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大丈夫になりたい

作者: 霜月希侑
掲載日:2026/06/07

「全然大丈夫です」


私はそう言って笑った。


職場でも、病院でも、友人の前でも。心配そうな顔を向けられるたびに、反射のようにその言葉が口から出る。


「最近どう?」


「全然大丈夫です」


「ちゃんと眠れてる?」


「はい、大丈夫です」


嘘だった。


本当は全然大丈夫じゃない。


朝、目が覚めた瞬間から苦しい日がある。何もしていないのに胸の奥が重くて、理由もなく涙が出そうになる日がある。未来を考えるだけで息が詰まり、ふとした瞬間に「消えたい」という言葉が頭をよぎる日もある。


それでも私は笑う。


本当のことを言ったら迷惑をかける気がした。


重い人だと思われる気がした。


嫌われる気がした。


だから、「大丈夫」を何枚も重ねて、本当の気持ちを隠していた。


夜になると、誰にも言えない気持ちをスマホの画面に打ち込む。


病み垢。


名前も顔も知らない誰かがいる場所。


「今日もしんどい」


たった一言投稿すると、見知らぬ誰かが返事をくれる。


「お疲れさま」


「生きているだけで偉いよ」


「無理しないでね」


画面越しの言葉なのに、泣きたくなるほど優しかった。


だけど、優しさだけでは消えないものもあった。


外来にも通った。


薬も飲んだ。


入院もした。


支えてくれる人だっていた。


それなのに、心の奥に沈んだ苦しさだけは、何度波が来ても海底の石みたいに動かなかった。


私は何度も考える。


学校に行けなかったこと。


仕事が続かなかったこと。


人よりできないこと。


消えたくなること。


全部、病気のせいだったらよかったのに、と。


そうしたら自分を責めなくて済むかもしれない。


頑張りが足りなかったわけじゃないと思えるかもしれない。


少しだけ楽になれるかもしれない。


でも現実はそんなに簡単じゃなかった。


病気と自分の境界線は曖昧で、どこからが病気でどこからが私なのかわからなくなる。


私は私を責める。


そしてまた苦しくなる。


その繰り返しだった。


何をしていても、心のどこかで「消えたい」と戦っている。


映画を見ても。


ご飯を食べても。


笑っていても。


楽しそうに見える瞬間でさえ、その気持ちは静かに隣に座っている。


まるで影のように。


消えることなく。


離れることなく。


それでも。


本当にほんの少しだけれど、最近思うことがある。


私は今もここにいる。


大丈夫じゃないまま、生きている。


泣きながらでも。


立ち止まりながらでも。


誰かに助けを求めながらでも。


まだここにいる。


それは決して強さなんかじゃないのかもしれない。


ただ今日を終えただけなのかもしれない。


それでもいい。


今はそれでいい。


大丈夫になれなくても。


今日の私は、今日を生きた。


そして願う。


明日もまた、生きられますように。


いつか胸を張って「大丈夫」と言える日が来ますように。


嘘じゃなく。


取り繕うためでもなく。


心の底から。


その日が来ることを信じきれなくてもいい。


ただ、願うことだけはやめたくない。


だから今日も私は、小さく呟く。


「大丈夫になりたい」


その願いだけを、まだ手放さずにいる。

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― 新着の感想 ―
こんにちは。小説家になろうを始めたばかりの者です。 生きてると苦しいことはたくさんありますよね。 なんか生きるってたしかにしんどいです。みんな多少なり感じてると思います。 この先も霜月希侑さんは書き続…
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