セーラー服と海賊・14
「あのさー、カイ、」
「あー?」
よっこいせ、と抱き上げた夜に声を掛けられたカイは、間の抜けた声を返す。
「・・・アイラさんって、」
「、あ、あー・・・うん、何?」
ふ、と出した名前。
それに確かに動揺した声が返されて。
夜は不意に言葉を止めて、しばらく考えた後に首を横に振った。
「あー、やっぱいいや。」
「何、聞かねーの?」
「うん、なんか、いいや。」
「何で?」
「んー、何か、よく分かんないけど、」
取り敢えず、セキさんに直接聞いた方がいい話題なのかと何となく察した。
口調を変えずあっけらかんと話す夜に、一瞬の間を開けてから盛大なため息を送ったのはカイで。
思わず、なんだよ失礼だな、なんて冗談めかして言う夜に向かい、更に大きめのため息をわざと聞こえるように送りつけてやる。
「なー、」
「何さ。」
「俺、疲れたよー。」
「えええ!?ごめんって!重い?重い!?」
「・・・ちげーよ・・・」
もう、何なのコイツ。
脱力、の二文字がカイの体を駆け抜けて。
再び吐いたため息に、今度は焦り出す夜。
そんな夜を自然と見上げる形になったカイは、不安気な視線を送ってくる夜を見て苦笑した。
何かが、ずれてるんだ。
誰かに対する感覚ってやつが、どこかおかしい。
「危なっかし過ぎじゃね?」
常日頃、一緒に船に居る自分でさえ、"セキ"という人物に底知れない恐怖を感じる時がある。
それは暗い暗い、地獄の底で総てを燃え尽くさんとするような、業火のような恐怖だ。
「触れちゃいけねー"核"が、あの人にはあんだよ。」
それは、誰にでもあるのかもしれない。
だから、ってのもあるんだろう。ソコにわざわざ触れようだなんて、誰も思いもしない。
「なのにお前、簡単に踏み込もうとすんだもんなー。」
言い方は悪いが、それじゃ土足で心ん中を駆け回ってるのと一緒だ。
「何されても、仕方ねーって言われちまうよ?」
真剣な顔で言うのは、セキのことをそれでもそれだけ慕っているの証拠なんだと分かって。
夜は見上げてくるカイの顔をちゃんと真っ直ぐ見返しながら、言葉を発した。
「でも、知りたいし。」
「は、?」
「そりゃ、変に踏み込んだ事聞いたら怒られるかもだしさー、・・・うん、もしかしたら殴り飛ばされたりするかも、だけどさ、」
でも、
「でも、私、知らないから。」
あの人の事、なーんにも。
「でも、私、知りたいから。」
なんとなく、だけど、
「なんてゆーか、ちょっと、気付いたんだ。」
何を、とカイが聞けば、夜はふっと微笑んだ。
「私、人と関わるの嫌いじゃないみたい。」
クウヤと会って、思ったんだ。
「見た目が怖いから、関わってこなかった。あの人はああいう人だって決めつけて、遠くから見てた。・・・まるで、檻の中の猛獣見てるみたいに。
だけど、話してみたらなんか違うの。なんか、ふつーだったの。
それに気付いて、あ、なんか損してたなーって思っちゃったんだよねー。」
ホラ、よく見ると格好いいじゃん。
じーっと見とけば、目の保養になったじゃん。
「勿体なかったーって思ってさー。だから、とりあえず関わっちゃったら関わり尽くしてみることにしてみた。
いや、流石に絶対聞いちゃだめっぽい事なら聞かないけど、」
"アイラさん"の件に関しては、たぶんそーゆーんじゃないと思うから。
明るく話してはいるものの、言葉を選びながら真剣に話しているのは分かって。
カイはす、っと夜を床に下ろすと、夜の頬を両手でぐにっとつねった。
「マジ、ほんと、勘弁して。」
「・・・いひゃい。」
知るか、このバカ。
言いながら夜の頬から手を離したカイは、とん、と夜の体を軽く押して。
うわ、なんて言う間もなく、ぼふ、と音をたてて沈む体。
「頼むから、ゆーっくり静かに休んでて。」
「なんか、カイが怒ってる。」
「怒ってねーし。いーから、休め。」
起き上がろうとする夜をベッドに再び沈め、布団を口元くらいまで無理やりかけるカイ。
「ぅむぎゅ」
「はい、いい子いい子。」
「子供扱い!同い年くらいなのに!」
「いくつ?」
「16。」
「俺、17。俺のが年上ー。」
「1コだけじゃないか!」
「あー、はいはい。」
「なんか上から目線・・・!」
「いいから、休んどけって。また様子見に来てやっから。」
「・・・・・あ、」
「ん?」
言って、部屋から出ようとするカイに、夜が不意に何かを言いたげに目を泳がせる。
それに気付いたカイがどうした、と再び近付いた時、目から上だけを布団から覗かせた夜が小さな声でカイに話しかけた。
「・・・もう少し、話してちゃだめ?」
だって、今までどたばたしてたから。
なんか、なんかね、急に一人はさみしくて。
そう恥ずかしそうに言った夜を見て、一瞬固まったカイ。
そして、その直後。
「・・・・・・・っ、」
頭を抱えて、しゃがみ込んだ。




