男に成り下がったんだよ?」

クウヤを見下ろし、セキが言い放つ。

その声色に明らかな侮蔑を感じ取ったクウヤはゆっくりと立ち上がりながら、口のなかを切ったんだろう、口内に溜まった血を吐き出してセキを睨んだ。

「あ"ぁ?」

「女一人に、みっともねぇ執着心出してんじゃねぇよ。」

ぶち、と。

クウヤの中で何かが切れた音が、聞こえないはずなのに聞こえた。

風のような速さでセキとの間合いを詰めたクウヤは、固く握った拳をセキの頬へと叩き付ける。

「っ誰の所為だと思ってんだ、てめぇ・・・!!」

怒声と共に、今度はセキの体が吹き飛ぶ。

その体は少し離れた所に置いてあったテーブルを薙ぎ倒し、凄まじい音を立ててセキと共に倒れて。


だが、セキは間髪入れずに立ち上がると、勢いそのままに拳をクウヤの腹に突き立てる。

よろけたクウヤも間を置かずに蹴りを横っ腹に食らわせると、荒い息の二人は漸く僅かに動きを止めた。


「夜に、手ぇ出しやがったのか。」

「てめえのオンナじゃねーんだろ?」

「・・・てめぇの女でも、ねぇだろうが・・・!」

「何ムキになってんだよ、獅子王サンよぉ。たかが、女1人じゃねーか。」

「ンだと?」

「てめーにとっちゃ、女なんざ取るに足らねーモンなんだろ?」

「いつまでも昔の女の事なんざ、引き摺ってんじゃねぇよ・・・っ」


「・・・・・・・・・あ"ぁ"?」

今度は、セキの中の何かがぶちギレる番だった。


怒り、とはこういうものを言うのだと教えるような、純粋な純粋な業火のような怒り。

それはクウヤとセキ両方から感じられるもので、近くに居た夜は動くことさえ出来ずにただ震えるだけだった。

それどころかもう、クウヤとセキの二人の目には夜の姿なんて映ってはいなかった。

ただその金と緋の目に映るのは、怒りを宿す互いの顔だけ。


刹那、息を吸ったクウヤとセキは再び互いに目掛けて拳を振り上げる。


右頬を殴られれば左頬を殴り、蹴りを喰らわされてバランスを崩されれば、代わりに足を掬って相手も地面に叩き付ける。

口内が切れようが鼻血が出ようが、例え骨に届いただろう鈍い音が聞こえても、例え自分の拳の皮が裂けても、攻撃の手を緩めぬ二人。


殺し合いという名の、盛大な喧嘩だった。


「っ・・・ッ、っ」


堪らないのは夜だ。

少し前まで人の殴られる場面を見る事さえもテレビの中だけでしかなかった夜にとって、鈍く響く殴り合いの音はただの恐怖でしかない。


「ひ、っぅ、」


浮いたのは、涙。


「っ、ぅ、あ・・・っぅ」


溢れるのは、嗚咽。



そして堰を切ったように感情が爆発して、


「うぇぇぇーーーーー・・・・・・ッ!!!」


それはもう子供のように、夜は大声で泣き出した。


両手で両目を拭いながら、天を仰いで嗚咽を漏らす。

それに思わずクウヤとセキが止まったのは、恐らく同時だった。

互いの襟を掴みながら顔を近付けていた両者は夜の泣き声を聞いて視線をそちらに動かし、子供の様に泣きじゃくる夜を見て目を見開き。


どちらも動きを止めたままそれを凝視していた、その時。


「・・・・・・・・・コロスぞ、お前ら。」


ぐ、といきなり首を掴まれたのはほぼ同時。

視線を移せばそこには目がまるで笑っていないにも関わらず口元だけ弧を描かせたサラクの姿。


女のような口調さえせずぎりぎりと首を締め上げるサラクに、クウヤとセキは先程とは別の意味で硬直した。


「テメー等のくだらねえ理由で、何回夜ちゃんを泣かせりゃ気が済むんだ、あぁ?」


泣かせる位なら消えろ。

怖がらせる位なら顔見せんな。


「守れねー位なら、いっそ死んじまえ。」


笑みさえ消したその顔は、二人を黙らせるには十分過ぎる程で。

夜の声を聞いて同時に駆け込んで来たんだろうクロも思わず体を固まらせて、だがサラクはそれを気にも止めずに二人の首から手を離すと夜の元へと歩み寄った。

そこには未だ泣き声を上げる夜の姿があって、サラクはふっと表情を柔らかくすると夜の横へ腰を下ろした。

「ごめんなさいね、夜ちゃん。バカだから・・・ほんと、あの二人バカだから。」

「っひ、ッく・・・ぅえ、ッ」

「ごめんね。やっぱり、見てれば良かった。」

ぎゅ、とサラクが夜を抱き締めたのはその言葉と同時で、文句さえも言えないクウヤは、ぐ、と歯を食い縛った。

それに気付いたサラクはその状態のままクウヤとセキに視線を向け、急に冷めた声をふたりに掛ける。

「出て行け。」

「っ・・・」

「てめー等に何にも言う資格はねえ。いいから、出てけ。」


それは、銀狼という男の静かな怒りの含まれた声。


怒らせるな、と仲間さえも恐れる、静かな猛獣の本気の威圧だった。



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