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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

お高いのでしょう?

不当婚約破棄ならお布施次第、最強縁切巫女が断罪します

作者: りょうくん
掲載日:2026/07/09



「お前との婚約破棄する!」


 貴族学園の一年締めくくりのダンスパーティーで、皇太子が公爵令嬢キャロリーナに向かってそう宣言した。


 パーティーに参加していた貴族たちが一斉にざわめく。最近皇太子が婚約者である公爵令嬢と不仲で、かわりに聖女と深い仲になっていることは、学園の誰もが知っていた。


 だが皇太子と公爵令嬢は王命。それがひっくり返るはずないと皆思っていたからだ。


「お前は事もあろうに、聖女であるエスターニャを常日頃からイジメ、先日ついに階段から突き落としたな?


 俺がたまたま通りかからなければ、エスターニャは命を落としていたかも知れないのだぞ」



「私はそんなことはしておりませんわ!」


「お前はまさか聖女であるエスターニャが嘘を言っているというのか?あり得ない!」


「そんな!私は本当になにもしていないのです!信じて下さい!」


 必死にキャロリーナが訴えるが、皇太子は聞く耳を持たない。皇太子の右腕には聖女がぴたりと寄り添っていた。


「黙れ!お前のような悪女は害にしかならん。

 今を持って学園から追放する!

 すぐに国からも追放してやるからな、首を洗って待っていろ!

