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セーラー服と絆創膏  作者: 柚月
セーラー服と海賊
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セーラー服と海賊・13

「っ、」

「っと、逃がさねぇよ?」


咄嗟に逃げようとした夜を軽々と捕まえると、腕を掴んで放り投げるセキ。


夜の体はそのまま部屋の端に置かれたソファに投げ出され、ケガの痛みで思わず呻き声を上げた。


「、ぃ・・・ッ」


浮いた涙は無意識のもので。

そのせいで滲んだ視界にセキが飛び込んできたのはその直後。


ぎし、と軋むソファ。

ずしり、重みを感じる体。


見上げた先に映る赤鬼の顔には何故か余裕など微塵もなく、ただ真剣に夜を見下ろしていた。


「・・・、んで、」

「え、?」

「何で、獅子王を庇った。」


抑揚のない、焦りさえ含んだ声。

体勢的には圧倒的に不利なはずの夜だったが、何故かそれほど不安は感じていなかった。


「何で、自分を投げ捨てられんだ。」

「そ、れ・・・は、」

「何で、笑う。」

「・・・ちょ、落ち着い、」

「何で、笑える。」



何で、何で、何で、何で。


問いかけられているのは夜のはずなのに、それでもやはりセキの目は違うモノを映しているようで。

それに気付いた夜からはもう恐怖が消え、ふ、と伸ばした手でセキの頬に触れた。


「私、貴方の知り合いじゃないですよ。」

「は・・・?」

「私は、私です。貴方が誰に向かって喋ってるのかは分からないですけど、私は私以外の誰でもないですよ。」


ねぇ、何だかよく分からないけれど、


だけど、ねぇ、


「"心配"するなら、直接その人に言ってあげて下さいよ。私に言ったって、何にも意味ないじゃないですか。」


少し、説教口調になったのは、目の前の自分よりも明らかに年上な男が、何故か幼く見えたからで。


「それに、私は後悔なんてしてない。後悔なんてしない。だって、自分が好き勝手に動き回った結果ですもん。自分でやっといて、間違いだった、なんて思いたくない。」


"私は、"


「私は、」


"今、"


「幸せ、ですよ。」



響く声が、過去の記憶とかぶって。

同じ台詞を言う違う顔の女が二人、目の前でダブって見えた。


「出会い自体が、間違いだったんだ・・・っ」


絞り出した台詞は、果たしてどちらに向けて言ったものだったのか。

ぐ、と夜の首を両手で押さえつけたセキは、絞り出すように小さくそう叫んだ。


けれど夜は、不思議と恐怖を感じてはいなかった。


理由は見つからないけれど、それでも確かにセキが危害を加えてくるとは思わなかったから、だ。


「貴方が、」


そしてセキの目を真っ直ぐ見上げ、はっきりとした口調で言葉を続ける。


「貴方がどう思ってたって、関係ない。私は、間違いだなんて思わない。」




こんな広い世界で、せっかく巡り会えたんだから。




まるで、


それはまるで、愛の告白のような台詞だった。


真っ直ぐ自分を見据えながら言われたその言葉に、セキの目は確かに揺らいで。


ふっと夜の首にかけられていた手からは力が抜け、夜の上に乗ったままで夜を見るセキ。

その目が初めてちゃんと自分を映した事に気付いた夜は、自然に笑みを漏らした。


「やっと、目が合った。」

「は、・・・、?」

「嫌ったっていいけど、ちゃんと"私"を嫌って下さいよ。」


他の人と間違われて嫌われるのは、流石に嫌だ。



そう言う夜をセキは凝視して。

己を傷付けた人間に対して、向けられる目にはまるで敵愾心が感じられない。

それが異常な事なのは、他人を傷付けて生きてきた人間にとったら当たり前に分かって。


「嫌われても、いいってのか。」

「いや、嫌ですけども。でも、少なくとも、私を見てくれてるならそっちのが当然いいにきまってるじゃないですか。」

「殺されても、いいのか。」

「いやいやいや、嫌ですよ!なんで発想がいきなりぶっ飛ぶんですか!!」

「・・・ぶっ飛んでんのは、どっちだよ。」

「それ、どういう、」

「、もう、喋んな。」

「ぁ、え?」


抑揚なく言われた言葉。

それに思わず夜が声を上げるよりも早く、近付いてきたセキの顔。


「ちょ、っ」

「うっせーよ。」


あと、僅か。

ほんの数ミリで顔同士の距離がゼロになる。


その、刹那。



「セキ、とまれ。」


す、と間に差し込まれた手。


「なにをしてる。」


その手は夜の口を覆ったまま、セキの下から夜を引きずり出し。

そのまま夜を自分の方へ引き寄せて、セキとの距離を取ったのはクロだった。


「クロ、」

「セキ、だめだ。このこは、"アイラ"じゃない。」

「っクロ・・・!!」

「おちつけ。たのむから、おちついてくれ。」

「、ッ・・・っ」


何を、話しているのか。

分からぬ夜がきょとんとしながら二人を交互に眺めていれば、不意にクロの手が夜から離されて部屋の外へと繋がるドアの方へと押されて。


す、とタイミング良く空いたそのドアから出てきた手に腕を掴まれた夜は瞬く間に部屋の外へ。

夜が外に出ればすぐにそのドアは閉められて、唖然としていた夜にかけられたのは、安心したような泣き出しそうなそんな声。


「夜、大丈夫か!?」

「カ、カイ・・・、?」

「俺・・・悪い。頭には逆らえねーし、だから、その、」

「クロさん、呼んでくれた、の?」

「頭に対等で意見できんの、クロさんしかいねーから・・・。でも、俺、・・・悪い・・・」

「な、何で!?何で謝られてんの!?」


だって、助けてくれたじゃん。

クロさん、呼んでくれたじゃん。


「声、出せなかった。」


ちょっとピンチだった。


「ほんと、」


ほんとに、


「ありがとー。」



その時気付いた。

腰が、抜けてた。


「あ、はは。腰抜けたー。助けてー。」

「・・・お前、ほんと、まじですげー・・・」



呆れた声と共に、夜の体が抱き上げられた。

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