セーラー服と海賊
「そろそろ宿でも探すか。」
ツィーリの店を出てからも買い出しは続き、気がつけば空は夕焼け。
必要最低限の装備を手に入れたクウヤは、夜に向けてそう告げた。
「宿・・・」
「どうした?」
「いや、何か本格的に冒険って感じを実感。」
「何、変な事言ってやがんだよ。」
ほら行くぞ、なんて急かされて、再び歩き出す足。
何でそんなに焦るのかと聞いてみれば、どうやら夜になるとそれなりに治安が悪くなるという事らしい。
「喧嘩とか?」
「日常茶飯事だな。ツィーリの店の辺りは大人しいが、ここはあそことは街の反対側。どっちかっつーと、気の荒い連中が多いんだよ。」
「何でそんなトコで宿探し・・・?」
「安いからに決まってんだろーが。」
ないわけじゃねぇが、節約するに越した事はねぇ。
そんな主婦みたいなセリフをクウヤの口から聞いたものだから、夜は思わず吹き出した。
「ふ、は・・・はっ・・・っ!」
「てめ・・・夜!何笑ってやがんだよ!」
「いや、なんか・・・あはは・・・っ」
笑いが止まらなくなった夜に、クウヤは一睨みきかせると、目についた宿に半ば強引に夜の手を引きながら入る。
その間にも夜の笑いは納まりがつかず、クウヤの顔つきは店主の男が強ばるほどに凶悪になって。
「・・・部屋を二つ。」
「っす、すみませんね、ダンナ・・・、きょ、今日はもういっぱいで、一部屋しか空きがねーんでさぁ・・・っ」
怯えながら言う店主に、クウヤは舌打ちを一つ。
それから、仕方がないから別の宿をと踵を返そうとしたクウヤに、まだ怯えながらも店主が慌てて声をかけた。
「ほ・・・っ他の宿ももう空きがねぇと思いますぜ!!」
聞けば、どうやら団体の客が入っているらしく。
一部屋空いているだけでも奇跡なのだという。
それにため息を漏らしたクウヤは、再び店主に向き直るとカウンターに荷物を置いた。
「じゃあ、仕方ねぇな。その部屋、借りれるか。」
「へ、へい!もちろんでさぁ!!!」
その、時。
ぴたりと止んだ夜の笑い声。
「・・・え?」
「一部屋しかねぇんだと。仕方ねぇよな?」
笑われていた腹いせのように、凶悪な笑顔を夜に向けたクウヤ。
さぁ、と顔が青くなったのはその直後で、慌てて逃げ出そうとする夜を俵担ぎにしたクウヤは、部屋の鍵を受け取って部屋へと向かう階段を登り始めた。
「い、いやいやいや!もしかしたら他に空いてる宿が・・・!」
「もう暗ぇし、今から探すのは無理だろ。」
否が応でも抵抗する程の力はなく、唯一の願いを込めて店主に助けを求めてみれば、ご愁傷様とばかりに店主は合掌。
「っ・・・ひとでなしー!!!」
むなしい叫びはかき消され、たどり着いた部屋のベッドの上に投げ出される夜。
「わ、ぷ・・・っ」
「お前はそこで寝ろ。俺はこっちで寝るからよ。」
「・・・え、・・・?」
「何て顔してんだよ?何にもしねぇから、安心しとけ。」
笑った罰だとばかりに、怯えた顔をした夜にタオルを投げて渡すクウヤ。
からかわれたんだと気付いた夜は、顔を真っ赤にしながら備え付けの風呂場があるらしき方へと猛ダッシュ。
「っクウヤの馬鹿!!!」
そんな捨て台詞の後に、勢いよく戸が閉められる音が聞こえ。
クウヤはくつくつ笑いながら、自分が寝床にすると言ったソファに横になった。
「何もしねぇ・・・か」
よく言えたもんだと、自分の手のひらで顔を覆いながら苦笑を漏らす。
「頼むから、」
保ってくれよ、理性。
小さい呟きは、夜には届かず静かに消えていった。




