34:それがいちばん大事なこと
「……あの……」
と、そのとき。
えんりょがちに声をかけてきたのは、うつむいてスマホをいじっていた鈴本くんだった。
私と目が合うと、鈴本くんは何かを決意したような顔でスマホを置き、立ち上がった。
「?」
いつになく真剣な鈴本くんの様子に、おしゃべりしていた久城くんたちも口を閉じた。
「どうしたの、鈴本くん。あっ、うるさかったかな。ごめん」
はしゃぎすぎたかもって、私は反省した。
「うん、たしかにうるさかったけど。でも、おれが言いたいのはそういうことじゃなくて。その、アクキー、いいなって……いや、だからって、くれってわけじゃないんだけど……」
「え? なんて?」
鈴本くんの声はだんだん小さくなっていったから、最後のほうは聞き取れなかった。
「……だから、その。実は……実はさ! おれも、まほアク好きなんだ!!」
鈴本くんは、顔を赤くしながら叫んだ。
「えっ。ほんとに?」
全然そんなふうには見えなかったから、驚いた。
「うん。でも、好きだって言ったらイジられるから、隠してて……せっかくグループに入れたのに、ハブられるのいやだし……」
「………」
暗い顔でうつむいた鈴本くんを見て、胸が痛くなった。
まほアクを馬鹿にするようなことを言ってたのは、鈴本くん自身がそう言われたことがあって、そのノリに合わせるのが『普通』だって思ったのかもしれない。
そんな『普通』なんて、どこにもないのに。
「ハブられたら、オレらのグループに入ればいいじゃん」
重くなった空気を吹き飛ばすように、久城くんが軽い口調で言った。
「え?」
鈴本くんはキョトンとして、顔を上げた。
「好きなものを否定するようなやつらと付き合う必要なんてねーよ。そんなやつらと無理に付き合ったって、疲れるだけだろ。なあ、理玖。鈴本がオレらのグループに入ってもいいよな?」
「うん。いいよ」
雪村くんは、あっさりとうなずいた。
「…………」
鈴本くんは、なんだか泣きそうな顔になって。
キュッと唇を結んでから、また口を開いた。
「……お、おれさ。教室で堂々と『まほアクが好き』って言ったり、花崎とコスプレして踊ってる雪村の動画見て、なんていうか、はげまされたんだ。おれも、隠さなくてもいいんじゃねーかなって思って……だから、言えたのは、雪村のおかげっていうか……その……感謝してる……」
鈴本くんの顔は、どんどん赤くなっていく。
「キャラじゃないって笑われるかもしれねーけどさ。おれ、ゆるふわなキャラグッズとか、可愛いものとかも好きなんだ……」
「………」
雪村くんは目を丸くしてる。
クラスメイトの中に、自分と同じ趣味を持つ人がいるとは思わなかったみたい。
「……鈴本くん。話してくれてありがとう。おれと同じ趣味の人がいるってわかって、嬉しい」
雪村くんは静かに言って、微笑んだ。
「でも、お礼なら、花崎さんに言ってほしい。可愛いものが好きだとか、まほアクのファンだって言えるようになったのは、背中を押してくれた花崎さんのおかげだから」
「えっ? いや、そんな。私はお礼を言われるようなことなんてしてないよ?」
雪村くんに見つめられて、私は慌てて手を振った。
「そう言えるのが、花崎さんのすごいところだよ」
雪村くんは、くすっと笑ってから、また鈴本くんを見た。
「安心して。ここに鈴本くんを馬鹿にする人なんていないから」
そうだよね? という顔で、雪村くんは私たちを見回した。
「もちろん」
「とーぜん!」
私も、芽衣ちゃんも、他のみんなもうなずいた。
「ていうかさ、馬鹿にする意味がわかんないんだけど。可愛いもの好きって、マイナスどころか、むしろ、親しみわくよね?」
「はい。私も可愛いものが好きですから」
芽衣ちゃんに顔を向けられて、聖華ちゃんが微笑む。
「私も好き。別に、可愛いものだけじゃなくてさ。だれが、なにを好きでもいいと思う。私はまほアクが好きだけど、男子向けのロボットアニメとかも見るし」
「私も少年漫画読んでるよ。週刊ジャンボ、大好き! お父さんが買ってきたら、いつもお兄ちゃんと取り合いになるの!」
私と美弦ちゃんも笑った。
私たちの反応を見て、鈴本くんは、なんだかホッとしたような顔になった。
「まほアクが好きなら、ファン同士、これからいっぱい話そうよ。まほアクでだれが好き? おれはアクア」
「私はイルカちゃん!」
私は右手をあげて元気に発言してから、雪村くんと一緒に鈴本くんを見つめた。
「……おれは……クロノかな」
ちょっとだけ恥ずかしそうな顔で、それでも、鈴本くんは答えてくれた。
「クロノ?」
久城くんが首をかしげている。
クロノちゃんはアニメのレギュラーメンバーじゃない。
たまに出てくるモブキャラだ。
それも、悪の組織のしたっぱ――つまり、魔法少女たちの敵役なの。
「おお〜、主役の魔法少女たちじゃなくて、クロノちゃん推しなんだぁ! でも、わかる! 私も好き! 一見クールで『私、なんでもできます』って顔してるのに、実はドジっ子で天然っていうギャップがいいよね!」
「うん、おれもクロノ好き。そうだ、クロノが好きなら、ミナモも好きじゃない?」
ミナモちゃんは、アニメの2話にちょっとだけ出てきたキャラだ。
2話以降は登場しないから、よほどのファンじゃないと覚えてないと思う。
でも。
「うん。ミナモも好き」
私と同じで、すぐに誰のことかわかったらしく、鈴本くんはうなずいた。
「やっぱり」
雪村くんが小さく笑うと、鈴本くんも笑った。
胸の奥がほんのりあたたかくなって、自然と頬がゆるむ。
――好きなことを語り合える仲間が見つかって、よかったね。
そのあと、私たちはファンしか知らないような話で盛り上がった。
「……理玖たち、なんの話してるかわかる?」
「いえ、わかりません」
「私も。クロノとかミナモとかって、だれよ?」
「まほアクのサイトにそんなキャラ、のってなかったよね?」
熱く語り合う私たちの近くで、久城くんたちが会話してる。
「まあ、オレらがわかんなくてもいいか。三人とも、楽しそうだし」
「そうだね」
「本人が楽しいなら、それが一番だよ」
〈了〉
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