03:大ピンチ!
1年1組の教室に行くと、さっき見た男の子が廊下側の席に座っていた。
誰とも話すことなくうつむいて、スマホをいじっている。
あの子も私のクラスメイトになるんだ。
名前、何ていうんだろう?
私は芽衣ちゃんと一緒に黒板に近づいた。
そこに貼ってあった座席表で自分の席を確認してから、彼の名前をチェックする。
廊下側の、前から三番目の席は……『雪村理玖』。
そうか、あの子は雪村くんっていうんだ。
「理玖、おはよー!」
元気の良い挨拶が聞こえて、私は反射的に振り向いた。
雪村くんに声をかけたのは、雪村くんに負けないくらいに格好良い男の子だった。
きちんと制服を着てる雪村くんとは対照的に、派手に制服を着崩してて、髪はつんつん跳ねてる。
「天馬。おはよう」
雪村くんはスマホを机に置いて、ちょっとだけ笑った。
「同じクラスになれて良かったなー」
「うん。安心した」
二人は友達みたいだ。
私と芽衣ちゃんみたいに、小学校が同じだったのかも?
クラス分けの張り紙の前で笑ってたのは、天馬くんと同じクラスになれたのを喜んでたのかな。
雪村くんに注目するのはそこまでにして、私は教室を見回した。
教室の中では、もういくつか仲良しグループができているようだった。
私には芽衣ちゃんがいるから、どこかのグループに入らなきゃ! って焦らなくても良い。
私は芽衣ちゃんと別れて、自分の席に座った。
私の席は教室の廊下側から三番目の列、一番後ろだ。
カバンの中身を机の中に移して、空になったカバンを机の横のフックに引っ掛ける。
スマホを見ると、れもんからメッセージが届いていた。
『入学式、今日だったよね。緊張すると思うけど、頑張ってね! あんなに練習したんだもん、絶対だいじょうぶだよ! 自信もって! ふぁいと~!』
『ありがとう。頑張るね!』
そう返信して、私はふふっと笑った。
れもんが励ましてくれたことが、すごく嬉しかった。
1年1組の担任は玉木という男の先生だった。
玉木先生の話を聞いた後、私たちは講堂へ移動して、入学式が始まった。
理事長先生が話をしたり、祝電が読み上げられたり。
色々あったけれど、頭の中に入ってこない。
バクバク。バクバク。
心臓の音がうるさい。
胃はますます痛くなるし、変な汗が出てくるし、もう倒れそう。
「新入生代表挨拶、花崎日和!」
「!!」
――ついに、私の出番だ!!
「はいっ」
私は息を吸って、大きな声で返事をした。
階段を上り、壇上のマイクの前に立つ。
新入生や在校生が、先生が、保護者たちが――たくさんの人が、私を見ている。
しん、と静まり返った講堂で。
私に向けられる、たくさんの、目、目、目――。
だ、だいじょうぶ。
落ち着け。
入学式のリハーサルだってやったし!
これまで何回も、何十回も、練習してきたんだから!
私はマイクの位置を調整してから、スイッチをオンにした。
さあ、後は声を張って、頭の中の文章を読み上げるだけ!
「――――」
あれ?
おかしい。
あれだけ繰り返した文章が、一生懸命考えた文章が、一文字も出てこない。
落ち着け、落ち着くんだ、私。
カンペがあるから!
だいじょうぶ!!
私は震える手をスカートのポケットに入れて、カンペを取り出そうとした。
でも、いくら探っても、ハンカチしかない。
なんで?
カンペがない!!
どこに行ったの!!?
パニックになりながら思い出す。
入学式が始まる前、私はトイレに行った。
そのときにポケットからハンカチを取り出して、手を拭いて……あ!!
もしかしてハンカチを取り出したとき、カンペがポケットから落ちちゃったのかも!?
最悪だ!!
どうしよう……!!