 衛兵、この女をつまみ出せ!!」


 止めどない涙を流し、キャロリーナはがくりと肩を落とした。


 キャロリーナを無慈悲に衛兵たちが、引きずるように学園から追い出した。


「……どうしたらいいの?」

 公爵家に戻ろうにも、どちらに進めばいいのかさえ、キャロリーナにはわからない。


 公爵家の馬車呼んでくれと衛兵に頼んでも無視される。


 冬の冷たい風が容赦なくキャロリーナに吹き荒ぶ。

 このまま立っていては凍えてしまう。


 失意のキャロリーナは街へと消えていった。






「……ひもじいですね」

 ボロの巫女服を着た少女がポツリと呟いた。

 今は夕方。昼からなにも食べていないので、おなかは鳴りっぱなしだ。 


「もっと内職を増やしましょうか」

 初老の痩せ細った老人が手を動かしながら答えた。


 ここは王都のスラム近くにある古びた神殿。

 少女と老人が、せっせと縫い物に勤しんでいた。


「出来ました!」

 巫女の少女、メルは綺麗に編み込んだレースの襟を汚さないように風呂敷包んで、神殿長である老人の作業の様子を確認する。


 神殿長が編んでいるレース編みはまさに芸術。内職歴三十年の大ベテランで、襟一つで一週間は食べていける金額を稼ぐ。


 ただ問題なのは、技巧を凝らした作品のため、作成期間が一週間はかかることだ。


 物価高騰もあり、内職だけは食費はいつもギリギリ、寒さをしのぐ薪もなかなか買えなかった。


「神殿長のも、もうすぐできそうですね。それができたら薪を買いましょう。

 こっちは納入してきます。

 買い出しは、いつもの黒パンでいいですよね?」


「はい、お願いします」

「それでは行ってきますね」


 メルは年季のはいった上掛けをまとい、夕暮れの街をすいすいと駆け抜けていく。

 寒くてゆっくり歩いていられないからだ。


 目指すは割と有名な婦人服専門店。

 店の営業は終わっている時間だったので、作業場のドアをノックする。


 中から針子のひとりが出てきて、商品の受け渡しを頼んだ。


 メルが作った襟は銀貨一枚。固い黒パンなら十個は買える。メルはそのままパン屋によって黒パンを買った。 


 一食黒パンひとつのわびしい食事だが、

 今回なんとかお昼を一食抜いただけで済んでよかったとメルは安堵する。


 メルは足早に神殿へと戻っていく。


 神殿の前には最高級シルクのドレスを着たキャロリーナが行き倒れていた。キャロリーナは街をさ迷い続け疲れきって動けなくなったのだ。


「お姉さん、お姉さん。大丈夫ですか?」

「……」

「お姉さん、このままだと死んじゃうから神殿の中に入りましょう。はい肩に掴まって」


 メルはキャロリーナに肩をかしてヨロヨロと神殿の中に入る。


「……これが神殿?」

 扉、屋根や壁。補修されていないところがない倒壊危険度が高そうな家屋が目の前にあった。


「はい。縁切り神殿にようこそ!」

「縁切り?」

 キャロリーナはその単語に学園で浴びせられた罵倒を思い出し、ぶるりと震えた。


「お帰り、そのかたは?」

 神殿長が作業の手を止めてキャロリーナを見上げた。


「お客様です」

「ほう、それはよういらっしゃいましたな。まずは暖炉にあたってくだされ」


 神殿長は自分が座っていた椅子にキャロリーナを座らせた。暖炉といっても小さな炭が燃えている程度なのであまり暖かくならない。風があたらないだけ、外よりはまし。そんな程度だ。


 炭の上で暖めていたポットから、欠けたカップに注がれたのは白湯。

 メルからカップを渡されたキャロリーナは、冷えきった手をそれで暖める。


「おくつろぎながら、聞いてくだされ。

 この神殿は不当な扱いを受けしものが、さ迷いたどり着く神殿です。


 貴女は何も悪くありません。お辛かったでしょう。

 なにがありましたか?

 よろしければ、私たちお話しくだされ。

 力になりますぞ」


 神殿長はキャロリーナの隣にそっと寄り添い穏やかに話しかけた。その年老いた瞳は優しげに揺れており、キャロリーナは泣きたくなった。枯れたと思っていた涙が溢れる。


「…わた…し…なにも…してなっ…」

「大丈夫です。神も私も知っています。貴女は何も悪くありません」

 メルもキャロリーナの隣に寄り添い、そっとハンカチを渡す。


「うっ…うぐっ……」

 キャロリーナは悪くない。その一言が心にしみた。学園では誰もかばってくれず、衛兵にさえすげなく追い出された。


 キャロリーナはひとしきり泣いた後、最悪のダンスパーティーでの出来事をポツリポツリと話し始めた。




「皇太子様が、そんなことを?酷すぎます!この国の未来が心配だわ」

 メルはプンプンと怒りながら、薄い塩と庭で栽培している薬草が入ったスープをよそった。


「聖女のあまりよろしくない噂を聞いていましたが、そのようなことをしでかしているとは……どうぞおあがり下さい。具のあまりないスープですが、暖まりますぞ」


「ありがとう」

 キャロリーナはスープを受け取り素直に口にする。

 次期王妃として普段から孤児院へのボランティアを行っていたので、その粗末な食事に抵抗はなかった。


「婚約解消はもうどうでもいいのです。ただ悪女として断罪さられたらどうしたらいいのでしょうか…家族にも迷惑がかかりますわ」


「キャロリーナさんのお気持ち次第ですが、なんとかなりますよ」

 塞ぎ込むキャロリーナにメルが明るく励ました。


「気持ち次第?なんとかなるって、私は公爵令嬢ですが、皇太子様ほどの権力者に目をつけられて無事でいられませんわ」


「大丈夫、縁を切ればいいんです。皇太子だろうが、ワンパンですよ」

 フンスッとメルが胸をはって答える。


「メル、きちんと説明せねば伝わらんぞ。

 キャロリーナ殿。

 ここは不当な扱いを受けしものが、一度だけ願いを叶えられる神殿です。奉りたもう神は縁切りの神様。


 あらゆる縁を切ることができます。

 貴女が望むなら」


「あらゆる?皇太子様とは向こうから縁を切られましたし、聖女とはもう会いたくないので、縁を切りたいですけど……」


「こちらの神殿の神器で縁を切ると、貴女にまったく関わることが出来なくなります。つまり新たな嫌がらせ、国外追放などが出来なくなり、貴女に会うことさえ出来なくなります」


