セーラー服と海賊・15
「カ、カイ?」
「もーお前、ほんとやだ。」
「何が!?」
「何でもねーよ!」
「ええぇぇ!?」
急にしゃがみこんだカイに慌てて夜が声をかければ、返されるのは長い長いため息で。
頭の上のハテナを連発する夜を、カイはもう何も言わずに恨みがましさを若干含めた視線を夜に送った。
「はいるぞ。」
と、不意にドアの外から聞こえた声。
その声の主は返事を待たずにドアを開けると、躊躇わずに足を踏み込んだ。
「「クロさん!」」
名を呼んだのは夜とカイの二人同時の事で、思いの外大きくなってしまったその声にクロは僅かに驚いて一歩後ずさる。
その様子に気付いてもいないんだろう、カイは慌ててクロに駆け寄り、夜も近付けはしなかったがベッドから上体を起こして体をそちらち向けた。
「クロさん、すみませんでした!!大丈夫でしたか!!?」
「クロさん、クロさん!助かりました!ホントに!いやもーホントに!!」
あまりの勢いにクロはしばらく固まって、それから伸ばした手でカイの頭をポンと撫でた。
それに驚いたのはカイで。目を丸くしてクロを見上げたカイにクロは目元を細めて、恐らく微笑んだんだろう。
口元を覆う布の所為で表情さえ見えなかったが、優しい目元がそうなんだろうと伝えてきた。
「おまえが、よびにきてくれてよかった。てまをかけてわるかった。」
心からの言葉なんだろう事は声色で分かって、その瞬間、カイの顔はみるみるうちに真っ赤に染まった。
そしてにやける口元を隠しきれなくなったんだろう、慌ててその口を片手で覆うと、頭を勢い良く下げて部屋から駆け出した。
「・・・・・・カイ?」
唖然としたのはクロだ。
駆け出したカイの背中を見えなくなっても見続けるクロに、堪らず夜が吹き出した。
「ふ、はは・・・っ」
「なんだ?」
「カイね、多分クロさんが大好きなんですよ。」
だから、堪らなく嬉しくて。
だけど、それを言うのはきっと恥ずかしくて。
「慌てて逃げちゃった。ふふ、っかわいーなぁ」
くすくす、笑い声を堪えきれずに漏らす夜にクロは少し首を傾げてから、それから夜の居るベッドの横に足を進めた。
「おまえは、ふしぎだな。」
「へ?」
「ぜんぶ、みすかす。」
「見透か、す・・・?」
言わないこと、隠してること、思ってること。
「ふつうに、きづく。」
気付いて、口にする。
「それが、」
それが多分、
「あったかく、かんじる。」
それを優しさと、きっと言うんだろう。
一つ一つの言葉の意味を、夜はいまいち理解できてはいなかった。
だが、それが誉め言葉なんだとクロの口調で分かった夜は、気恥ずかしげにはにかんだ。
「優しいのは、クロさんじゃないですか。」
「ん?」
「何だかんだで助けてもらってばっかですもん。」
「それは、ただセキをとめただけ。」
「ほら、優しい。」
「なにがだ?」
「誰かの為に動ける人は、やっぱり優しい人なんですよ。」
にまーっと笑う夜に、クロは返す言葉を失って。
仕方なく、カイにしたのと同じように夜の頭をぽん、と撫でた。
「おまえが、やさしいんだろう。」
「えー?・・・んー、んふふふ・・・クロさんの手は落ち着きますねー。」
頭を撫でられた夜は更に嬉しそうに笑いながら、カイの事を思い出す。
なるほど、こんな風に撫でられるのは確かに嬉しい。
「おまえはほんとうに、けいかいしないな。」
「疲れるじゃないですか、そんなの。」
「またおこられるぞ。」
「怒ってくれる人が居るなら、なおさら警戒しなくても大丈夫ですよー。」
「・・・わがまま。」
「よく言われます。」
「・・・・・・、セキに、にてる。」
え、と返す間もなく、夜の目はクロの目に釘付けになる。
それは、優しいのに悲しそうな・・・闇のような漆黒の目だった。
「クロ、さん?」
「セキもわがまま。」
「なんとなく、分かります。」
「でも、」
「でも?」
「やさしくて、つよくて、よわい。」
「・・・・・・、」
口元を緩めているんだろう、クロの口調は柔らかくて。
けれど言葉はどこかその表情に不釣り合いで、その違和感を感じた夜は少し押し黙る。
そして、少し空けてから口を開いた。
「でも、クロさん居るから大丈夫ですよ。」
「、・・・」
「大丈夫。」
言い聞かせるような言葉。
それは決して確信があって言っている言葉ではなかったけれど、
だけど確かに、説得力があった。




