セーラー服と不良君
それはいつも通りの毎日の中の1日のはずだった。こんな書き出しで始まるような1日は、もちろん何かあるわけで。
朝日 夜、16歳。花も恥じらう・・・なんて今時言わないかもしれないが、それでもその言葉を付け足してしまいたくなる高校一年生。
母親の思いつきでつけられた冗談のような名前が悩みの彼女は、たった今もう一つ悩みを増やしたとこだった。
「・・・・・」
「・・・何、見てんだよ。」
いつも一緒に行動している友人が生憎のお休みな今日、一人でちょっとのんびりしていた所為で授業に遅れそうだった夜は近道すべく校舎の裏側にある渡り廊下を走っていた。
それが、運の尽き。
思いも寄らぬ人物に出くわした夜は、足に急ブレーキをかけて立ち止まる。
「・・・おい、聞いてんのか。」
「っ・・・!!」
低い低い、威嚇を込めた声に思わず肩が跳ねる。
普通の人からじゃまず感じる事がないだろう純粋な恐怖に足が震えた。
夜の目の前に居たのは、渡り廊下の手すりに寄りかかり煙草をふかす金髪のヤンキー。
志士臣 クウヤ(ししお くうや)。
夜のクラスメートでもある彼が授業に出ているところを見た事もないのに、そんな彼が今目の前に居て。
そもそも不良的な方達とはめっきり無縁の夜にとって、目の前の志士臣ははっきり言って別世界の人。
そんな志士臣に声を掛けられたものだから、夜はどうしていいか分からない。
「ちっ・・・、おい朝日、」
「っ、な、なんで、名前・・・っ」
「同じクラスだろーが。」
「あ、ぇ・・・ぅ、」
「・・・ンなビビんねーでも、女に手は出さねーよ。」
さっさと行けとばかりに手をヒラヒラさせる志士臣に、夜ははっきりと安堵の息を漏らす。
そしてそれならさっさと通り過ぎようと足を動かそうとしたのだが、
その足は、再び止まった。
「、ぁ・・・」
「あ゛ぁ??」
「っ・・・」
濁点などつかないはずの「あ」に何故か濁点を付けられて凄まれ、再度肩を跳ねさせる夜。
けれど今度は夜は自分から近付き、頭一個分程ある志士臣の額へ手を伸ばした。
「・・・何、してんだよ?」
その行動に、志士臣の声には動揺が含まれた。
それに気づかない夜は、それでも伸ばした手に持ったハンカチを志士臣の額に当てる。
「・・・血、が、出てる、よ」
痛くないの?と自分の方が痛そうに眉根を寄せる夜。
震えてる手は未だ恐怖を感じているのを教えてくれて、それでも傷口に当てられたままの手に、志士臣は思わず硬直。
手にしていた吸いかけの煙草を思わず地面に落としてしまった事にさえ気付かず、ただ見下ろす同級生の顔。
必死な顔に、ただ見入っていた。
その、時だ。
「志士臣くんのカノジョー??」
馬鹿にした響きを含んだ、にやついた声。
取り巻く影に気付いた時には既に遅く、振り下ろされる角材。
「喧嘩の続きしよーぜー?さっきの倍、人数集めたから・・・さぁ!!!」
気合いの入った語尾で、更に威力を込められる凶器。
とっさに、志士臣は夜を抱き締めた。
簡単に腕に収まる体。
訳も分からず見開かれた目。
ただ感じたのは、
胸の熱。
痛みを想定して、志士臣は固く目を閉じ、腕の中の夜を更に強く抱き締めた、
その、刹那。
志士臣の胸元が赤い光を眩く走らせ、辺り一面がその赤に包まれて。
堪らず志士臣と夜を取り囲んだ不良達が目をつむり、二人から後退るように離れた。
「、まさか・・・っ!!!」
響いたのは志士臣の声。
眩しさに目を閉じていた夜にもそれが聞こえ、思わず目を開いた、その時。
弾けた光と、衝撃。
それからすぐにそれらは収まり、恐る恐る目を開けた不良達の目の前からは、志士臣と夜も消えていた。
「な、にが・・・」
茫然と呟いたのは誰だったか。
ただただ立ち尽くした彼らが何とか動き出せたのは、しばらくしてたまたま通りかかった先生に見つかってからで。
誰も、何も分からないまま1日は幕を閉じていった。




