セーラー服と海賊・16
大丈夫、と繰り返された言葉には驚くほどに強さを感じて、クロはその言葉を告げた夜を目を見開いて見つめた。
見た目からすれば、年はきっと大分離れているんだろう随分と年下の少女なんだ。
けれど放たれる言葉たちはどこか強い意思を持っていて、子供だからなんてあしらえなくて。
「・・・っ、」
ふ、と。
胸に熱い何かが込み上げた。
それは油断すれば目から雫となって溢れ出しそうなもので、クロは拳を強く握ってそれを耐えた。
「、よる、」
僅かに上擦る声。
それに更に動揺しながらも呼んだ名前の主を見るクロ。
夜は名を呼ばれたことで、続く言葉を待つかのように顔をクロに向けたまま口を閉じた。
「・・・セキにも、おなじように、」
同じように、接してほしい。
そして聞こえたのは、そんな台詞。
夜は少し目を見開いて、それから手を伸ばして布の上からクロの両頬を自らの両手で包み込むように触った。
「クロさん、それ、違う。」
「、え・・・」
「それ、違います。」
クロさんには、クロさんに対して接します。
セキさんには、セキさんに対して接します。
「さっき、気付いたんです。セキさんが私を、違う人に重ねて来たときに分かったんです。」
私は、私と接してくれるって事が嬉しいんだ。
「他の誰でもない、私は世界に私だけなんです。他人じゃないんですよ。」
ちゃんと伝わるだろうか、この憤りにも似た激しい程の感情が。
「クロさんがセキさんを大事に思ってるのは分かります。すごく、すごく分かります。だけど、」
だけど、違うんだ。
だけど、そうじゃないんだ。
「クロさんだから、私はこうやって接します。セキさんに対しては、きっと別の接し方をします。
クロさんが言ってくれた優しさを向けたって、セキさんには伝わらない。だって、私はクロさんに言ったんですもん。セキさんに言いたい言葉とは違うんです。」
どこにあるのだろうか、これだけの強さがその小さな体の中のどこに。
ぐ、と顔に当てられた手に促されて顔を反らす事ができないクロは、ただただ夜を見つめた。
「す、ま、ない、・・・」
「はい。」
「・・・ありが、とう、・・・」
「はい。」
「よる、」
「はい?」
「そろそろはな」
「・・・何やってやがんだ、てめぇ。」
離してくれないか、そうクロが言いかけたのを遮って、部屋には瞬時に殺気の渦。
声の主はドアを開けたすぐの所に居て、凶悪な顔でクロを睨んでいた。
「・・・獅子王」
「この船の連中は、どいつもこいつも手癖が悪ぃな。どんな教育してやがんだ、あぁ?」
その声はクウヤのもので、それに気付いた夜はクロから手を離すとクロの横からクウヤの方を覗き込んだ。
「クウヤ?」
「夜、何もされなかったか?」
「何も、って?クロさんは何にもしないよ、クウヤじゃないんだから。」
「・・・・・生意気言うじゃねぇか。」
口調さえ悪いものではあったが、その声には明らかに安堵の色が含まれていて。
殺気を消したクウヤはゆっくりと夜に近付くとクロを押し退けてベッドに腰を掛けた。
「・・・アンタも中々あなどれないわねー。抜け駆け、ずるいわよ?クロ。」
「サラクまできたのか。」
「獅子王の監視。一人でうろつかせる訳にはいかないでしょ?」
「ここ、おれのへや。」
「細かい事、言わないの。」
そんな二人を見て、いつの間にか後から入ってきていたサラクがクロに苦笑しながら話しかける。
目線の先には夜とクウヤの親しげなやり取りが見えているのか、心なしか目は険しい。
「ま、これからだものね。」
「・・・いっしょに、つれていくのか?」
「ここまで来て、いきなり追い出せないでしょ?海よ?ココ。まぁ、あとは船長次第だけどね。」
「そうか。」
クロとサラクのやり取りは小声で、夜とクウヤには聞こえていない。
夜の楽しそうな顔を見てしまえば水を差すのも悪いとさえ思われて、クロとサラクは仕方なく部屋を後にすることにした。
と、ふとあることを思い出したクロが不意に部屋の隅へと足を向けると、そこに置いてあった荷物を夜の居るベッドまで運んだ。
「ここに、おいておく。」
「クロさん、コレは・・・?」
「よるたちの、にもつ。やどやにあったのを、とりあえずもってきた。」
そう言われクロの手元を見れば、なるほどそこには夜とクウヤの荷物があって。
買ってもらったばかりの服などがそこには置かれていた。
「っ、ありがとうございます・・・っ」
「ん。」
忘れてたとばかりに目を見開いき、弾けるような笑顔でお礼を言う夜。
クロはその頭を優しく撫でてから、部屋を後にした。
「あらやだ、抜け目ないわね。」
サラクはそう、小さく毒づいてからクロの後を追うように部屋の外へ。
クウヤと二人きりになった夜は、嬉しそうにクウヤにも笑顔を向けた。
「良かったね!そういえば、全部置いてきちゃったもんねー。」
「アイツと、随分と仲良くなったんだな。」
「アイツ・・・ってクロさん?」
「気に、入らねぇ。」
「・・・・・・何か怒ってる?」
「・・・」
向けた笑顔は一転、クウヤの顔を見て凍りついて。
それから、困ったような笑みを浮かべながらクウヤの頭を撫でる夜。
「よしよし。」
「ガキ扱いすんじゃねぇ。」
「えー?だってこの前まで同級生だったじゃん。同い年だったんだから、子供ですー。」
むす、としたクウヤに、夜は今度は可笑しそうに笑いながら悪態をついた。
その笑顔は怒りなんか全て忘れさせてくれるような温かいもので、クウヤは小さく溜め息を漏らしながら苦笑を浮かべた。
「卑怯。」
「何故!?」
惚れた弱み、とでも言うんだろうか。
笑顔ひとつで、どうでもよくなった。
そんな情けない考えなどバレたくはなかったのか、クウヤは不意に顔を反らすと、夜から目線を外した。




