04:私を助けてくれたのは
「どうしたの?」
「さあ」
「忘れちゃったんじゃない?」
壇上で立ち尽くす私を見て、最前列にいる生徒たちが小声で言った。
先生たちは困ったような顔をしている。
私に声をかけるべきか、私を信じて待つべきか、迷っているみたいだった。
どうしよう、みんなが見てるのに。
お父さんもお母さんも見てるのに。
「頑張れー!」
芽衣ちゃんの声が聞こえた。
私と目が合うと、芽衣ちゃんは両手を胸の前で握った。
うん、頑張りたい、頑張りたいんだけど……。
頭の中、真っ白なんだよ。
身体が震えて、目頭が熱くなる。
あ、やばい、泣いちゃう――。
駄目だ、泣くな。
そう思ってるのに、目から勝手に涙があふれてくる。
あんなにいっぱい練習したのに。
恥ずかしい、情けない。
やっぱり私、新入生代表に相応しくなかったんだ。
うつむいた、そのときだった。
「―― 桜の花びらが風に舞い、やわらかな春の日差しが心地よく感じられるこの良き日に、私たち新入生は歴史ある五桜学園の門をくぐりました!!」
突然、大きな声が講堂に響き渡った。
びっくりして、私は顔を上げた。
生徒たちも、先生たちも、驚いた様子で辺りを見回している。
そんな中、新入生の列に混じって、私をまっすぐに見ている人がいた。
――雪村くんだった。
え、いまの声って……雪村くんだったの!?
そういえば、教室で友達とお喋りしていた雪村くんの声とおんなじだ。
でも、どうして、雪村くんが新入生代表挨拶の文章を知ってるの!?
桜の開花状況に合わせて始めの文章を変えたことは、れもんしか知らないはずだよ!?
「落ち着いて!! だいじょうぶ!! あんなに練習したんだから、ちゃんと言える!!」
雪村くんがまた叫んだ。
頑張れって、強い眼差しがそう言ってる。
「…………」
あまりにもびっくりしたせいか、頭から吹き飛んでいた文章が戻ってきた。
そうだ、雪村くんが言った文章の続きは――。
「さ……」
ごくん、と唾を飲み込む。
だいじょうぶ。
全部、思い出した。
いまなら、胸を張って、ちゃんと言える!
「……桜の花びらが風に舞い、やわらかな春の日差しが心地よく感じられるこの良き日に、私たち新入生は歴史ある五桜学園の門をくぐりました。本日は私たち新入生のためにこのような素晴らしい入学式を開いてくださり、ありがとうございます」
しゃんと背筋を伸ばした私を見て、雪村くんがほっとしたように笑った。
ここからだと遠すぎて、どこにいるかわからないけど。
お父さんもお母さんも、安心して涙目になってるかも?
「これまで私たちは多くの人々の力を借りて日々を過ごしてきました。私たちが辛い受験を乗り越え、中学生として新しい第一歩を踏み出すことができるのは、親身になって指導してくださった先生方や、どんな時も支え続けてくれた家族のおかげです。本当に感謝しています」
私は両手をギュッと握って、言葉を続けた。
「これから始まる中学校生活では、悩んだり立ち止まったりしてしまうこともあると思います。不安や緊張もありますが、今までの友達や、新しい友達や先生方と支え合い、助け合いながら充実した毎日を過ごしていきたいと思います」
不思議。
さっきまで何も言えなかったのが嘘だったみたいに、すらすら言える。
それは多分、雪村くんや、芽衣ちゃんが、私を見ていてくれるから。
――そうだ、だいじょうぶ。
私はできる。
応援してくれる人がいるから、頑張れる!!
「――最後になりますが、理事長先生、学園長先生をはじめ、先生方、そして先輩方。私たちはまだまだ未熟で、ご迷惑をおかけすることもあると思います。そのときはどうか暖かい目で見守っていただき、時に優しく、時に厳しく、ご指導くださいますようお願い申し上げます。私たちはこの五桜学園で出会った仲間たちと力を合わせ、共に学び、共に成長していくことを、ここに誓います。新入生代表、花崎日和」