「本当ですか?」


「はい。本当です。さらに追加オプションで、復讐することが可能です」


「はいはーい、皇太子様と王家の縁切りはどうですか?」

 メルが手を上げて提案する。


「王家との縁切り?先ほどからの話から察するに王族でなくなるということですか?」


「さすがです、キャロリーナ様」


「ふふふ。そう、王族でなくなるの。本当だったら国のためになりますわね」

 黒い笑みを浮かべるキャロリーナ。


「最高復讐オプションだとこの世と縁切りってのもありますよ。あまりお勧めしませんけど」


「この世と縁切り?それは死ぬってことでは?」

「はい。その通りです」


「さすがにそこまでは後味が悪いわ」


「そうですな。皇太子様ならお勧めオプションは

 王族と縁切り、権力と縁切り、聖女と縁切りあたりでどうでしょう?」


 神殿長がスープをすすりながらまとめる。


「いいですわね」

 元気がでてきたキャロリーナもスープを平らげた。すかさずメルがお代わりをよそう。


「聖女なら、権力と縁切りで十分復讐できますが、教会とも切っておけば万全かと」


「そうですわね。オプションはとてもいいのですが、お高いのでしょう?」

 ちらりと神殿長を見てキャロリーナは尋ねた。


「そうですな。王族との縁切りが一番お高い。お布施代として合わせてざっと白銀貨三十枚」


「お高いですわね。公爵家の一年の税収の二十%くらいですわね。払えない額ではありませんけど」


「他に不当な扱いを受けし方をご紹介いただければ、なんと三%オフ!しかも分割払いも可能です!」


「払いますわ!それでこの国が救われるのなら父も許してくださるわ。ところでご紹介は一件つき三%オフかしら」

 王妃教育をしっかり受けていたキャロリーナの目がキラリと光る。


「はい。ただしご紹介は五件までとなっています」

「わかりましたわ。成功報酬として後払い。分割払いでお願いしますわ」


 キャロリーナはにっこり笑った。あれほど泣いていたのに。

 神殿長と巫女であるメルもにっこり笑う。


「それではまずはキャロリーナさんとの縁切りから始めます」

 チャキリとメルが取り出したのは、このボロ神殿にふさわしくない、キラキラと金色に輝くなぜか高枝ばさみ。


 場所は暖炉のある居間から移って、神が奉られし狭い一室。ちんまりとちいさな石像がボロのテーブルのうえに置かれていた。せめてもの飾りとして神殿長が編んだレース編みが像の下に敷かれている。


「縁切りの神様、不当な扱いを受けしものキャロリーナと皇太子オスカーとの縁を切りたまえ!」


 メルは神像に向かってハサミを掲げあげると

「はっ!チョッキン、キョッキン、キョッキンな!」

 とカチャカチャとハサミを開いたり閉じたりする。


 三度祝詞を唱え終わると、神像が薄く光った。

 メルはキャロリーナに向かってお辞儀した。


「これで縁切りができました」

「はぁ……」

 もう少し派手なものかと思っていたキャロリーナは呆気にとられてそう答えるしかできなかった。



 その後、聖女とキャロリーナと縁切りをし、追加オプションについてメルは神像に語る。


 そして追加オプションであるキャロリーナの復讐が実施された。


「はっ!チョッキン、キョッキン、キョッキンな!

 はっ!チョッキン、キョッキン、キョッキンな!

 はっ!チョッキン、キョッキン、キョッキンな!」


 無事儀式は終わった。


 なんだかキャロリーナはキツネにつままれた気分になった。


 神殿長が叩き起こしてきた知り合いの辻馬車に乗ってキャロリーナは無事に公爵家に戻った。


「キャロリーナ!こんな遅くまでどこに行ってたんだ?学園からお前の良くない噂を聞かされたのだが、一体なにがあった?」


 手をつくしてキャロリーナを探し、帰りを待っていた両親と兄に囲まれ、キャロリーナは深々と頭をさげた。


「すみませんでした。私の力不足で皇太子様との婚約を破棄されてしまいました」


「こんなに薄汚れて。まずは着替えていらっしゃい。話は後でゆっくりと。あなたいいですわね?」

 すぐに問いただそうとした公爵を止め、公爵婦人が毅然と言った。


 キャロリーナはドレスから部屋着に着替えると、普段からの学園での皇太子と関係、ダンスパーティーでの出来事そして不思議な神殿のことを話した。



 その頃。

 王城では皇太子が王から呼びだされていた。


 さきほど夕食の席で、キャロリーナの聖女への悪行を語り、婚約破棄したことを王に告げている。


 王は遺憾を示し、ついでとばかりに願った聖女との婚約も認めてくれた。あとは悪女の国外追放だけだ。


 その件について呼ばれたとおもいこんでいた皇太子に王が告げた言葉は、先ほどとは真逆の言葉だった。


「お前のキャロリーナへの非道を許すことは出来ない。おまえの王位継承権を剥奪。さらに王族からも追放する」


「父上?なにをおっしゃっているのですか?

