06:日曜朝の魔法少女アニメ
午後七時半。
私はベッドに寝転がって『バーチャル・ドール』にログインしていた。
『バーチャル・ドール』の広場では、たくさんのアバターが友達同士でお喋りしたり、手を振ったり飛び跳ねたりしてる。
ライブステージでは五人の美少女アバターが歌って踊り、みんなキラキラ光る棒を振って応援してる。
そんな賑やかな広場を歩いていると、スマホの画面の上にメッセージが流れた。
『フレンドの「れもん」がログインしました』
「!!」
私は急いでれもんにチャットを送った。
『こんばんは!』
『こんばんは』
れもんから、すぐ返事があった。
『いまどこ? 私の部屋に来ない? トークしよ!』
『いいよ』
私の部屋にやってきたれもんは、黒と白の可愛いドレスを着ていた。
スカートにはフリルがついてて、すっごく素敵。
おまけに、両手に抱いてるウサギのぬいぐるみまで新作っぽい。
このままファッションコンテストに出たら、入賞どころか優勝までありそう。
さすがだなと、私は感心しながら言った。
『通話してもいい?』
いちいち文字を打つのは面倒だから、できれば通話したい。
『いいけど。正体バレたし、もう隠す必要もないと思うから、素の声でいい?』
『もちろん!』
私は通話ボタンを押して、スマホのマイク越しに言った。
「こんばんはー」
「……こんばんは」
おおっ!!
あんなに可愛いアニメ声だったれもんが!
声変わり前の、ちょっと高めな男の子の声でしゃべってる~!!
「なんか、素の声で話すの、恥ずかしいね。男アバターに切り替えようかな。ちょっと待ってて――」
「いやいや、そのままでいいと思うよ!! 美少女アバターから男の子の声がするなんて、面白いじゃん!!」
「そう?」
「うん! 雪村くんって、男アバターも作ってるんだ?」
「うん。天馬や他の友達と話すときに、女アバターを使うわけにはいかないだろ?」
「そんなことないと思うけどな。男アバターはなんていう名前?」
「『カイリ』」
「じゃあさ、雪村くんとは『バーチャル・ドール』で、『カイリ』として知り合ったってことにしてもいい? どうやって雪村くんと知り合ったのか、芽衣ちゃんが知りたがってるんだ」
私のスマホには、『雪村くんのこと、教えてよ!』っていう芽衣ちゃんからのメッセージが届いてる。
学校では「内緒!」で押し通したから、気になって仕方ないみたい。
「ああ、それなら『カイリ』と友達だったってことにしていいよ」
「わかった、ありがとう。それにしてもさ、現実で会えるなんて、すごいよね! まさか、れもんと同じ学校に通うことになるとは思わなかった!」
「おれも。サクラが『五桜学園』って言ったとき、えっ、おれと同じ学校? ってビックリしたよ」
「だよねえ~」
私がれもんだったら、絶対ビックリしてたもん。
「あのさ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
「花崎さんがカバンにつけてるキーホルダーって、まほベリのマジックステッキ?」
まほベリっていうのは、私の好きなアニメ『魔法少女キューティーベリー』のこと。
いまは新シリーズ『魔法少女キューティーアクア』が始まってて、もちろんバッチリ録画設定済み!
「えっ、なんで知ってるの!? 雪村くんも、まほベリのファンなの!?」
「うん。アバターの『れもん』っていう名前も、まほベリに登場する『黄田れもん』から取ったんだ」
「そうだったんだ! 果物のれもんから取ったんだと思ってた! まほアクは見た?」
「見た」
「誰が好き? 私はイルカちゃん! クールだけど照れ屋なのが可愛い! 変身シーンもキラッキラで最高!!」
「おれは主人公のアクアだな。明るくて、いつも前向きだから、見てるとこっちも元気をもらえる」
その後、私たちはアニメについて熱く語り合った。
あのシーンは良かった、あの回は神回だった、あのシリーズのあの子が可愛かった。
昔は同じ魔法少女キューティーシリーズのファンだった子も、学年が上がるにつれて大人っぽくなって、ファンを卒業してしまった。
でもまさか、こんなところに同じまほキューファンがいるなんて!!
どうしよう、私、めちゃくちゃ感激してるよ!!
こうやって誰かと好きなことを思いっきり話し合うのって、超~楽しい!!
気づけば、私たちは30分も話してた。
ようやく話題が途切れたところで、雪村くんが言った。
「花崎さんって、おれより熱心なファンだね。こんなに詳しい人がいるなんて思わなかったよ。まほキューの話は誰ともできなかったから、なんか嬉しい」
「私も私も! また今度、日曜日になったらまほアクの二話について語ろうね!」
私は『喜び』のモーションボタンを押した。
スマホの画面の中で、サクラがぴょんぴょん跳ねている。