 先ほどはキャロリーナを悪女と見抜けなかったと後悔されていたではないですか!」


「そうですよ、あなた何をおっしゃっているのですか?」

 王妃も豹変した王に驚き声をあげる。


「うるさい!もう決定した!皇太子は弟のギルバートとする」


「父上!あんなに叔父上を嫌っていたじゃないですか!なぜ!」


 皇太子が言うように、王は生真面目な弟を嫌っていた。贅沢に国費を使いすぎるとか口うるさく、大臣達から信頼されている弟は目の上のたんこぶだ。

 なにかあれば国外へと追いやってしまいたいと思っていた。


 だが取り憑かれたかのように口から出てくる言葉を自分でも止められない。



「うるさい!うるさい!皇太子はギルバートだ!

 お前は今後西の塔で幽閉とする!近衛兵!こやつを引っ立てろ!」

 癇癪を起こして王が叫ぶ。


 王の命令に従った近衛兵が元皇太子を引きずっていく。

「父上!なぜだ!」


 残された王妃は王にすがって懇願したが、王が頷くことはなかった。



 同刻、聖女も教会から叩き出されていた。


「聖女でありながら、皇太子を誘惑し公爵令嬢を罠にはめるとは!お前は聖女ではなく悪女だ!

 教会から出ていけ!」


「はぁぁぁ?たかだか枢機卿のくせに、私を足蹴にしたわね!教皇様を呼んできなさい!

 だいたいはめたとかって証拠はあるの?証拠出しなさいよ」

 聖女は聖女らしからぬ表情で、対峙した枢機卿をねめつける。


「教皇様も同じ意見だ。証拠など要らぬ!神からのお告げだからな。


 神はたいそうご立腹だ。取るに足らない地方神からお前の悪事を告げられたのだぞ!悪女を聖女として奉りあげた神と揶揄されたと……。

 おお、神よ、許したまえ」


「そんな!地方神ってなによ」

 聖女が叫べど、全く相手にされない。


 聖女が暗躍して破談にした婚約は数しれず。

 婚約破棄した男達からチヤホヤされ、いろいろ貢がせてきた。


 いままで問題が起きなかったのになにが起きたのかわからなかった。なにせ彼女は神を信じていなかったからだ。


 教会から追い出された聖女は、取り巻き達の家に向かった。


 もちろん全く相手にされなかった。

 縁切りの神恐るべし。




「お金はいったらまず薪買いましょう!

 それからお肉、お肉をお供えしましょう!

 いやー、お肉久しぶりですぅ」


 キャロリーナが帰ったあと、メルはウキウキと食器の後片づけをしながら喜ぶ。


 お布施は神との約束事なので、とりっぱぐれることはない。


「大半は借金と神殿の修理でとんでしまいますけどね。たまにはお肉もいいですね」

 ちくちくと内職をしながら神殿長が答える。


「お昼におなかすきすぎて、こっそり魔物のスタンピード起きないかなとか願ってしまいました。スタンピードなら神器使えますもんね。お肉もお金も稼げてお得だし」

 てへっとメルは笑いながらぶっちゃけた。


「天災を願ってどうするんですか、全く」


「すみません。でも借金の取り立て日までになんとかなりそうですね。

 キャロリーナさん、ありがとう!馬鹿な皇太子ありがとう!」


「他に被害者を紹介してくれそうですしね。ありがたいことです」

 神殿長も嬉しそうに手を動かした。


 次に縁切りばさみが活躍するのは、キャロリーナの紹介の聖女に婚約者を奪われた令嬢たち。


 そしてメルのお昼の空想が現実に起きたのはこの二ヶ月後。この話はまた別の機会に。



最後までお読みいただきありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
効果覿面。もはや洗脳に近いのでは。 それにしても父王も息子の言うこと鵜呑みにする愚王っぽいからマトモそうな王弟に代わって、地方神は割りと良いことしたのでは。
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